ヘタレ女の料理帖

津崎鈴子

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上を向いて歩こう6

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 私を襲った変質者は、私のことを聞き込みしていた男らしい。
でもこんな人見たことないんだけど、意味わかんない。


「あの、誰?」

思い切って聞いてみた。

自分のジャケットをロープ代わりにされ、ベルトも引き抜かれてズボンも途中まで引きずり降ろされて膝をベルトで縛られて転がされている男は、涙目で私に訴えかける。

「誤解なんだ!!!俺は、君を救い出したかったんだ。話を聞いてほしくて」

とんでもなく斜め上の言い訳を真剣に主張する。

周りを取り囲んでいた一同はポカンとするしかない。

「はぁ?」

怒気交じりにヨーコさんがお尻を蹴り上げる。

「何言ってんの、こいつを空き家に連れ込もうとしてたじゃない。嫌がる相手が叫べないように口にタオル当てて声出せないようにしてたよね?それで話を聞いてほしくて? 地球の言葉、わかる?」

 ヨーコさんが氷点下のまなざしで睨み据える。
怒りって、沸騰するばかりでなく、冷気も発するのね…………そして、冷気も湯気のように立ち上って見えるようだ。

「俺は、その札付きのワルから、無垢で可憐なユキさんを救い出したかったんだ」

む…………無垢で可憐???何言ってるんだろうこの人。すごくサムい。

「面識、無いですよね?」

「俺は君を見つめていたよ。あのゴールデンウィークのニュースで映った君を見て脳裏に電撃が走ったんだ。この人は運命の人に違いないってビビビビッって来た!!」

いや、その。感電して頭どうにかなっちゃった電波系?なのかな。とにかくヤバい空気しか感じない。

「ユキちゃんは、この辺の出じゃないから知らないだろうけど、西高のマサキって言ったらヤンキーのボスなんだ。タバコだって中学から吸ってて、喧嘩ばかりしていた。札付きのワルだよ!!可憐な白百合のようなユキちゃんが関わっていい相手じゃないんだ!!目を覚ましてよ」

うっとりと自分が正論を言ってる気になってるけど……。

「あの……。私、あなたのこと全く知りませんし

そのひと言を聞くだけで、男はみるみる赤くして、怒りが沸点に達したようだ。

「だから!!騙されてるんだって!!俺のこと、興味なんて嘘だ!!目の前にマサキがいるから怖くて言えないだけなんだよね?そうだよね!!そうに決まってるよ」

マサキさんを侮辱されて、私の中で何かがブチ切れた。
人間、何かのラインを超えると思いもかけないことをやらかしてしまうようだ。

「マサキさんは不良だったとしましょう。でもあなたは何ですか? 犯罪者ですよ?私、怖かったんです。今も怖いですよ? しかも気持ち悪い。大体、あなたおいくつですか?学校卒業して何年経ちます?いつまで学校のくくりに縛られてるの?馬鹿じゃないの?」

マサキさんの事知りもしないで、自分の考えを押し付けてくるなんて、許せない。

「たまにはまともなこと言うね」

ヨーコさんがにやりと笑っている。その笑顔にマサキさんもタカシさんもドン引きしているが誰も動けない。ヨーコさん、犯人を蹴り上げようとしたとき、警察が到着。チッと舌打ちしたのは見なかったことにしよう。

程なくして、その男は警察に連行された。ただ、縛り方が過剰防衛気味だってヨーコさん警察に注意されていたけど、か弱い女性が縛ったんだったら仕方ないと納得されてた。

「女は得だね」

ぼそっとヨーコさん、つぶやいて舌を出す。

「あの、ヨーコさん、有難うございました」

助けてくれたヨーコさんに感謝だ。ヨーコさんが居なかったら今頃どうなっていたか。

「ああ、今度ミネラルウォーター倍にして返して。変態に投げて飲めなくなった」

地面にはペットボトルが転がっていた。柔らかい容器だったからか地面で割れていた。

あの衝撃は、ヨーコさんが投げたペットボトルが犯人の後頭部に当たったからだったのか。
おかげで犯人脳震盪起こして気絶して助かった。ヨーコさんのコントロールがすごい。

「あたし、ヒールだったから走るの間に合わないな、って思って投げたんだよね。新しい味の奴だったのになぁ。残念」

ちょっと悔しそうだった。

 警察に呼ばれて私も調書をとられた。その時に家に来た新聞の切り抜きの告発文を見せたけど、まだ具体的な被害がないことと、その封筒に今回の変質者の指紋がなかったので一旦返された。

 あの告発文は、別の人間の仕業なんだろうか。

警察の待合のベンチでマサキさんが待ってくれていた。
俺のせいもあるかな、ごめんね、と謝ってくれたけど、マサキさん関係ないよ。

すると、マサキさんがポケットから何か小さいキーホルダーみたいなものを出して私に手渡してくれた。

「今回みたいに近くで守れなかった時の為にこれ、持ってて欲しい」

それは、青い魚の形の防犯ブザーだった。

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