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1章 幼少期編 I

50.もうすぐハァ~ルですねえ ♪

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社交シーズンは、あっという間に終わった……ようだ。

毎日勉強して、毎日遊んでいたら、もうすぐ春がそこまで来ていた。

「シュシューア、離宮の掃除が終わった。行くぞ」

アルベール兄さまからの誘いは唐突だったけど、もちろん喜んでついて行った。

わ~い。
ここは楽しくて大好きな場所。
今日は何して遊ぼうかな~。

ふわりとパンの焼ける香りが漂ってくる。

お腹がすいた。

食堂の椅子に座らせてもらってウキウキしていたら、男の人が何やら優しく話しかけてくる。
ミエムのピザパンだと、可愛い花の形をした焼きたてパンを出してくれた。

とっても美味しい。

けど……



(……誰?)



呆れてはいけない。
ちょっと会わないだけで忘れてしまうなんてことは、幼い子供にはよくあることなのだ。

ごめんって。

思い出したよ、チギラ料理人。

「わ~い。チギラ料理人の美味しい料理が、また食べられるようになったぁ」

厨房に引っ込んでしまった彼からの返事はなかった。

だから、ごめんって。



☆…☆…☆…☆…☆



冬の間………

社交界デビューをしていない私とベール兄さまは、離宮に行かなくなったこと以外はごく普通に毎日を過ごしていた。

更なる知識を求めた私は、文字の勉強に力を入れると心に決め、筆記の練習を兼ねた『文字しりとり』という遊びを考案した。新藁紙を湯水のように使う贅沢な遊びである。
すれ違う城人を捕まえては付き合わせていたが、私の言葉ストックが少なすぎ、負けが込み……すぐに飽きた。

ワーナー先生の授業が終わった後はシブメンの部屋に行き、迎えのベール兄さまが来るまで図々しく居座っていた。常備してあるお菓子が目当てであった。
彼の返事は『そうですか、なるほど、それはそれは』で始終完結。さぞ迷惑であったことだろう。

昼食の後はこれまた薬草部に舞い戻り、入り浸った。
目的は、苺っぽい果実の品種改良をねだり、ねだり、ねだり……粘り勝ちした結果、私の知っている『苺』が誕生した。
少々甘さが足りないがイチゴの香りは濃厚である……ここで私は、いちごフェアの開催を宣言した。

まず初めに王宮の厨房に駆け込み、料理人Aに練乳(乳と甘液を煮詰めて冷やす)を作ってもらい、練乳をたっぷりかけたイチゴをシブメンに献上して仲間に引き込んだ。

シブメンの使命は植物成長魔法でイチゴを増やすことである。
苗を渡したら速攻帰宅して例の温室でズワァァァ~ッとやったらしく、毎日籠いっぱいのイチゴを持って出勤するようになった。

練乳イチゴの日々を送りつつ、ある日シブメンはイチゴ入りアイスクリームを所望した。

YES.

イチゴアイスクリーム。正義である。

練乳の譲渡で王宮の厨房は懐柔済みだ。
二つ返事で数種のフルーツアイスクリームを作ってくれた。

しかし、気前が良すぎると勘ぐったベール兄さまは、木箱に詰めたイチゴを3箱も差し入れていた。
結果、それは正しい行動であった。練乳ごときで懐柔される王宮料理人ではなかった……らしいけど、私にはよくわからない世界であった。いろんなことはベール兄さまが丸く収めてくれているようなので、今後もよろしくお願いしますと頭を下げておいた。嫌な顔をされた。

ともあれ、アイスクリームである。

寒い冬に温かい部屋でアイスクリームを食べる。
最高に贅沢な時間を魔導部で過ごすことができた。

ベール兄さまは、薄皮を剥いたシプードとアイスクリームの組み合わせが気に入って、毎日モリモリと食べていた。しかし、お腹を壊してお母さまからアイスクリーム禁止令が出されてしまった。その情報は即座に城中を駆け巡った。侍女たちが『お可愛いらしい』とクスクス萌えているのを、ベール兄さまは知らない。

ルベール兄さまは、社交と来春の視察旅行準備に忙しくしている。
馬車旅の辛さを兄から聞いていた彼は、馬車の改造に王子経費をつぎ込んでいるそうだ。

家族団らんファミリータイムは、宮廷画家を呼んで家族の肖像画を描いてもらいながら楽しく過ごした。
植物紙を束で渡された宮廷画家は羊皮紙でないことに戸惑っていたが、何枚でも書けることを喜んでいた……ように見えたけど、お母さまの絵ばかり描かせるお父さまの指示に、困惑していたようにも見えた。

ルベール兄さまは「兄上が結婚したら、父上みたいになるかもしれないなぁ」と笑っていた。

「レイラお姉さまとは、いつ会えるのでしょう」
「シュシュが5歳にならないと紹介してもらえないね」
「ルベール兄さまは、お会いしたことがあるのですか?」
「あるよ。でも、どんな令嬢かは内緒。楽しみに待っておいで」
「え~」

外出だけじゃなく、外界との関りも持てないということか。
はやく5歳になりたいなぁ。



あ、アルベール兄さまは恋に仕事に邁進中です。

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