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1章 幼少期編 I

81.なかよしお菓子

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アルベール兄さまがユエン侯爵領から帰ってきた。

私たち家族は「家族の間」でお出迎えだ。

さぁさぁ、結果報告をお願いします!
お顔を見れば聞かなくてもわかりますけどーっ!

「色々あったようだが上手くまとまってよかった。婚約おめでとう」

お父さまから祝いの言葉をもらったアルベール兄さまは照れ照れだ。可愛いぞ!

の部分は気になるところではあるけれど、ルベール兄さまから前もって『水を差しちゃだめだよ』と質問を止められているのです。我慢です。3日ぐらいは我慢してみせます。

「シュシューア、頼みがあるのだが」

アルベール兄さまが、珍しく困った顔をして私を見た。

「見た目と味に強い印象が残る、新しい菓子はないだろうか」

「見た目はチギラ料理人の方が頼りになると思いますが、印象に残る味となると……ええと、チョコレート以上の衝撃が必要ということですよね……う~ん」

まだ作っていないお菓子は星の数ほどあるけれど……印象、印象……

「婚約発表までに、何とか話題の菓子にしたいのだ」

はえ? もう一ヶ月もないのに?

「兄上、何か問題があるのですか?」

ルベール兄さまが心配顔に。

アルベール兄さまはそれに首を振り、ポソリとつぶやく。

「…………プリンぉぅ…じ」


部屋の中が急に静かになった。


「ええと、プリンがどうかしたのですか?」


ルベール兄さまが無言で部屋を出ていった。


「ここ最近、私は『プリン王子』と呼ばれているらしい」
「まぁ、そうなのですか?」


ベール兄さまが走って部屋を出て行った。


「……格好悪い」
「そんなことないと思いますが」


お父さまが震えるお母さまを姫抱きして、部屋を出て行った。


「レイラに知られたくない……絶対、婚約発表前にプリンを払拭したいのだ」


プリン王子の何が悪いのか。人気者の証だと思うのですが。ハンカチ王子とか……日本人特有の感覚かな?


遠くから聞こえる笑い声は、誰のもの?




☆…☆…☆…☆…☆




今年の冬の目玉商品は、固形チョコレートの詰め合わせの予定だった。

しかし、アルベール王子が婚約を発表する冬だ。

本人が経営する商会が婚約菓子を出さねば、どうにも心意気が締まらない。

そこで──「プリン王子」が格好悪いと思う方が格好悪い──と思い直したアルベール兄さまは、やけくそで『プリン王子と白チョコ令嬢』という菓子名の企画案を打ち出した。日本人の感性を持つ異世界王子であった。

シブメンの『〈割れない〉は絶対条件ですな』
私の『プリン風味のフワフワで、白チョコを優しく包み込みましょう』
ルベール兄さまの『挟むか、巻くか』
チギラ料理人の『白チョコが見えるように』
ベール兄さまの『味も見た目も関係なくバカ売れするぞ。白チョコ、足りるのか?』

たまに出るベール兄さまの鋭い突っ込み。

企画書を書いていたミネバ副会長は、ガタンと勢いよく立ち上がった。

「ランド!」

庭にいるランド職人長に、茶チョコ製作ストップの指示が出された。
次いでお弟子さんのひとりが離宮の門を飛び出すように走って行く。

さて、外注先での茶チョコ作りの進み具合はいかに? あまり進んでいないといいですねぇ。


◇…◇…◇


突貫とは思えない素晴らしいお菓子が出来上がった。

ホワイトチョコレートをプリン風味のカステラで挟んだ、食べきりサイズのケーキだ。
型抜きした小花の黄色いドライフルーツ(マンゴーみたいなの)が1個1個にくっついていて、むちゃくちゃ可愛いのだ。
カステラとホワイトチョコの間のカラメルゼリーが接着の役目をしているのが、ニクイニクイ。ヒュ~ヒュ~。


チギラ料理人の自信作──

『プリン王子と白チョコ令嬢』

ぜひぜひ、ご賞味あれ!


5個入りだよ!

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