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第一巻 第一章 クラシックの世界からやって来た!
第十話 決闘の末
しおりを挟むカノンが腕を振り下ろした瞬間、目の前の空気が張り裂ける音と共にアリアは閃光の中に消えていったのだ!!!!!!
「うわぁぁっ!!」
俺は余りにも明るい光線と雷鳴のような爆音に目と耳をやられ、暫しの時を過ごした。
肌に触れるのは焼けて焦げたコンクリートの熱、そして鼻に突き刺さるのはグツグツと煮えたぎる匂い。
悪いタイプのガスがあたりを埋め尽くし、どうなってるのかが全く分からない。
俺は目の前に広がる地獄のような光景をただただ眺めることしかできなかった。
「あらぁ……気合い入れすぎちゃったわね」
「気合い入れすぎた、じゃないぞカノン! アリアが消えちまったぞ!」
「大丈夫よ! アリアは頑丈だから!」
「頑丈って言ったって……」
「ま、昔はよくアリアと喧嘩をしたものよ。大体、私のカノン砲で吹き飛ばしてたからね!」
カノンは満面の笑み。
この子、サイコパスかな?
と、カノンと言い争っていると、煙の向こうから血線が飛んできたのだ!
俺の体の周りをぐるぐると回ると、ギュッと縛って引っ張ってきやがった!
「ほうれ、アリアの悪あがきが来た」
「うわっ! 助けてカノン!」
「っリュート様! 絶対に逃しはしませんわ!」
煙の払って出てきたのは、全身ボロボロになったアリアだった!
アリアの周りを覆うように真っ赤な壁が出来ているのを見る限り、きっとアリアは血線を紡いで防御壁を作ったんだ!
「あらアリア。まだ動けるの?」
「こほんこほん! 生憎、私は頑丈なものでして!」
アリアは血線を杖のようにしてこちらへと向かってくるが、胸を覆っていた血のブラジャーはぽとぽとと崩れ落ち、杖もアイスの様に溶けていくのだ。
「……まだ、まだ私はやれますわ、どうか、リュート様……」
「嘘おっしゃい。顔が完全に蒼白よ。とりあえず、今回『も』私の勝ちってことで!」
「う、ううっ。つ、次こそは……次こそは勝ちますわ――」
そしてアリアはその場に倒れ、血でできた壁や結界は全て崩れ落ちていった。
アリアの服は自分の血を使っているからなのか、彼女の服は崩れて全て真っ赤な血になった。
俺はスッポンポンになったアリアを見てはならないと目を逸らした。
俺を縛っていた血線も取れ、気づけば自由に動けるようになっていた。
「だ、大丈夫かよ? アリア」
「大丈夫よ。私は忠告したのになぁ。アリア、血線を飛ばして戦うでしょ? あまりにそれを使い続けちゃうと貧血で倒れんのよヴァンパイア種って。昔のアリアは、血線を1本出すだけで貧血で倒れてたのに。あの子にしてはよく頑張った方なんじゃない?」
カノンのヴァイオリンと純銀の弓は、キラキラと流星の煌めきのように消えていく。
今回の演奏者(シンフォニカ)の決闘は、カノンの完全勝利として幕を閉じたのだ。
「さぁて。流石にアリアをここに置きっぱなしは良く無いから、連れていくかぁ。そういえばこの子、家とか借りてるのかしら?」
カノンは貧血で倒れたアリアを起こすと、ぷるんと胸が上下に揺れたのを見てしまった!
