43 / 69
42話 羽虫の毒は獅子をも弑す
しおりを挟む
動きの一瞬止まった獅子を空中から見下ろしながら、俺は勝利を確信していた。
今、俺の鎌は折られ、HPも残り一割を切っている。
鎌は身体再生で少しずつ再生しているとはいえ、HPの回復は何故かいつもよりずっと遅く感じる。ただの気のせいならば良いのだが、自己再生がちゃんと機能していない、そういう感覚がある。
恐らく、脱皮の反動か相手のスキルだろう。もう出ない汗が皮膚を伝う幻覚を覚えて、思わず息を呑む。目の前に迫る『死』の感覚に、身体が震える。
獅子が動いた。
高速で飛来する炎弾を回避し、燃える木を横目に獅子と距離を取る。が、獅子の方が速度は高く、距離がグングン詰まっていく。牽制の毒刃を撃つが、炎弾に簡単にかき消される。
こうなったら四の五の言っていられない。毒魔法熟練度7で覚えた魔法、『死毒の霧』を放つ。MPが1/3程削られ、全身から禍々しい色の煙が放たれる。なんだこれきめぇ!きめぇけど、煙を振り払ったあとの獅子の調子が目に見えて悪くなっていく。
死毒強え。
兎にも角にもこれで勝機が見えてきた。今から時間は基本的に俺に味方する。時間が経てば経つ程毒が回っていくからな。もうこうなったらこっちの直接攻撃は通じないだろうし、躱し続けてひたすら時間稼ぐのが最適解だろう。
無理に攻めて殺られるのは愚の骨頂だ。
よし、通じる攻撃無いってのが最悪の展開だったけど、毒が通じる相手ならこっちだってやりようはある。
獅子が炎弾を放つ。だが、先程と比べ良く見れば狙いが散漫だ。
半歩横に移動するだけで躱し、毒液をばら撒く。毒も弱いし大した威力も無いが、さっき猛毒を見せたせいで獅子も回避せざるを得ない。MPの消費は殆ど無いから、MPが増えた今ではほぼ打ち放題だ。狂った様に打たれる炎弾を躱し、毒液をばら撒く。やはり獅子は焦っているらしく、球数は多いが先程よりも狙いが粗い。かといって避けやすいかと言われるとそうでもない。バラバラに打ってくるから軌道の予測がし辛い...まぁ、そんな軌道予測とかあんまり出来ないから関係ないか?
獅子の両顔が怒った様な咆哮を上げると、全身から踊り狂う様に燃え盛る炎が吹き出し、ゴウゴウという威嚇するような、炎が燃える音が響き渡る。
途端、視界から獅子が消えた。
本能と危険察知のスキルに従い、全力でその場から退避する。
そのさっきまで俺がいた場所を、獅子の燃え盛る爪が抉り取った。
俺の足が一本宙を舞い、一瞬で燃え尽きる。
コイツ...いきなり早くなった!?
HPはもう2桁台、あと一発炎弾が命中すれば死ぬ。が、ソレを悟らせまいと残った足で毅然と立つ。ただ、こちらがもう限界が近いのは恐らく悟られているだろう。
対する相手も、文字通り燃える眼で俺を睨んでくるが、足元がガクガクと震えているのが見えた。
この戦いに、終わりが近づいて居ることを互いに察していた。
獅子が消える。
目の前に幅1m程のクレーターが形成されるが、敢えて上から首を狙い、再生した鎌を振るう。鉄躰を発動させて、鎌が折れない様にはしているが...再び、たてがみに大きく弾かれ、身体が宙を舞う。
自分に毒液を掛けて燃え移った火を消火し、追撃をかましに急接近してきた獅子の脇を空中機動で躱す。無茶な方向変化に足がミシミシと悲鳴を上げ、躱しきれなかった獅子の攻撃でまた別の足が二本吹き飛んだ。
痛覚耐性を貫通して、全身に貫くような痛みが走る。
だが、我慢して動かないと、死ぬ!
もうHPが少ない。が、それはお互い様だ。
残りのMPを全て注ぎ込み、死毒の霧を発動。体中から煙が出て、互いに視界を遮る。
獅子は頭が良かった。獅子は前の一撃で学習していた。
相手は首を上から狙って来ている。それも、二度も。
とはいえ、獅子のたてがみは非常に硬い。能力で硬質化している為である。
だが、飛び上がった空中は仕留める絶好のチャンスである。
獅子は勝利を確信し、上を向く。そこに相手はいなかった。
下だよ。間抜けが。
獅子は回る毒に勝利を急いだ。
皮肉な事に、ソレが戦いの分水嶺だった。
俺は鎌を振るい、獅子の腹が大きく切り裂かれた。
今、俺の鎌は折られ、HPも残り一割を切っている。
鎌は身体再生で少しずつ再生しているとはいえ、HPの回復は何故かいつもよりずっと遅く感じる。ただの気のせいならば良いのだが、自己再生がちゃんと機能していない、そういう感覚がある。
恐らく、脱皮の反動か相手のスキルだろう。もう出ない汗が皮膚を伝う幻覚を覚えて、思わず息を呑む。目の前に迫る『死』の感覚に、身体が震える。
獅子が動いた。
高速で飛来する炎弾を回避し、燃える木を横目に獅子と距離を取る。が、獅子の方が速度は高く、距離がグングン詰まっていく。牽制の毒刃を撃つが、炎弾に簡単にかき消される。
こうなったら四の五の言っていられない。毒魔法熟練度7で覚えた魔法、『死毒の霧』を放つ。MPが1/3程削られ、全身から禍々しい色の煙が放たれる。なんだこれきめぇ!きめぇけど、煙を振り払ったあとの獅子の調子が目に見えて悪くなっていく。
死毒強え。
兎にも角にもこれで勝機が見えてきた。今から時間は基本的に俺に味方する。時間が経てば経つ程毒が回っていくからな。もうこうなったらこっちの直接攻撃は通じないだろうし、躱し続けてひたすら時間稼ぐのが最適解だろう。
無理に攻めて殺られるのは愚の骨頂だ。
よし、通じる攻撃無いってのが最悪の展開だったけど、毒が通じる相手ならこっちだってやりようはある。
獅子が炎弾を放つ。だが、先程と比べ良く見れば狙いが散漫だ。
半歩横に移動するだけで躱し、毒液をばら撒く。毒も弱いし大した威力も無いが、さっき猛毒を見せたせいで獅子も回避せざるを得ない。MPの消費は殆ど無いから、MPが増えた今ではほぼ打ち放題だ。狂った様に打たれる炎弾を躱し、毒液をばら撒く。やはり獅子は焦っているらしく、球数は多いが先程よりも狙いが粗い。かといって避けやすいかと言われるとそうでもない。バラバラに打ってくるから軌道の予測がし辛い...まぁ、そんな軌道予測とかあんまり出来ないから関係ないか?
