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【1】ものすごく怪しくて、あまり信用できない。

あまりにも怪しくて、出来れば関わりたくない。

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 誤解が誤解を生み、このままでは収拾がつかなくなってしまう。
 2人の勘違いの末、収拾どころか、男が牢屋に収容されてしまう可能性すらある。

 男は2人から少し距離を取り、武器を背に戻して両手を小さく上げた。

「最初は君が危ないと思い、助けるつもりだったんだ」
「あ? 危なくねえぞ? それよりジェイン、見たか? オレさまがゴーレムを斬る所!」
「ああ、見ていたとも」
「ゴーレムって何とかして飼えねえかな」

 ニースは話をよく聞こうとしない。男はそこで作戦を変更することにした。

「俺も見ていた。君は凄い、ゴーレムを一撃で、それも剣で倒す人なんて見た事がない!」
「フフン、まあな。かっこいいゴーレムに勝つオレ、ゴーレムよりイケメン」
「ああ、間違いない。君は最高にカッコイイ男だ」

 褒められおだてられ、ニースは得意顔だ。男への警戒心など10秒前に薄れている。
 横取り狙いだったとして、取り分9:1で分けてやってもいいと考えている程だ。

 一方のジェインは、男の顔を正面から見た事で、ようやくその正体に気付いた。

「……あなたは、あなたは勇者様ではないですか!」
「え? 勇者? マジ?」
「間違いない、アンドニカの城にも来ていただいた事がある!」

 勇者と聞き、さすがのニースも背筋が伸びた。
 先程勇者の頭をはたいてしまったが、その事はもう忘れているようだ。

 赤髪に、爽やかで凛々しい顔。双剣を背負い、1人で行動している。
 ニースは勇者の顔を知らなかったが、確かに勇者の特徴と一致していた。

 勇者は背筋を伸ばして胸に手を当て、誇らしげな笑みを浮かべる。

「我が名はアイゼン・ヒューバー! 第101代目勇者だ」

 アイゼンが鞄から金のペンダントを取り出した。
 勇者となった時、その証として授与された大切なものだ。

「それ何? 金? くれんの?」
「い、いや、違う。これは俺が勇者である証だ」
「へー」

 ニースは物覚えが悪く、勇者の顔にもピンと来ていない。
 2人は勇者の証も見た事がなく、本物かどうか判断する手段がない。

 そんなニースとジェインは顔を見合わせ、眉間に皺を寄せた。

「あのさ、勇者ってこの前いなくなったよな」
「そのはずだ。ボクは勇者がドラゴン退治で名誉の負傷、次の勇者出現を待つって聞いた」
「あーそれよそれ! オレもおんなじの聞いた」

 冒険者協会は、先日1つの発表を行った。

 勇者がドラゴン退治で傷を負い、もう戦えなくなった、と。
 とすれば、目の前にいる男は何なのか。

「そうだ。俺は……勇者を引退することになる」
「じゃあもう勇者じゃねえの?」
「実質もう元勇者だ。だから勇者と名乗らず、101代目と名乗った」

 現時点において、勇者の椅子は空席扱いとなっている。
 101代目が調子を取り戻せなければ、近いうちに102代目が選ばれる。

「ドラゴンに負けたにしちゃあ元気そうすけど」
「元勇者様。元勇者様はなぜこんな所に」
「元勇者って呼ぶのはやめてくれ。そんな事より!」

 元勇者はニースへと向き直り、先ほどの戦いっぷりを褒め称える。

「その腕前、その勇ましさ! 俺は自信をもって君を次の勇者に推薦したい!」
「……あ? 何言ってんすか元勇者さん」

 元勇者はあろうことか、ニースを次の勇者に推すと言い出した。
 ニースは強さに自信があるものの、勇者になれると思っていた訳ではない。

 突然の発言に、罠ではないかと怪しんでいる。

「ジェイン、こいつマジで元勇者? 色々おかしくねえか」
「確かに元勇者様だよ。間違いない、元勇者様はボクなんか覚えていないだろうけど、ボクは元勇者様を覚えている」

 ジェインの若干毒を含んだ言葉が突き刺さった。
 元勇者は「ちょっといいかな」と言って、鞄から錠剤を取り出し、口に含む。

「元勇者さん、おまえ病気っすか? 病気で辞めたっすか」
「痛たた……いや、そうじゃないんだけど。胃が痛くてね」
「ふーん。オレが回復魔法掛けてやるす」

 敬語が中途半端なのはさておき、ニースが呪文を間違えながら、回復魔法を発動させた。
 性格が大雑把なのか、ニースは特定の対象だけに魔法を掛ける事が出来ない。

 淡い光が3人を包み込む。
 ニースが何故かもぐもぐしている中、ジェインと元勇者は顔をしかめた。
 特に元勇者はニースの回復魔法を知らない。

「ぶえーっ! ペッ、ペッ……なんだこれ、しょっぱ!」
「おめーも何ジェインみたいな事言ってんすか。浄化すんのに塩は当たり前っすよ」
「塩魔法? そんなの聞いたことがない」
「回復魔法だけど? 何言ってんすか、頭大丈夫っすか」
「ニースの回復魔法ですよ。ボクも最初は驚きました」

 元勇者の顔から苦痛の色が消えた。
 ニースに頭の心配などされたくないが、悔しいことに効き目は抜群だった。
 腹や胸のあたりをさすり、ズキズキとした痛みが全くないことに驚いている。

「か、回復魔法に……もしかしてお清めの塩のつもりか? 効き目はすごいが」
「だろ? これで幽霊出てもソッコー除霊っすわ。アンデッドにも負けねえすわ」

 ニースはそう言いながら、鞄のポケットから干し肉を取り出して頬張る。

「塩加減もちょうど良くなる。回復魔法さいこー」

 それからニースは鞄から20セルテ(100セルテ=1メルテ=1メートル)真四角のプレートを取り出し、ゴーレムだった瓦礫の横に置いた。
 プレートには自身の名と冒険者番号が刻まれている。
 変色する前の新鮮な死骸と、一緒に写真に収めるのだ。それで討伐の証明になる。

「よし、っと。ジェイン、行くぞ」
「え、あ、待ってくれニース! 元勇者様はどうするんだい」
「元勇者さん、おまえどうするっすか、オレ達この先の町に行くけど」
「元勇者じゃなくて、アイゼンと呼んでくれ。とりあえずゆっくり話がしたい、同行していいだろうか」

 アイゼンは礼儀正しく腰を折り、深々と頭を下げる。
 さすがは勇者と言われるだけあって、品行方正で好感度が高い。

「凄いね、元勇……アイゼン様が一緒に行動するなんて」
「何でもいいけどよ。ゴーレム倒したくらいで勇者だっつわれてもな」
「確かにゴーレムを倒せるだけなら大勢いるだろう。けれど、俺はニースくんに可能性を見出したんだ」

 勇者の力強い眼差しに、さすがのニースも驚きで固まった。

 ……訳ではなかった。
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