172 / 185
2章 幼少期編 II
53.研究院 2
しおりを挟む研究院の外観は大貴族の屋敷に匹敵するほどの大きさだった。
横に長い薄茶色の4階建て。その上に石手摺りに凭れかかる人影があるから屋上あり。中心の玄関塔の他に左右に階段塔が4ヶ所。
あれ? 2階の手前上がテラスになってない? あそこで大学キャンパスチックなランチタイムを過ごしたら楽しそう。パラソル付きテーブルセットを持ち込んで……強い海風がここまで来るから飛ばされちゃうそうです。残念。
「シュシュ、その折り畳みの屋根は面白そうだぞ。遠征の天幕の代わりにはならないか?」
パラソルテーブル? ん~、それならワンタッチテントがいいですね。
「大人ひとり用のなら何となく覚えています。ランド職人長に作ってもらって、わたくしたちの秘密基地にしましょう。ランタンを持ち込んで寝るまで怖い話をするのです。楽しいですよ~」
「シュシュの怖い話は本当に怖いからなぁ」
「どれが一番怖かったですか?」
映画をゼスチャー付きで色々披露しているのだ(※ルベールの指導の成果)
「……死体が動くやつ」
ゾンビですね。
アルベール兄さまは?
「街が霧に閉ざされるやつだろう……あの結末はない」
あぁ、二度と観たくないと誰もが言う絶望系の。
「わたくしは残酷な性格の養女が周りを潰していくやつですかね」
「死体に追いかけられるよりましだろ~?」
そうですか? でしたら……
他のゾンビシリーズを紹介しようとしたら、天井がコンコンとノックされた。
『もうすぐ到着です』の合図だ。
窓の外を見ると、玄関塔の前には結構な人数のお迎えが待ち構えていた。
研究院の事務官(制服を着てます)と、たぶん警備員的な職員(制服姿ね)
そしてアルベール兄さまが事前に手配していたウチの近衛騎士が3人。馬車と並走していた騎乗近衛が6人だから。今回は全部で9人の騎士。私服の、もしくは院生に扮した護衛はもっといるはずね。ご苦労様です。
馬車の扉を開けるのはキャビンの外後台に乗っている侍従の役目だ。
キッチリ開けられて声をかけられるまで私たちは動かない。降りる準備態勢になるのもお行儀が悪いとされているのですよ。今日初めて知りましたけど。
『乗る前に決められた回数』を侍従がノックして、そこで初めて内鍵が開けられます。
これは安全対策ね。外に危険はありませんよという合図なのだ。
侍従と護衛が安全と判断しないとノックはされないし、ここで違う回数のノックがされると「異常事態が発生しているが、直接お知らせできない」という状況になっているということ。そんな時は座席の下から防具と武器を出します。その後はたぶん、私がそこに押し込まれる。
侍従によって静かに扉は開けられた。
ステップを下すガショッという音はしない。
なんとアルベ I(改)くんのキャビン内には階段がついているのだ。マイクロバスのステップみたいなやつ。
でもまだ私はひとりで降ろさせてはもらえない。1段2段は従者の延ばされた手にエスコートされて、最後の地面着地にはやっぱり抱っこされちゃう。ピョンと飛び降りるのは乗る前から禁止されております。
むむっ、院生たちが遠巻きにこちらを見ている。
目立つ新式馬車が注目されているのか、貴賓客が気になるのか。
はっ『プリン』って聞こえた。あれだ、プリン王子だってみんな知ってるんだ。そうよね、何度も来ているって言ってたし……くはっ、アルベール兄さまがプリンに反応してる。やっぱり嫌なんだ。笑いたい……我慢、我慢だ。お行儀良くしなくちゃ。あ、ベール兄さまにはバレた。けど、彼の口元もフニュッてなっている。手を伸ばしてきたのでキュッと握る。ギュッと握り返された。また握り返す。ふたりで我慢大会だ。
「足元、お気お付けください」
ベール兄さまと一緒に上ばかり見ていたら、目の前に階段が迫っていた。
だってつい見ちゃう案件があるのです。
外装は重厚でいかにも歴史がありそうな古めかしさがあるのにですよ。
その煤けたような石の間々から、白くて小さな石膏像が顔を覗かせているのですよ。
彼らはチャッピーと呼ばれる学問の女神ハイエットの御使いです。
本が大好きでみんな手に本を抱えて笑っています
その可愛らしい精霊たちがあちこちにいるのですよ。
みんなこちらを見ているのですよ。
おいでおいでしているのですよ。
子供が目を奪われるのは当然でしょう。
まぁ、でも注意してくれてありがとう。お陰で転ばずに済みました。誰に注意されたかわからないけど。
では、チャッピーに招かれていますからね。楽しくお呼ばれいたしましょう。るん♪
「うわぁ、凄い!」
「きゃぁ、可愛い!」
解放されている大扉の正面奥には、両手を広げた女神ハイエットの巨大レリーフが出迎えの姿勢で待ち構えていた。
その両脇には広い湾曲階段があり、手摺り飾りには本を運んでいるようなチャッピーの姿があちこちに見られる。
3階分もありそうな高い吹き抜けの天井からも、こちらを見下ろして『こっちだよ』と手招くチャッピーたちの姿が………うはぁ~、このあいだ行った神殿よりも神殿っぽいんですけど~。
「あの精霊たちの指す方向に書物館がある。学問書しかないから、シュシューアが言っていた図書館とは違うがな。行ってみるか?」
「いえ、結構です」
「どうせシュシュには読めないしな」
むっ、そんな理由ではございません。
「きっとそこも魔導部の資料室と同じですよ。わたくしは見たことがあるのです。あんな部屋にいたら肺が腐って数分で死んでしまうのです」
