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クロムウェル

死を乗り越えて

「シーフ、あたしはあんたが……」
    最後の言葉を最後まで言えずに、アインは闇へと葬られた。間近でそれを見てしまったシーフとロクは、その場に立ち尽くしていた。
「アイ……ン？嘘だよな……？
どこかに隠れただけだろう……？
こんな戦闘の真っ只中で、笑えない冗談はやめてくれよ……」
気が動転しているシーフは、アインの死を受け入れられなかった。ドラキュラは高笑いして、アインを小馬鹿にしてみせた。
「ふふふ。やはり数千年いきた程度の小娘ですなぁ。あんな脳筋小娘程度に負ける私じゃありませんよ？ふふふふ……」
    それは、ロクを挑発するには軽すぎる言葉だった。……だがそれは、通常時の話である。
「よくも……。私の大事な仲間を……」
「え？何ですって？はっきり喋らないとよく聞こえませんよ？」
ロクは挑発に乗ってしまい、一層語気を上げて怒鳴った。
「よくも私の大事な仲間を殺したわね！お前は……。私の時詠みで確実に仕留める！」
「さて、それはどうでしょうかな……。
あなた方時詠み使いの芸は飽きるほど見てきましたよ？
そんなもので勝てるとでも……？まさか、本気でお思いでっ……！」
ドラキュラは、話をやめた。正確には、強制的にやめさせられた。
「口を慎め、小童。
お前が私に勝とうなど百年早いわ。後悔すると良い。
私の仲間を殺した事。それがお前の死因よ。絶対的虚構空間フェイクゾーン」
ドラキュラは消滅した。術名から予測するに、時を留められたまま異次元へと飛ばされ、そこで未来永劫暮らすことになる……。という事で良いのだろうか。
「当たり。
これは時詠みの新たな可能性。時間と空間を操れるわ。もっとも、空間を操るといっても、直接的に操るわけではないのだけれど……」
「？……どういう事だ？」
「…………時が来たらあなたにも教えてあげる。それより、被害の確認と生存者の手当てよ。急ぎなさい」
「お、おう……」
ロクの口調には、仲間の死を悲しむ様子など見受けられなかった。まるで、過去にも同じ光景を見た事があるかの様に……。
「何しているの？早くしなさい！」
「おう……」
    幸いにも、街の壊された部分は半分にも満たなかった。だが、損害も消して少ないとは言えない。生存者の確認と保護だけで、丸一日かかってしまった。
    死者数は百を超えたという……。
    数日後、ロクの提案でアインの告別式をやる事になった。当たり前だが、参加者は四人のみだった。
「まさかあの子が一番に死んでしまうとは……。今回は僕達も予想外でしたね……」
｢今回は槍使いが最初……です｣
｢そうね……。次は誰かしら……｣
｢おい……｣
｢何よ？｣
｢さっきから言ってる、今回はってなんだよ……？｣
｢……なんでもないわ｣
ロクが場を濁そうとしたが、それは適わなかった。
｢なんでもない訳ないだろう！仲間が一人死んだんだ！そうやって平気でいられる理由は何なんだよ！｣
｢若造には関係の無い事よ｣
｢若造も何も、俺は仲間だろうが！
フローリアと関係の深い事なら、俺が知る義務もあるはずだぞ！｣
三人は堪忍したのか、肩を竦めた。
｢分かったわ……。私達対フローリア軍の伝承を教えなければいけないようね……｣

　ロクは静かに、語り始めた……。