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46話 勇者の責務★
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「う............ん......?」
慣れない匂いに目を覚まし身じろぎすると、全身に鈍い痛みが走り、顔を顰める。
上半身にのしかかる重い何かをそっと避けて、身体を起こした。
どうやら私に乗っていたのは祐実...こっちの世界ではエレナというらしい...だった様で、目の下に立派な隈をつくって、腫れた目ですやすやと眠っている。さっき動かしたのに眠っているから、きっとあんまり寝てなくて、ようやく眠りにつけた所なんだろう。
部屋を見渡すと、『異界の風』は全員眠ってしまっている様だ。
「一体何が......」
ボソッと零して、思い出す。そうだ、魔物を倒している途中に、変なのが現れたんだ。念の為ゲットしておいたスキルの危険察知が初めて発動して、皆を咄嗟に庇って...そこからの記憶がない。多分、あの魔物...?の攻撃を食らって気絶させられたんだろう。
「......不甲斐ない」
漏れた声は、自分でも驚くほどに暗かった。まるで、自分が自分じゃないように。
思わず手に力が入って、強く握られた薄い寝間着の糸がぷつんと切れた。
私は、勇者なのに。だから、皆を安心させなきゃいけないのに。
それなのに、なすすべもなくやられてしまった自分が情けなくて、どうしようもなかった。
ふと、床に新聞が落ちているのが視界に入った。
表紙にはでかでかと『新たなる魔王誕生!!』と書かれていた。
ベッドから足を下ろし、スリッパを履いて新聞を拾い上げると、仮称:漆黒の魔王ノワールと名付けられ、あの時見た化け物の様な存在が描かれていた。
アイツが...魔王?
新聞がくしゃりと潰れる乾いた音が響いた。
何故だか妙に納得がいった。と、同時に、絶望した。勇者とは、魔王に対する人類の希望である。つまり、いずれはあの存在ですら倒さなければいけないのだ。
私はこれでももうSランクに到達している。それでいて尚在る絶対的な格差。絶望的な実力差。
今でも、思い出せば手が震える。本能が、アレは駄目だ、生物としての格が違う。そう訴えかけて来るような声が幻聴されるほどだった。
ふるふると首を振って、ペチンと両頬を叩く。
大丈夫。私は勇者なのだ。これは単なる武者震い。
「大丈夫...?」
誰かの声が耳に届いた。部屋の隅で丸くなって眠っていた黎だった。彼女はこちらの世界ではレーンと名乗っている。黎とレーン、なるほど、少し似ている。
彼女もまた、眠たそうにこすっている目の下に、立派な隈を湛えていた。
「レーン...私は大丈夫だよ、ちょっとまだ痛いけど...」
「......起きたか」
というと、壁際に立ちながら寝息を立てていた里橋が、低い声で呟く。こちらの世界ではシャドーと名乗っているらしい。どうにも、前世のアニメに影響されたのだとか。
「ん?おお!起きたのか!アスト!!」
浅野ことアサノは相変わらず騒がしい。そして、なんと前世の名字と名前が一言一句同じだ。
「ん...エレナが起きちゃう」
というレーンの忠告虚しく、エレナがガバっと身体を起こしこちらを見ると、目に涙を一杯に貯めて抱きついてくる。
「うわぁッ!?」
「3日も目覚めないから心配したんだよぉぉぉお!!!うわぁぁぁ!!!」
涙と鼻水で顔をグチョグチョにして、存在を確かめる様に身体を擦り付けて来るエレナ。成長期の小さな膨らみが当たり、思わず赤面してしまう。
男に転生したせいで、最近どうにも、照れてしまって女の子と上手く話せない。
まだ心は女の子のつもりではいるのだけれど、なんだか感情と理性が乖離してきた気がした。
勇者らしい振る舞い、他の人に頼られる様な、そう考えていると、なんだか自分が何なのか、よく分からなくなってくる。
勿論、誰にも言わないけど...