獅子の両顔が怒った様な咆哮を上げると、全身から踊り狂う様に燃え盛る炎が吹き出し、ゴウゴウという威嚇するような、炎が燃える音が響き渡る。
途端、視界から獅子が消えた。
本能と危険察知のスキルに従い、全力でその場から退避する。
そのさっきまで俺がいた場所を、獅子の燃え盛る爪が抉り取った。
俺の足が一本宙を舞い、一瞬で燃え尽きる。
コイツ...いきなり早くなった!?
HPはもう2桁台、あと一発炎弾が命中すれば死ぬ。が、ソレを悟らせまいと残った足で毅然と立つ。ただ、こちらがもう限界が近いのは恐らく悟られているだろう。
対する相手も、文字通り燃える眼で俺を睨んでくるが、足元がガクガクと震えているのが見えた。
この戦いに、終わりが近づいて居ることを互いに察していた。
獅子が消える。
目の前に幅1m程のクレーターが形成されるが、敢えて上から首を狙い、再生した鎌を振るう。鉄躰を発動させて、鎌が折れない様にはしているが...再び、たてがみに大きく弾かれ、身体が宙を舞う。
自分に毒液を掛けて燃え移った火を消火し、追撃をかましに急接近してきた獅子の脇を空中機動で躱す。無茶な方向変化に足がミシミシと悲鳴を上げ、躱しきれなかった獅子の攻撃でまた別の足が二本吹き飛んだ。
痛覚耐性を貫通して、全身に貫くような痛みが走る。
だが、我慢して動かないと、死ぬ!
もうHPが少ない。が、それはお互い様だ。
残りのMPを全て注ぎ込み、死毒の霧を発動。体中から煙が出て、互いに視界を遮る。
獅子は頭が良かった。獅子は前の一撃で学習していた。
相手は首を上から狙って来ている。それも、二度も。
とはいえ、獅子のたてがみは非常に硬い。能力で硬質化している為である。
だが、飛び上がった空中は仕留める絶好のチャンスである。
獅子は勝利を確信し、上を向く。そこに相手はいなかった。
下だよ。間抜けが。
獅子は回る毒に勝利を急いだ。
皮肉な事に、ソレが戦いの分水嶺だった。
俺は鎌を振るい、獅子の腹が大きく切り裂かれた。
5
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜
月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。
蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。
呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。
泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。
ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。
おっさん若返り異世界ファンタジーです。
弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜
秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。
そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。
クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。
こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。
そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。
そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。
レベルは低いままだったが、あげればいい。
そう思っていたのに……。
一向に上がらない!?
それどころか、見た目はどう見ても女の子?
果たして、この世界で生きていけるのだろうか?
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
【第一部 完結】俺は俺の力を俺の為に使い、最強の「俺」となる ~便利だが不遇な「才能開花」のスキルでどう強くなればいい~
古道 庵
ファンタジー
三年前に異世界へと落とされた高校生”才ノ木 育也(さいのき イクヤ)”。
そこで出会った”アレクセイ”という少年らと意気投合し、仲間たちと冒険者パーティーを結成する。
まだ十五歳前後の少年達は、異常な速度で強くなり二年足らずでベテラン達を押しのけ、ギルド内でトップを張るパーティーへと駆け上がる。
何故異常な成長を遂げたのか、それはイクヤの持つユニークスキル「才能開花」による影響だった。
瞬く間にAランクの実力にまで駆け上がったアレクセイ達だが、功労者のイクヤはそれに反して伸び悩んでいた。
そしてイクヤの無謀な行動を理由にパーティーを追放されてしまう。
イクヤは誓う……元仲間への復讐を。
……と、ここまではよくあるお話。
イクヤはここから劇的には強くなれない。そうは都合よく最強には上り詰められない。
だって現実はそんなもの。
これは彼の挫折の物語。
異世界で少年から青年へと成長し、上手くいかない現実の中でそれでも足掻き、知恵を絞り、自分の真価を求める。
そんな物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる