虫けら転生録

或哉

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42話 羽虫の毒は獅子をも弑す

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動きの一瞬止まった獅子を空中から見下ろしながら、俺は勝利を確信していた。
今、俺の鎌は折られ、HPも残り一割を切っている。
鎌は身体再生で少しずつ再生しているとはいえ、HPの回復は何故かいつもよりずっと遅く感じる。ただの気のせいならば良いのだが、自己再生がちゃんと機能していない、そういう感覚がある。

恐らく、脱皮の反動か相手のスキルだろう。もう出ない汗が皮膚を伝う幻覚を覚えて、思わず息を呑む。目の前に迫る『死』の感覚に、身体が震える。

獅子が動いた。
高速で飛来する炎弾を回避し、燃える木を横目に獅子と距離を取る。が、獅子の方が速度は高く、距離がグングン詰まっていく。牽制の毒刃を撃つが、炎弾に簡単にかき消される。

こうなったら四の五の言っていられない。毒魔法熟練度7で覚えた魔法、『死毒の霧ポイゾネスミスティア』を放つ。MPが1/3程削られ、全身から禍々しい色の煙が放たれる。なんだこれきめぇ!きめぇけど、煙を振り払ったあとの獅子の調子が目に見えて悪くなっていく。
死毒強え。
兎にも角にもこれで勝機が見えてきた。今から時間は基本的に俺に味方する。時間が経てば経つ程毒が回っていくからな。もうこうなったらこっちの直接攻撃は通じないだろうし、躱し続けてひたすら時間稼ぐのが最適解だろう。
無理に攻めて殺られるのは愚の骨頂だ。
よし、通じる攻撃無いってのが最悪の展開だったけど、毒が通じる相手ならこっちだってやりようはある。

獅子が炎弾を放つ。だが、先程と比べ良く見れば狙いが散漫だ。
半歩横に移動するだけで躱し、毒液をばら撒く。毒も弱いし大した威力も無いが、さっき猛毒を見せたせいで獅子も回避せざるを得ない。MPの消費は殆ど無いから、MPが増えた今ではほぼ打ち放題だ。狂った様に打たれる炎弾を躱し、毒液をばら撒く。やはり獅子は焦っているらしく、球数は多いが先程よりも狙いが粗い。かといって避けやすいかと言われるとそうでもない。バラバラに打ってくるから軌道の予測がし辛い...まぁ、そんな軌道予測とかあんまり出来ないから関係ないか?

獅子の両顔が怒った様な咆哮を上げると、全身から踊り狂う様に燃え盛る炎が吹き出し、ゴウゴウという威嚇するような、炎が燃える音が響き渡る。
途端、視界から獅子が消えた。
本能と危険察知のスキルに従い、全力でその場から退避する。
そのさっきまで俺がいた場所を、獅子の燃え盛る爪が抉り取った。
俺の足が一本宙を舞い、一瞬で燃え尽きる。
コイツ...いきなり早くなった!?
HPはもう2桁台、あと一発炎弾が命中すれば死ぬ。が、ソレを悟らせまいと残った足で毅然と立つ。ただ、こちらがもう限界が近いのは恐らく悟られているだろう。
対する相手も、文字通り燃える眼で俺を睨んでくるが、足元がガクガクと震えているのが見えた。

この戦いに、終わりが近づいて居ることを互いに察していた。

獅子が消える。
目の前に幅1m程のクレーターが形成されるが、敢えて上から首を狙い、再生した鎌を振るう。鉄躰を発動させて、鎌が折れない様にはしているが...再び、たてがみに大きく弾かれ、身体が宙を舞う。
自分に毒液を掛けて燃え移った火を消火し、追撃をかましに急接近してきた獅子の脇を空中機動で躱す。無茶な方向変化に足がミシミシと悲鳴を上げ、躱しきれなかった獅子の攻撃でまた別の足が二本吹き飛んだ。
痛覚耐性を貫通して、全身に貫くような痛みが走る。
だが、我慢して動かないと、死ぬ!

もうHPが少ない。が、それはお互い様だ。
残りのMPを全て注ぎ込み、死毒の霧ポイゾネスミスティアを発動。体中から煙が出て、互いに視界を遮る。

獅子は頭が良かった。獅子は前の一撃で学習していた。
相手は首を上から狙って来ている。それも、二度も。
とはいえ、獅子のたてがみは非常に硬い。能力で硬質化している為である。
だが、飛び上がった空中は仕留める絶好のチャンスである。
獅子は勝利を確信し、上を向く。そこに相手はいなかった。

下だよ。間抜けが。

獅子は回る毒に勝利を急いだ。
皮肉な事に、ソレが戦いの分水嶺だった。

俺は鎌を振るい、獅子の腹が大きく切り裂かれた。
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