「ノワール...」
自分の口から無意識に、その魔王の名が漏れた。恐らく誰にも聞かれなかっただろう。
先ずは、私は強くならなければならない。
あの魔王を倒せるくらい、強く。
慣れない匂いに目を覚まし身じろぎすると、全身に鈍い痛みが走り、顔を顰める。
上半身にのしかかる重い何かをそっと避けて、身体を起こした。
どうやら私に乗っていたのは祐実...こっちの世界ではエレナというらしい...だった様で、目の下に立派な隈をつくって、腫れた目ですやすやと眠っている。さっき動かしたのに眠っているから、きっとあんまり寝てなくて、ようやく眠りにつけた所なんだろう。
部屋を見渡すと、『異界の風』は全員眠ってしまっている様だ。
「一体何が......」
ボソッと零して、思い出す。そうだ、魔物を倒している途中に、変なのが現れたんだ。念の為ゲットしておいたスキルの危険察知が初めて発動して、皆を咄嗟に庇って...そこからの記憶がない。多分、あの魔物...?の攻撃を食らって気絶させられたんだろう。
「......不甲斐ない」
漏れた声は、自分でも驚くほどに暗かった。まるで、自分が自分じゃないように。
思わず手に力が入って、強く握られた薄い寝間着の糸がぷつんと切れた。
私は、勇者なのに。だから、皆を安心させなきゃいけないのに。
それなのに、なすすべもなくやられてしまった自分が情けなくて、どうしようもなかった。
ふと、床に新聞が落ちているのが視界に入った。
表紙にはでかでかと『新たなる魔王誕生!!』と書かれていた。
ベッドから足を下ろし、スリッパを履いて新聞を拾い上げると、仮称:漆黒の魔王ノワールと名付けられ、あの時見た化け物の様な存在が描かれていた。
アイツが...魔王?
新聞がくしゃりと潰れる乾いた音が響いた。
何故だか妙に納得がいった。と、同時に、絶望した。勇者とは、魔王に対する人類の希望である。つまり、いずれはあの存在ですら倒さなければいけないのだ。
私はこれでももうSランクに到達している。それでいて尚在る絶対的な格差。絶望的な実力差。
今でも、思い出せば手が震える。本能が、アレは駄目だ、生物としての格が違う。そう訴えかけて来るような声が幻聴されるほどだった。
ふるふると首を振って、ペチンと両頬を叩く。
大丈夫。私は勇者なのだ。これは単なる武者震い。
「大丈夫...?」
誰かの声が耳に届いた。部屋の隅で丸くなって眠っていた黎だった。彼女はこちらの世界ではレーンと名乗っている。黎とレーン、なるほど、少し似ている。
彼女もまた、眠たそうにこすっている目の下に、立派な隈を湛えていた。
「レーン...私は大丈夫だよ、ちょっとまだ痛いけど...」
「......起きたか」
というと、壁際に立ちながら寝息を立てていた里橋が、低い声で呟く。こちらの世界ではシャドーと名乗っているらしい。どうにも、前世のアニメに影響されたのだとか。
「ん?おお!起きたのか!アスト!!」
浅野ことアサノは相変わらず騒がしい。そして、なんと前世の名字と名前が一言一句同じだ。
「ん...エレナが起きちゃう」
というレーンの忠告虚しく、エレナがガバっと身体を起こしこちらを見ると、目に涙を一杯に貯めて抱きついてくる。
「うわぁッ!?」
「3日も目覚めないから心配したんだよぉぉぉお!!!うわぁぁぁ!!!」
涙と鼻水で顔をグチョグチョにして、存在を確かめる様に身体を擦り付けて来るエレナ。成長期の小さな膨らみが当たり、思わず赤面してしまう。
男に転生したせいで、最近どうにも、照れてしまって女の子と上手く話せない。
まだ心は女の子のつもりではいるのだけれど、なんだか感情と理性が乖離してきた気がした。
勇者らしい振る舞い、他の人に頼られる様な、そう考えていると、なんだか自分が何なのか、よく分からなくなってくる。
勿論、誰にも言わないけど...
「ノワール...」
自分の口から無意識に、その魔王の名が漏れた。恐らく誰にも聞かれなかっただろう。
先ずは、私は強くならなければならない。
あの魔王を倒せるくらい、強く。
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