「うわっ、バカノン! アリアはおっぱい丸出しなんだから服を着させてやれよ!」
「バカノンって言わないでよ! ――確かに、この子をこのまま運ぶ訳にはいかないわね。リュート、服貸して」
「嫌だよ! なんで貸さなきゃならないんだ!」
「私だって嫌よ! こんな血塗れのアリアに服なんか着せたら、もう二度と着れないじゃない!」
「俺もそうだよ!」
「着てる服を脱ぎなさい。アリアに着せるから」
「俺にパンツ一丁になれと!?」
「そっちの方がまだいいでしょう。流石にアリアを裸は可哀想だし。この子を家まで連れて帰るまでの話よ。我慢できるでしょ?」
「……はぁ。分かった。で、アリアの家はどこなんだ?」
「知らないから、今日はリュートの家に泊めてあげよ!」
「は!? 何勝手に決めてんだよ!」
と、俺はジャケットを脱いでカノンに渡す。
どちらにしても、血線の跡がこびりついてるから、もうこの服はダメだろう。
カノンは俺のジャケットを、血塗れになったアリアに着せてあげ、胸元がギリギリ隠れるまでチャックをあげた。
あのジャケットも初給料で買った良いジャケットではあったが、アリアが裸のまま街を歩いて連れて帰るよりかはマシかと思ったのだ。
ズボンも脱ぎ、俺はパンツ一丁になる。
この季節でこの格好は少し肌寒いが、それは我慢することにしよう。
「で、いいの? リュートの家に行って」
「仕方ないな。一泊だけなら許す」
「わーい!」
「え!? カノンもか!?」
「は!? あったりまえでしょ! リュートとアリアが夜な夜な勤しんでたらたまったものじゃないもの! 私も泊まる! 泊まりたい~!」
駄々を捏ねる赤子のようだ。
――家、まだあんまり片付いてないんだけどなぁ。
「分かった分かった! その代わり、条件がある。部屋は絶対に散策するな。いいな?」
「はーい! わっかりましたぁ!」
世界一信用できない『わっかりましたぁ』を言い放ちやがったカノン。
まぁいい。
何かしようとしたら、一発喰らわせるまでだ。
「なぁカノン。アリアを連れて帰るにしても、これからどうするんだ? ぶっ壊れた駐車場も直さなきゃだし……」
「うぅん。流石にこの壊れ方はまずいわよね……。アリアの結界がここまで脆いとも思ってなかったしなぁ。でも、直すだけの魔力なんて残ってないし」
「また、えっちなことしてやろうか? 魔力が回復するんだろ?」
俺は冗談で指をわきわきする仕草を見せると、
「あんた、次は二つとも捻り潰すわよ? あんたのタマなんざ、いちご狩りみたいに引きちぎったりもできるんだからね?」
ものすっごい剣幕そうな顔で俺を睨みつけてきた。
俺は萎縮して、目を逸らすことしかできなかった。
いや、カノンの目的は俺と子作りすることなんだろうよ。
そんな感じじゃ、いつまで経ってもエッチできんて。
なんて会話をしていると、何処かしらからサイレンの音が聞こえてきた。
この音は間違いない、パトカーの音だ!
「カノン! やべぇぞ警察が来た! 絶対テロだと思われてる!」
「うっ! さすがに警察に捕まるのはまずいわね! リュート、逃げるわよ!」
「お、おい待てカノン! アリアを置いて逃げるつもりかよ?!」
「そんなことするわけないでしょ! アリアは私の大切な友人よ! ほら、リュートも捕まりたくないなら私の手を取って!」
「友人とか、言っておきながら。カノン砲を発射した張本人のくせに」
「あれは決闘だから! 今日の敵は明日の友って四字熟語あるでしょ!」
「ことわざな、それ! しかも、間違ってるし!」
アリアはスースーと寝息をたて、カノンに担がれている。
カノンの差し出された手をとると、彼女は、
「じゃ、行くわよ! ちゃんと捕まってなさいよ!」
そしてカノンは俺の手をぎゅっと握った。
瞬間、俺たちは空を飛んでいたのだ!
この月明かりが眩しい夜、まるで映画のワンシーンにいるかのような錯覚を覚えながら真夜中の街のビルの上を飛び越えていく!
服さえ着ていれば! パンツ一丁でさえなければ誰かに写真を撮ってもらいたい!
「すげぇ! カノン! お前こんなこともできんのかよ!」
「うん! 魔法があればなんでもできるのよ! 良いでしょ、魔法って!」
「あぁ! 最高の気分だぜ! ひゃっほぉぉぉ!!」
俺たちは気付かぬうちに手を強く握り合っていたんだ。
それが擦れるのに抵抗も無く、お互いの距離はどんどんと近くなっていった。
はぁ、なんだよ。
カノンって結構いい奴じゃねぇかよ。
俺はカノンの握った手をさらにギュッと握り締め、心を許したことを暗に伝えてやった。
まぁ、どうせカノンは気づいてないんだろうけどな。
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