アルベール兄さまもベール兄さまも、入ったことがあるのか否定はしなかった。
………続く
87
お気に入りに追加
1,799
あなたにおすすめの小説
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました
瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。
レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。
そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。
そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。
王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。
「隊長~勉強頑張っているか~?」
「ひひひ……差し入れのお菓子です」
「あ、クッキー!!」
「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」
第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。
そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。
ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。
*小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。
クラス転移で手に入れた『天性』がガチャだった件~落ちこぼれな俺がみんなまとめて最強にします~
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
阿久津雄介とそのクラスメイトは、最弱国家グルストンに勇者として召喚された。
──天性なる能力を授けられ、世界を支配するドラグネス皇国の考案した遊戯、勇者大戦なる競技の強化選手として抜擢されていく。
しかし雄介の手に入れた能力はガチャ。
他にも戦力とは程遠い能力を授かるものと共に補欠として扱われた。
日々成長していくレギュラー入りしたクラスメイト達。
置いていかれる環境に、自分達もなんとかしようと立ち上がる雄介達。何もできない、なんの役にも立たないと思われた力で雄介達はほんの僅かな手応えを感じていた。
それから少しづつ、自分たちの力を高める為に冒険者の真似事をしていくことに。
目指すはクラスメイトの背中。
ゆくゆくはレギュラー入りと思っていたが……
その矢先にドラグネス皇国からの手先が現れる。
ドラゴン。グルストン王国には生息してない最強の種族が群を率いてやってきた。
雄介達は王命により、ドラゴン達の足止め役を引き受けることになる。
「別に足止めじゃなく倒しちゃってもいいんですよね?」
「できるものならな(可哀想に、恐怖から幻想が見えているんだろうな)」
使えない天性、大人の一般平均値を下回る能力値を持つ補欠組は、世界の支配者であるドラグネス皇国の尖兵をうまく蹴散らすことができるのか?
┏━━━━━━━━━┓
┃書籍1〜3巻発売中 ┃
┗━━━━━━━━━┛
==========================================
【2021.09.05】
・本編完結(第一部完)
【2023.02.14追記】
・新しく第二部を準備中です。もう少しお待ちください。
(書籍三巻の続き〜)を予定しています。
【2023.02.15追記】
・SSはEXTRAからお引越し、書籍用のSS没案集です。
・追加で増えるかも?
・書籍用の登場人物表を追記しました。
【2023.02.16追記】
・書籍における雄介の能力変更をおまけに追記しました。
【2023.03.01〜】
・五章公開
【2023.04.01〜】
・WEB版の大雑把なあらすじ公開(書籍版とは異なります)
==========================================
婚約破棄の現場に遭遇した悪役公爵令嬢の父親は激怒する
白バリン
ファンタジー
田中哲朗は日本で働く一児の父であり、定年も近づいていた人間である。
ある日、部下や娘が最近ハマっている乙女ゲームの内容を教えてもらった。
理解のできないことが多かったが、悪役令嬢が9歳と17歳の時に婚約破棄されるという内容が妙に耳に残った。
「娘が婚約破棄なんてされたらたまらんよなあ」と妻と話していた。
翌日、田中はまさに悪役公爵令嬢の父親としてゲームの世界に入ってしまった。
数日後、天使のような9歳の愛娘アリーシャが一方的に断罪され婚約破棄を宣言される現場に遭遇する。
それでも気丈に振る舞う娘への酷い仕打ちに我慢ならず、娘をあざけり笑った者たちをみな許さないと強く決意した。
田中は奮闘し、ゲームのガバガバ設定を逆手にとってヒロインよりも先取りして地球の科学技術を導入し、時代を一挙に進めさせる。
やがて訪れるであろう二度目の婚約破棄にどう回避して立ち向かうか、そして娘を泣かせた者たちへの復讐はどのような形で果たされるのか。
他サイトでも公開中
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる