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途絶えたはずの薬
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クラーヴィオの私室を訪れた私たち三人は、重々しい扉をノックする。
しかし返事はない。もう一度ノックをするが、やはり反応はなかった。
恐る恐るノブに手をかけると、すぅっと扉は開いた。
中には、書物に集中しているクラーヴィオが居た。
「クラーヴィオ、ちょっと聞きたいことがあります」
ファザーンの問いかけに、ふ、と顔を上げ、こちらを見るクラーヴィオは、どこか
疲れているように見える。
「サラエリーナに使用されているのは、製法が途絶えたとされている幻の薬のようです」
その薬は、大昔に禁断の薬として製法を記された書類は全て燃やされたとされていた。
それは、人の心を強固にし、特定の人間の言葉しか受け入れられなくする、
人の心を操る薬なのだそうだ。他の人間は自分を襲いに来る魔物に見えるように
なるのだという。そのような薬の存在を、時の王は恐れ、使用を禁じ、封印したという。
「そんな恐ろしい薬がなんで……」
そうだ。千年に一度の封印が弱まる時に依代よりしろのサラエリーナを意のままに使うために、
逃げ出さないように使われているんだ!!!これが血の通った人間のすることなのか!!
しかも、秩序の神に仕えるもののすることなの?!
私は怒りで気が遠くなりそうだ。薬を扱うものとして許しがたい。
「どこかに、製法を隠匿していたものがいたのでしょうね。そして復元されてしまった」
クラーヴィオは静かにつぶやいた。言葉では言い表せない怒りの波動が部屋を支配する。
「材料は、私が手配した物もあるようです。とても腹立たしい」
売った先を調べていくと、あのユーラーティ神殿に関わりのある人間だった。
オイルディネ、というユーラーティの事務官らしい。
「オルディネ?」
なんか、聞き覚えがある。最近聞いたきがする……。
私は、その名前を思い出そうと必死で頭をひねる。
「そうだ! アダラ、という副司祭長が色々なもみ消しをさせてるっていう事務方の名前」
そういえば、確かに聞いた。オルディネ様でも人殺しのもみ消しまでは出来ないって。
「……事件に絡んでいるのは、ユーラーティ全体のことでは無いようで、一部の暴走した人間の
仕業なのは調べがつきました。しかし、ここまで大掛かりなことを起こそうとは」
ファザーンは、悲しげに心情を吐き出した。
「じゃぁ、その一部をユーラーティの上層部は抑えられていないんだな」
呆れたようにケルドは言った。その言葉にファザーンはそのようですね、と頷いた。
「暴走した人間の頂点に立っているのが、全てに絡む、あのペテン医師のようです」
国一番の名医の地位を手に入れて、それ以上に何を望むのだろうか。
その名医としての地位だって、自らが毒をまき、それを解毒してみせる。
全くの茶番に何人もの人間が人生を狂わされた。絶対に許せない。
「ユーラーティ神殿の教主が知ったら、泣けるだろうなぁ」
ケルドは、呆れ返って言う。
「自分の預かり知らない処とはいえ、このような禍々しい事態になっていて、泣けるなんて
生ぬるい事言っている場合ではありませんよ。多くの人が命の危険にさらされているのです。
首座の教主たるもの、配下の動向をここまで野放しにしたのですから責任は逃れられません。
即刻 教主の身分は剥奪されることでしょうね」
ファザーンは、バッサリと切って捨てたように吐き出した。
その時、ベテランのメイドが、クラーヴィオの部屋にやって来た。
「クラーヴィオ様、客人の処置が終わりました。目を覚まされてました」
その言葉に、客間に急いだ。なにか、話が聞けるといいのだけれど。
客間に入ると、ベッドに半身起こした状態で、顔に包帯を巻かれた老人がこちらに
声をかけて来た。しゃがれた声がさらに疲れていて痛々しく感じる。
「命を救ってくれたそうだな。礼を言わねばなるまい」
顔にかなりの傷を負ってしまっていて、表情はわからない。
「礼を言うのは私ではなくこのドゥーラです」
クラーヴィオの言葉に、老人は少し考え込む。
「ドゥーラ、か。礼を言う」
言葉少なに、老人は礼の言葉を告げる。
「いえ、ここまで運んできてくれたのはクラーヴィオさんで、私は応急手当をしただけです」
「顔の表情が動かせなくてお辛いでしょうが、いくつか質問に答えてください」
容赦ないファザーンの言葉に、でも期限までに時間がないのでぐっとこらえる。
今は、この人の身に何が起こったかを知らなければならない。
それが、この一件を解決するために大切なことなのだと、自分に言い聞かせた。
「なんでも聞け。これしきの痛み、屁でもないわ」
そう言いつつ、顔の縫いあとが痛々しそうだった。
顔を糸で縫い合わせたようだ。顔が引きつって話すのも辛そうだったので、
ファザーンは、首を降るだけで答えられる質問をしていた。
しかし返事はない。もう一度ノックをするが、やはり反応はなかった。
恐る恐るノブに手をかけると、すぅっと扉は開いた。
中には、書物に集中しているクラーヴィオが居た。
「クラーヴィオ、ちょっと聞きたいことがあります」
ファザーンの問いかけに、ふ、と顔を上げ、こちらを見るクラーヴィオは、どこか
疲れているように見える。
「サラエリーナに使用されているのは、製法が途絶えたとされている幻の薬のようです」
その薬は、大昔に禁断の薬として製法を記された書類は全て燃やされたとされていた。
それは、人の心を強固にし、特定の人間の言葉しか受け入れられなくする、
人の心を操る薬なのだそうだ。他の人間は自分を襲いに来る魔物に見えるように
なるのだという。そのような薬の存在を、時の王は恐れ、使用を禁じ、封印したという。
「そんな恐ろしい薬がなんで……」
そうだ。千年に一度の封印が弱まる時に依代よりしろのサラエリーナを意のままに使うために、
逃げ出さないように使われているんだ!!!これが血の通った人間のすることなのか!!
