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捲土重来(けんどじゅうらい)の一手
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ユーラーティ神殿へ調査に行ったファザーン達は、満身創痍で屋敷に逃げ込んできた。
ケルドは客間に運び、身体中の痛みに時折声を上げるが意識は戻らない。
ファザーンも傷だらけの身体に手当され、呆然としていた状態で声も出せずにいた。
何があってこんなことがあったのか、ガルディアはどうなっているのか。
身近な人が傷だらけになっている状態に私はどうしていいか分からず、ケルドの手当に
名乗り出ていた。脂汗を流しながらうなされているのを見ると胸が締め付けられる。
必死に汗をぬぐい、血止めの薬草を塗りこんだ。
出来る手当は全てやり、あとは本人の生きる力次第だ。そっと見守ることしかできない。
苦しげなケルドをずっと見ていることもできず、そんな様子を見たメイドが、
少しお休みになっては?と、そっと交代してくれた。
交代されても何をしていいかわからないことは変わらない。
ファザーンの様子も気にかかる。
私は、ファザーンのいる客間を教えてもらい、部屋に訪れる。
声をかけようとしてふと室内の雰囲気に入室を躊躇していた。
部屋には既にヘルシャフトとクラーヴィオが来ていて、うなだれて椅子に座っている
ファザーンに気付用の酒を勧めているところだった。
「お前がそこまで追い込まれるとは……。相当の手合いだな」
ヘルシャフトがしみじみとつぶやいた。
「中々に頭の切れる人間がいるらしい。うまく追い込まれてしまったよ……」
ファザーンは、盃に入った強い酒を一気に飲むとため息をつく。
「上には上が居るんですね。今の王都にそこまで頭の切れる者は多くないはずですが」
クラーヴィオが顎に手を当てて考えている。
「とにかく、ユーラーティ神殿の地下に大規模な反乱組織が集っているようだ。
各地から有能な薬草師が集められていて、薬草同士を合わせて有毒性が増す研究をする一派がいるようだ。間がいいのか悪いのか、近々大規模なコトを起こそうとしている時に
潜入したようでね、警備も厳重だった……だから、欲を出して深入りしすぎたようだ」
ファザーンは、拳を握り締める。
あまりの力に、自らの爪で手のひらから血が滲にじんでいた。
「あの!」
突然の私の声に、三人は一斉にこちらを振り向いた。
「ガルディアさんを助けに行くには、どうしたらいいんですか?」
まだユーラーティ神殿に捕らわれているならば助けに行かないといけない。
敵の只中であれば、どんな扱いを受けているか。
命さえも危ういならば、一刻を争う。
「ドゥーラ、お前には関係のない話だ。自分の部屋に戻っていなさい」
厳しい面持ちでヘルシャフトが言い放つ。
「関係なくないです!私を助けてくれた人です。私の、仲間なんです」
思わず言い返していた。誰もがすくみ上がるヘルシャフトに。
街にいる頃の私ならこの言葉で引いていただろう。しかし今は人の命がかかっている。
「ユーラーティ神殿は、王都でも勢いのある組織だ。手練の三人でさえ、このざまだ。
無駄に自分を危険にさらすことなどない」
ヘルシャフトは容赦ない。確かに私には、薬草を探す事や、簡単な薬を調合することしか取り柄がない。ガルディアのように剣豪でもなければ、ファザーンのように交渉術に長けてるわけでも、ケルドのように手先が器用で身軽なわけでもない。
でも、自分の身の回りの人が命の危険に晒されているならば、なんとか助けたいと思う。
「ドゥーラ、あなたの気持ちはわかります。でも、それと同様にあなたを心配する者たちの事もわかってください。この屋敷のものは皆、あなたを家族のように大切に思っています」
腰をかがめて、悲しげな青い瞳のクラーヴィオは私に言い聞かせるように告げる。
「自分の力量を弁わきまえないといけないな。勇敢さと無謀さは違う」
ヘルシャフトはさらに厳しく言い募る。
「ドゥーラさん……心配をかけて済みません。しかし、ユーラーティ神殿の内部に潜入するのは並大抵のことではありません。あなたを巻き込むと、ガルディアにも叱られてしまいますよ」
蒼白な顔のまま、ファザーンは笑った。その表情に切なくて泣き出したくなる。
「私は非力だけど、でも私なりに何か出来る事があるかもしれないなら役に立ちたい」
私の心はもう決まっている。
しばらく誰も何も言わない。それぞれに色々な思惑を思い描いているのだろう。
沈黙を破ったのは意外にもクラーヴィオだった。
「ドゥーラは、このままではひとりでも助けに走ってしまいそうですねぇ」
小首をかしげてため息をつく。
「意志の強さというか頑固な所、よく似ている……私が付き添って守りますよ。それで依存ないですね?おふた方」
兄であるヘルシャフトと、その言葉に勢いよく顔を上げるファザーンに、いう。
「確かに、ドゥーラは言いだしたら聞かない頑固な性格だからな」
諦めたようにため息をつくヘルシャフト。
「ドゥーラ、協力してくれるならば危険ですが、手はあります」
