【本編完結】瓦解

星の書庫

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呪縛

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 茉莉が死んで、一ヶ月が経った。彼女の葬式なども終わり、ようやく落ち着ける時期になった。
俺は葬式には、参列できなかった。茉莉を失った悲しみもあるが、夢の中で言われたあの言葉が、俺を外に出さなかった。

 学校には通っている。最初の一週間は外にも出れなかったが、日が経つにつれて「茉莉の死は不可抗力だった」と、そう思えるようになってきた。
俺は今でも、彼女の『お前が死ねばよかったのに』と言う言葉の意味を探している。茉莉を守れなかったのは、俺の落ち度だ。あの日、彼女を家まで送っていれば、死んだのは俺の方だったのではないだろうか。茉莉も、あの夢でそれを伝えたかったのだと、勝手に解釈している。
確かに俺にも落ち度はあったが、それだけで茉莉は俺を恨んでいるのだろうか。付き合いこそ短かったが、結婚の約束までした仲だった。
分からない。彼女は何を思って、俺を恨むような事を言ったのか。
 考え事をしていると、睡魔が俺を襲った。そのまま、深い眠りに落ちていく。


 また、夢を見た。あの日見た夢と似たような夢。
夏休み最終日。流星群を見た日の記憶。
俺は、目の前にいる茉莉と、仲睦まじく話している。
「ねえ純。私を幸せにしてね」
「……うん」
あの日のような即答はできない。茉莉はもう死んでいて、結婚なんて話は夢物語だ。
「そっか。もう、純とは結婚できないんだった」
「え?」
「だってあの日、私は死んだ。誰にも助けて貰えずに、車に撥ねられて、死んだんだよ」
茉莉の言葉が胸に突き刺さる。
いつの間にか茉莉は制服になっていて、腰から下は、千切れていた。茉莉の両親と見た、彼女の死んだ姿だった。
事故の状況は詳しく聞けなかったが、その言葉と、彼女の下半身のない体が、事故の凄惨さを物語っていた。
「……」
「ねえ、純」
「……何?」
「私たち、約束したよね」
「……したね」
「私、約束破っちゃった」
「仕方なかった事だよ」
「うん。でもね、あの日純が一緒に帰ってくれてたら、あの世で結婚、できたよね」
「……怖いよ」
「私がいなくなって、寂しい?」
「寂しいに決まってる」
「そっかぁ。じゃあ、純も一緒に死のう?今、ここで」
茉莉は俺の首を掴むと、絞め殺そうと、力を入れる。彼女の力とは思えない、あり得ないほどの腕力で、息ができなくなる。
「ちょ……ま、つり……」
いけない、このままでは本当に殺されてしまう。なんとかして脱出しないと。
でも、彼女の力に抗えない。俺は、死を覚悟した。


 意識が切れる寸前で、目を覚ました。
正確には、起こされた。
「島崎くん、大丈夫?」
心配そうに、一人の女子生徒が俺を覗き込んでいる。黒髪で、なんとなく茉莉に似ている気がした。
「あぁ……えっと」
「うなされてたから、心配したよ」
「それは、うん。大丈夫だけど……。君は?」
「クラスメイトの名前が分からないなんて、薄情な人だね。私は小野寺綾乃おのでらあやのだよ」
「……ごめん。今まで、誰とも話してこなかったから」
俺は、ゆっくりと体を起こした。すると、小野寺は俺を見て小さく悲鳴を上げた。
「きゃっ……。どうしたの、それ?」
俺の首元を指さす綾乃。何か変なものでもついているのか?俺は、教室に設置されている鏡を見に行った。
「え……」
戦慄した。寝る前まではなかった手の跡が、首を絞めるような形のアザを作っていたのだ。
「誰かに首でも、絞められてたの?」
「いや……そんな覚えはない、けど」
夢の中で、茉莉が俺を殺そうとしてきたなんて、目の前の彼女には言えるはずもなかった。言ったところで、きっと信じてくれない。
「そっか。何があったのか知らないけど、気をつけてね?上林さんもああなっちゃったし」
小野寺は、もう下校時間だからと言って教室を出て行った。
「……俺も帰るか」
あまり深く考え過ぎないようにしよう。その方が、今は楽だ。


 俺は、荷物を持って、教室を出た。


 そんな俺を見つめる、一人の少女。流れるような黒髪を持つ彼女は、バレないようにと俺の後を付いてくる。
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