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おとぎ話の裏側に

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むかしむかし、人々は助け合って幸せに暮らしていました。

しかし、ある日とても小さなことで言い争いになったふたりの人間がいて、

それぞれに仲のいい人間がふたりそれぞれに味方して、言い争いはやがて

大きな争いへと変わっていきました。

今まで仲良くしていた人たちも敵味方に分かれて刺々しい空気が国中に

広がっていきました。

人間たちを生み出し、愛し、見守っていた神々はその姿を悲しみ、

心の中に巣食っていた、憎しみや不満や妬みを取り出して、北の地面の裂け目に

捨ててしまいました。すると、捨てられた憎しみや不満、妬みが集まって

大きな悪意という存在になって人々を襲い始めました。

再び脅威にさらされた人間は、神に救いを求め、6柱の神のうち、秩序をつかさどる

ユーラーティが、邪悪な神と化した悪意の塊を滅ぼしたのでした。

そして、人々は幸せに暮らしましたが、ユーラーティ神は、再び邪悪な神が

現れないように、北の裂け目を監視するために神殿を建てて、以来人々は

みんな幸せに暮らせるようになったのでした。 めでたしめでたし。


…………それが、この国に伝わるおとぎ話の一節だと、ファザーンが教えてくれた。

後に、ユーラーティ神殿の北側の裂け目は、嘆きの谷といわれるようになり、

時折噴出される毒を含んだ煙が、滅ぼされた悪意の邪神の名残とされて

人々が谷に近づかないように、大人たちは子供たちに代々伝えていたのだそうだ。

嘆きの谷へ行くためには、ユーラーティの領地を通らなければならない。

どうにかして目立つことなく、谷へ調べに行かなければ。

「こういう調べ事は大人数で行くより身軽なのがひとりでさっくり調べてくるのが

いいと思うんだよね」

まだ傷の癒えきっていないケルドがにっこりとほほ笑んだ。

「そんな……無理しちゃだめです!!」

強がっているのがわかる。あの玄関先に倒れこんでいた光景がよみがえる。

あれだけの負傷がそんなに短期間で元に戻るわけがない。

「では頼みましたよ、ケルド」

無表情にケルドに言葉をかけるファザーン。何とも思ってないはずはないのになぜ!

「ドゥーラ、彼がひとりで行くと判断してくれたのです。実際彼しか出来ないことなのです

ケルドを信じてもらえませんか? 彼はとても優秀な男なのです」

「でも、あれだけの傷がそう簡単に治るなんて思えません!」

私は必至でファザーンに言い募る。怪我人を危険な場所にむやみに送り出すなんて出来ない。

「出来ることならケルドを休ませてやりたい。あなたよりは思っているつもりですよ。

しかし、ケルド以上の調べ事に向いた人間を探すのは並大抵のことではない上に

今は人を探して差し向ける時間がありません。こんな大きな事に発展しているのです。

彼が出来ると言ってくれているのです。私は信じます 」

ファザーンの瞳が潤んでいる。怪我人を差し向ける事を辛く思っているのは同じなのに。

「ごめんなさい……」

うつむき、ぎゅっと拳を握りしめるしかなかった。そんな私の傍にケルドが近づいてきた。

「ドゥーラ、俺、頑張ってくるからさ、帰ってきたら一緒に遊びに行こう? 」

ふと上げた顔の先にケルドがいたずらぽく、ほほ笑んでいる。

「 危ないところに行くんだ。帰ってきた時の楽しみが欲しいからさ 」

その笑顔に、うなづいていた。

「 わかった。お弁当、作って持っていくわ 」

 私と一緒に遊びに行く程度でこんなに喜んでくれるんだったら申し訳ないから

お弁当も張り込んじゃおう。とにかく無事に帰ってきて欲しい。

「え!お弁当まで作ってくれるの?! うわっ、嬉しすぎる!頑張ってくるよ」

お弁当、というのが意外だったのかとても喜んでくれた。

「無理はしなくていいです。祭壇が谷に建設されているか、どんな人間が出入りしているか

その程度の情報でいいですよ。今回は深入りはしないよう慎重に」

ファザーンが指示をする。きびきびしていていつも見ている優しげな雰囲気とはまた違う。

「ケルド、もしもの為にこれを持っていって」

ユーラーティ神殿の秘密の抜け道を網羅した地図を渡した。

あの老師からもらったものだ。

「ドゥーラ、それは?」ファザーンが驚く。

あ、そういえばこの図面を見せるの、初めてだったかも。

「ユーラーティの神殿の北にある森の中の屋敷で、毒物を作っていた老師からもらったの」

ファザーンはその地図を手に取るととても驚いていた。

「よくこんなもの、手に入りましたね……」

ユーラーティ神殿の隠し通路を網羅した地図。確かに関係者であるあの老師が

もしもの時のために渡されていたのだろう。

ファザーンは、私に断りを入れてからその地図を写してケルドに返した。

ケルドは地図を手に取ると、私に、約束、忘れんな、と言い置いて出かけた。

「ではドゥーラ、私たちは、その毒物を生成した老人に会いに行きましょうか」

サラエリーナの飲まされた薬を作ったのはあの老師とみて間違いない。

あの老師ならばきっと解毒薬も作れるはずだ。

ファザーンに頷いた。すると、背後から声がかかる。

「私も連れて行ってもらいますよ、ファザーン、ドゥーラ」

ドアにもたれ掛るように、この屋敷の主、クラーヴィオが立っていた。


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