静かに、ファザーンは計画を口にした。
ケルドは客間に運び、身体中の痛みに時折声を上げるが意識は戻らない。
ファザーンも傷だらけの身体に手当され、呆然としていた状態で声も出せずにいた。
何があってこんなことがあったのか、ガルディアはどうなっているのか。
身近な人が傷だらけになっている状態に私はどうしていいか分からず、ケルドの手当に
名乗り出ていた。脂汗を流しながらうなされているのを見ると胸が締め付けられる。
必死に汗をぬぐい、血止めの薬草を塗りこんだ。
出来る手当は全てやり、あとは本人の生きる力次第だ。そっと見守ることしかできない。
苦しげなケルドをずっと見ていることもできず、そんな様子を見たメイドが、
少しお休みになっては?と、そっと交代してくれた。
交代されても何をしていいかわからないことは変わらない。
ファザーンの様子も気にかかる。
私は、ファザーンのいる客間を教えてもらい、部屋に訪れる。
声をかけようとしてふと室内の雰囲気に入室を躊躇していた。
部屋には既にヘルシャフトとクラーヴィオが来ていて、うなだれて椅子に座っている
ファザーンに気付用の酒を勧めているところだった。
「お前がそこまで追い込まれるとは……。相当の手合いだな」
ヘルシャフトがしみじみとつぶやいた。
「中々に頭の切れる人間がいるらしい。うまく追い込まれてしまったよ……」
ファザーンは、盃に入った強い酒を一気に飲むとため息をつく。
「上には上が居るんですね。今の王都にそこまで頭の切れる者は多くないはずですが」
クラーヴィオが顎に手を当てて考えている。
「とにかく、ユーラーティ神殿の地下に大規模な反乱組織が集っているようだ。
各地から有能な薬草師が集められていて、薬草同士を合わせて有毒性が増す研究をする一派がいるようだ。間がいいのか悪いのか、近々大規模なコトを起こそうとしている時に
潜入したようでね、警備も厳重だった……だから、欲を出して深入りしすぎたようだ」
ファザーンは、拳を握り締める。
あまりの力に、自らの爪で手のひらから血が滲にじんでいた。
「あの!」
突然の私の声に、三人は一斉にこちらを振り向いた。
「ガルディアさんを助けに行くには、どうしたらいいんですか?」
まだユーラーティ神殿に捕らわれているならば助けに行かないといけない。
敵の只中であれば、どんな扱いを受けているか。
命さえも危ういならば、一刻を争う。
「ドゥーラ、お前には関係のない話だ。自分の部屋に戻っていなさい」
厳しい面持ちでヘルシャフトが言い放つ。
「関係なくないです!私を助けてくれた人です。私の、仲間なんです」
思わず言い返していた。誰もがすくみ上がるヘルシャフトに。
街にいる頃の私ならこの言葉で引いていただろう。しかし今は人の命がかかっている。
「ユーラーティ神殿は、王都でも勢いのある組織だ。手練の三人でさえ、このざまだ。
無駄に自分を危険にさらすことなどない」
ヘルシャフトは容赦ない。確かに私には、薬草を探す事や、簡単な薬を調合することしか取り柄がない。ガルディアのように剣豪でもなければ、ファザーンのように交渉術に長けてるわけでも、ケルドのように手先が器用で身軽なわけでもない。
でも、自分の身の回りの人が命の危険に晒されているならば、なんとか助けたいと思う。
「ドゥーラ、あなたの気持ちはわかります。でも、それと同様にあなたを心配する者たちの事もわかってください。この屋敷のものは皆、あなたを家族のように大切に思っています」
腰をかがめて、悲しげな青い瞳のクラーヴィオは私に言い聞かせるように告げる。
「自分の力量を弁わきまえないといけないな。勇敢さと無謀さは違う」
ヘルシャフトはさらに厳しく言い募る。
「ドゥーラさん……心配をかけて済みません。しかし、ユーラーティ神殿の内部に潜入するのは並大抵のことではありません。あなたを巻き込むと、ガルディアにも叱られてしまいますよ」
蒼白な顔のまま、ファザーンは笑った。その表情に切なくて泣き出したくなる。
「私は非力だけど、でも私なりに何か出来る事があるかもしれないなら役に立ちたい」
私の心はもう決まっている。
しばらく誰も何も言わない。それぞれに色々な思惑を思い描いているのだろう。
沈黙を破ったのは意外にもクラーヴィオだった。
「ドゥーラは、このままではひとりでも助けに走ってしまいそうですねぇ」
小首をかしげてため息をつく。
「意志の強さというか頑固な所、よく似ている……私が付き添って守りますよ。それで依存ないですね?おふた方」
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「確かに、ドゥーラは言いだしたら聞かない頑固な性格だからな」
諦めたようにため息をつくヘルシャフト。
「ドゥーラ、協力してくれるならば危険ですが、手はあります」
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更に追記(2022/3/9)
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