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クロムウェル

フローリアの刺客・ドラキュラ

「さぁ逃げ惑いなさい弱者達よ。私に勝てる者など所詮人間にはいませんでしょうに」
「くそっ……。このままだと街がなくなるぞ」
「そんな！あたしの故郷が……！やだ！やだよぉ！」
「落ち着けアイン！」
「だめ……。だめだよ……あたしの大事な故郷が……」
アインは、シーフの声を聞く余裕もないみたいだ。着々と壊されていく自分の故郷を見ながら、ただ呆然と立ち尽くしている。
「くそっ……！このままじゃ埒があかない！
おいアイン！気を確かに持て！この街はまだ助かるだろう！
幸いまだ被害はこの区域だけだ！まあ希望はある！大多数は助けられるぞ！」
シーフは、声を荒げてアインを説得する。すると、ようやく問いかけに気付いたのか、アインはこちらを向いた。
「まだ、助かる……？」
「あぁ！まだ助けられる所は多い！だから立て！お前がこの街を……。クロムウェルを救うんだ！」
「…………そっか。まだ、助かるか……」
「あぁ！一緒にあのドラキュラを倒すぞ！」
「一緒に……。うん！やってやるさね！シーフ！あたしの足を引っ張ったら許さないのさ！」
    シーフの必死の説得により、アインは立ち上がった。その目は、歴戦を勝ち抜いてきた槍の申し子・アインの本来の姿を写していた。
「あたしの故郷に触るなぁぁぁぁぁぁぁぁ！妖精の炎舞フェアリィ・ダンス！！」
    妖精に愛された槍使いは、この街でかつて最強の称号を持っていたという。
消息を絶っていた槍使いは今、覚醒し、敵を討つべく渾身の一撃を放った。
    だが、ドラキュラは倒れない。
「今、この私に何かされましたかな？もし、それが私への宣戦布告ならば……。容赦無く行かせてもらいますよ！闇の中へ消え去るが良い！漆黒の世界へと誘う門サタンズゲート！」
瞬間、目の前に黒い門が現れた。その門は、アインを飲み込もうと動き始めた。
「アイン！飲み込まれるな！逃げるんだ！」
「分かっているのさ！この魔法は、私達が一番知ってる！」
「そうでしょう⁉︎この魔法は、フローリア様の魔法！私に教えてくださったのですよ！あなた達を倒すためにね……。この魔法は発動したが最後。対象者を飲み込むまで吸い込み続けます。フローリア様が編み出した傑作中の傑作なのですよ！あははははははは！さぁ闇の彼方へと葬られなさい！アイン・スラム！名前のように、薄汚いスラム街であなたは死ぬのですよ！」
「てめぇ！良い加減にしやがれ！」
シーフが魔法を止めようと、時詠みを行使する……。
だが、時詠みは失敗に終わった。
「無駄ですよ。この魔法は、絶対に止まりません。なぜならフローリア様の魔法ですからね！」
「くそっ！どうやって助ければ……」
シーフが助ける手段を考えていると同時、ロクが駆けつけた。
「シーフ、よく覚えておきなさい。魔法は、術者が死ねば絶対に終わるのよ。
アイン！踏ん張りなさい！私が助けるわ！」
    そうして、ロクがその場に駆けつけた時には、もう遅かった。
「タァイムアップ！時既に遅しでしたね！」
「アイン！」
    アインが、悔しそうにシーフに向かって手を伸ばす。門に吸い込まれる直前、アインの口が動いた。
「シーフ！あたしの代わりにそいつを……。そして、フローリアを倒すのさ！」
「あぁ……。あぁ！約束する！」
互いに親指を立て、別れを誓う。実際にはほんの数瞬の事だった。だが、その場にいた全員にとっては、言葉で表しきれないほど長かっただろう。
    「シーフ、あたしはあんたが…………」

    勇敢な槍の申し子である精霊使い。アイン・スラムの最後の言葉は、聞こえなかった。