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1章 幼少期編 I

5.プリンの進化

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───あの後、私は泣き疲れて眠ってしまったようだ。

ベール兄さまがどうしても私から離れなくて、両親の寝台で4人一緒に寝たみたいなんだけど、そのまま起こされずに朝まで寝てしまったものだから、やってしまった……うぅ、盛大におねしょをしてしまったのだ。トホホ。

寝台の中で一番被害を受けたのは、可哀想にベール兄さまだった。
寝巻の肩のところがぐっしょり濡れていて、少し臭い(私のオシッコだけど)どんな寝相だったんだか……いや、申し訳ないっす。

……で、子供二人はお風呂へ直行となった。

お湯をちゃぷちゃぷしながらベール兄さまが言うことには、アルベール兄さまの執務室にいた面々は、訳のわからない私の嘆きにしんみりしちゃったそうだ。

そこでお父さまは初めて家族に打ち明けたのだった。

『シュシューアには前世の記憶がある』と……

だけどその場に居合わせてしまった料理長の号泣がすごくて、逆に冷静になれてよかったと言っていた。



『前世の記憶があるのに、なぜ人形遊びばかりしている馬鹿な子供のままなのか』

アルベール兄さまの疑問は全員が思うところではあったようだけど……失礼ね。

だけど自分でもそう思う……人形遊びの何が楽しいのか。

楽しいのだ……落ち葉を集めて、石を並べて、意味のない穴を掘る……くだらない遊びが訳もなく楽しいのだ。

『記憶は大人、頭脳は子供』……あれ? アニメと違うな。



『新しい命で、新しい人生を始めているのだ。そこに《記録の書》を持ち込んだだけの子供だと思おうではないか』…というお父さまの言葉に、取り敢えずみんな納得してくれたそうだ。

〈前世の記憶〉=〈記録〉

上手いこと言うね、お父さま。

おかげで《記録の書》から引っ張り出してきたプリンをスムーズに受け入れてもらえたみたい。
美味しいと褒めてもらえたようだしね。
でも、同情票もあったのではなかろうか……と少し疑っている。同情されているうちに次を急がなくちゃ……という心の声は内緒です。


続いては、お父さまが呼び寄せた”ゼルドラ魔導士長”が登場したそうな。

今際の際いまわのきわの記憶が戻ったら、そういうこともあるでしょう。父親を頼って泣いたなら大丈夫です。そういうものです───で、新しい菓子の件ですが……」

無事にプリンに食いついたはいいが、彼は空気を読まない男だった。


───以上、ちい兄レポートでした。



☆……☆……☆……☆……☆



「シュシュ! 次はプリンアラモードだろ? 早く作ろうぜ!」

泣いた私はすっきりしたし、もう前世の孤独は気にならなくなった。今の私はめちゃくちゃ愛されていることを知っているから。

そういうのはベール兄さまにもわかるようで、今はまったく気を遣われていない。
私たちは前より仲良くなったし、家族の絆も深まった。

「とっても、おいしいしの、れす! いっぱい、つくって、もらいましょう!」

お菓子の名前は伝えたままのプリンに決まった。
プリンの進化系の話をしたら、お父さまからまた厨房使用許可をもらえた。

これはもうスイーツテロですよね!






───そうは言っても準備が必要なのだ。

お菓子作りで大切なのは『分量と時間を正確に』である。
そこで重さをはかる天秤、線を入れた計量カップ、タイマーとなる火時計を用意してもらった。

火時計は目盛りの付いた台にろうそくを立てて減りかたで時間を計るものだ。砂時計もあるらしいが、高価な装飾品で厨房に置くようなものではないと言われた。
詳しい作り方はわからなけれど、バネ式のはかりをアルベール兄さまにねだっておくね、料理長。


……………………………………………………
【プリン本体】
前回はカップのまま食べたけど、プリンアラモードにするには型から出す必要がある。
プリン型の内側に前もって油を塗っておくと、ポンと型から出やすくなるコツなど、ひと手間を加えたプリンの作り方を料理長に伝えた。
カラメルソースは、水と砂糖を弱火でゆっくりと焦がさないようにね。
後は試行錯誤……してもらうほどの砂糖の余裕はないけど、ガンバレ厨房部隊!
……………………………………………………

……………………………………………………
【生クリーム】
厨房の外の小屋にいる黄ヤギの乳を使います。
残念なことですが『牛』がいないのですよ。
でも、この黄ヤギの乳を飲んでも違和感がないので牛乳と同じ扱いにします。
(ヤギの種類には、黒ヤギ、茶ヤギがいます。どちらの乳も癖があるので珍味に使われているそうです)

その黄ヤギの乳を殺菌のために火にかけて、しばらく放置します。
分離した脂肪の多い部分をクリームとして使うのですが、自然分離には物凄く時間がかかるので、そのうち手動の遠心分離機を作ってもらおうと思っています。

分離した脂肪乳は冷蔵庫で冷やして、すり鉢で細かくしておいた砂糖を加えます。
そして角が立つまで泡立てます。泡立てます。泡立てます。
とりあえず今回は木板を細かく裂いたものを代用してもらったけど……辛そうでしたねぇ。
……………………………………………………


泡だて器は今後のお菓子作りにも必要になってくるので絶対に作ってもらいます。

───で、構造を料理長に説明しつつ話を広げていくと、どうやら針金というものは装飾品に使われる物のようです。板状にした金属から丁寧に1本1本削り出すのだとか。裁縫用の針なども、その後に加工するらしいけど……


ふっ……

ふふふ、ふははは、あーっはっはっはーっ!


私は長~い針金の作り方を知っている!

熱して、槌で打ち、延ばして、棒状にして、線状にして、鉄板の小さい穴に通して、ロールに巻き取りながら伸ばーーーすっ! はぁはぁはぁ……

図解するよ!

「ベールにいさま、かくもの、くらさい!」

木板を出された。こっちの黒い棒は、木炭?

「かみとペンが、ほしいのれす。どうぐの、ずめんを、かくの、れす」
「……う~ん、どうしても必要か? 羊皮紙は砂糖よりも高いんだぞ」

羊皮紙?

植物紙がない?

そこからなの?








今後のレシピ欄は↓
…………………………
…………………………
↑の点ラインで挟みます。
読み飛ばしても問題ありません。

─────────────────
今話よりシュシューアのセリフが、
訳なしの”ひらがな表示”になりました。
31話から漢字を混ぜ込みますので、
暫くお付き合いくださいませ。
─────────────────
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