しかも、秩序の神に仕えるもののすることなの?!
私は怒りで気が遠くなりそうだ。薬を扱うものとして許しがたい。
「どこかに、製法を隠匿していたものがいたのでしょうね。そして復元されてしまった」
クラーヴィオは静かにつぶやいた。言葉では言い表せない怒りの波動が部屋を支配する。
「材料は、私が手配した物もあるようです。とても腹立たしい」
売った先を調べていくと、あのユーラーティ神殿に関わりのある人間だった。
オイルディネ、というユーラーティの事務官らしい。
「オルディネ?」
なんか、聞き覚えがある。最近聞いたきがする……。
私は、その名前を思い出そうと必死で頭をひねる。
「そうだ! アダラ、という副司祭長が色々なもみ消しをさせてるっていう事務方の名前」
そういえば、確かに聞いた。オルディネ様でも人殺しのもみ消しまでは出来ないって。
「……事件に絡んでいるのは、ユーラーティ全体のことでは無いようで、一部の暴走した人間の
仕業なのは調べがつきました。しかし、ここまで大掛かりなことを起こそうとは」
ファザーンは、悲しげに心情を吐き出した。
「じゃぁ、その一部をユーラーティの上層部は抑えられていないんだな」
呆れたようにケルドは言った。その言葉にファザーンはそのようですね、と頷いた。
「暴走した人間の頂点に立っているのが、全てに絡む、あのペテン医師のようです」
国一番の名医の地位を手に入れて、それ以上に何を望むのだろうか。
その名医としての地位だって、自らが毒をまき、それを解毒してみせる。
全くの茶番に何人もの人間が人生を狂わされた。絶対に許せない。
「ユーラーティ神殿の教主が知ったら、泣けるだろうなぁ」
ケルドは、呆れ返って言う。
「自分の預かり知らない処とはいえ、このような禍々しい事態になっていて、泣けるなんて
生ぬるい事言っている場合ではありませんよ。多くの人が命の危険にさらされているのです。
首座の教主たるもの、配下の動向をここまで野放しにしたのですから責任は逃れられません。
即刻 教主の身分は剥奪されることでしょうね」
ファザーンは、バッサリと切って捨てたように吐き出した。
その時、ベテランのメイドが、クラーヴィオの部屋にやって来た。
「クラーヴィオ様、客人の処置が終わりました。目を覚まされてました」
その言葉に、客間に急いだ。なにか、話が聞けるといいのだけれど。
客間に入ると、ベッドに半身起こした状態で、顔に包帯を巻かれた老人がこちらに
声をかけて来た。しゃがれた声がさらに疲れていて痛々しく感じる。
「命を救ってくれたそうだな。礼を言わねばなるまい」
顔にかなりの傷を負ってしまっていて、表情はわからない。
「礼を言うのは私ではなくこのドゥーラです」
クラーヴィオの言葉に、老人は少し考え込む。
「ドゥーラ、か。礼を言う」
言葉少なに、老人は礼の言葉を告げる。
「いえ、ここまで運んできてくれたのはクラーヴィオさんで、私は応急手当をしただけです」
「顔の表情が動かせなくてお辛いでしょうが、いくつか質問に答えてください」
容赦ないファザーンの言葉に、でも期限までに時間がないのでぐっとこらえる。
今は、この人の身に何が起こったかを知らなければならない。
それが、この一件を解決するために大切なことなのだと、自分に言い聞かせた。
「なんでも聞け。これしきの痛み、屁でもないわ」
そう言いつつ、顔の縫いあとが痛々しそうだった。
顔を糸で縫い合わせたようだ。顔が引きつって話すのも辛そうだったので、
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