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三月は別れの季節
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三月。僕とひなは、ほとんど会う事が無くなってきていた。
彼女は今も入院していて、学校に来ていない。見舞いに行こうとしたけれど、一切の面会を拒否しているらしい。メールは返ってくるが、二日に一度あればいい方だ。
今日も僕は、一人で下校していた。
学校を休まないだけ、成長していると思う。
彼女がいない通学路。それももう慣れてきたと感じた。
いつの間にか、僕の家の前まで来ていた。
今日は金曜日。家に誰もいない日だ。
弟は友達の家に泊まりに行っているし、母さんと父さんは出張が入っているらしい。
幸いにも、明日は土曜日。休みだ。
用事を済ませたら映画でも見ようか。
そんな事を考えながら、夕飯を作っていた時の事だった。
居間の方で、携帯の着信音が響いた。
メールだ。彼女からだった。
『明日休みだからさ。今日、泊まっても良いかな……?』
心臓が跳ね上がった。ひなが僕の家に泊まる。今日、僕の家に家族はいない。彼女を家に呼ぶには絶交のチャンスだ。
『うん、良いよ』
僕は、反射的に了承の返事をした。
待っている間、ずっと何かを忘れている気がしていた。しかし、彼女が泊まりに来るという嬉しさで、僕は気にも留めていなかった。
一緒に夜ご飯を食べて風呂に入った後、僕たちは部屋でくつろいでいた。
いつの間にか、数分前まで笑顔だった彼女が、泣いていた。
「ひな?どうかした?」
「……ううん。何でもないよ。なんでもないの……」
「うん、話なら聞くよ?」
「うん……」
涙の浮かんだ目を擦りながら、彼女はゆっくりと話し出す。
「私ね、ハルキの他に好きな人がいるの」
彼女の口から出た言葉は、僕には到底理解出来ないものだった。
「……ん?どういう事……?」
「翔くんっているじゃん……?」
翔?なぜその名前が今出てくるんだ?
「え、うん?」
「実は私、翔くんとも付き合っててさ」
「え……?」
「翔くんもさ、ハルキと付き合ってるのを知ってて私と付き合ってたの。
でも、翔くんがね。ハルキと別れて欲しいって言ったからさ」
「え、どういう事?ずっと……浮気してたの?」
「そうだよ。ハルキとはお遊びだったの」
いきなりの事で脳が追いついてこない。
お遊び。僕の拙い語彙力で意味を探しても、今の状況で良い意味は思い当たらなかった。
「だから、別れて欲しいの。ハルキとはもうおしまい。私は翔くんが好きなの」
「……俺じゃ、ダメなの?」
「うん。ダメ」
彼女の声は淡々としていて、暖かさを感じない。それでいて、少し満足そうだった。
「……そっか」
「うん、バイバイ」
振られたはずなのに、不思議と涙は出ない。前のように、無気力にもならなかった。
彼女が帰ってしばらくの間、僕は部屋に座っていた。
ようやく動き出したのは、深夜になってからだった。
彼女は今も入院していて、学校に来ていない。見舞いに行こうとしたけれど、一切の面会を拒否しているらしい。メールは返ってくるが、二日に一度あればいい方だ。
今日も僕は、一人で下校していた。
学校を休まないだけ、成長していると思う。
彼女がいない通学路。それももう慣れてきたと感じた。
いつの間にか、僕の家の前まで来ていた。
今日は金曜日。家に誰もいない日だ。
弟は友達の家に泊まりに行っているし、母さんと父さんは出張が入っているらしい。
幸いにも、明日は土曜日。休みだ。
用事を済ませたら映画でも見ようか。
そんな事を考えながら、夕飯を作っていた時の事だった。
居間の方で、携帯の着信音が響いた。
メールだ。彼女からだった。
『明日休みだからさ。今日、泊まっても良いかな……?』
心臓が跳ね上がった。ひなが僕の家に泊まる。今日、僕の家に家族はいない。彼女を家に呼ぶには絶交のチャンスだ。
『うん、良いよ』
僕は、反射的に了承の返事をした。
待っている間、ずっと何かを忘れている気がしていた。しかし、彼女が泊まりに来るという嬉しさで、僕は気にも留めていなかった。
一緒に夜ご飯を食べて風呂に入った後、僕たちは部屋でくつろいでいた。
いつの間にか、数分前まで笑顔だった彼女が、泣いていた。
「ひな?どうかした?」
「……ううん。何でもないよ。なんでもないの……」
「うん、話なら聞くよ?」
「うん……」
涙の浮かんだ目を擦りながら、彼女はゆっくりと話し出す。
「私ね、ハルキの他に好きな人がいるの」
彼女の口から出た言葉は、僕には到底理解出来ないものだった。
「……ん?どういう事……?」
「翔くんっているじゃん……?」
翔?なぜその名前が今出てくるんだ?
「え、うん?」
「実は私、翔くんとも付き合っててさ」
「え……?」
「翔くんもさ、ハルキと付き合ってるのを知ってて私と付き合ってたの。
でも、翔くんがね。ハルキと別れて欲しいって言ったからさ」
「え、どういう事?ずっと……浮気してたの?」
「そうだよ。ハルキとはお遊びだったの」
いきなりの事で脳が追いついてこない。
お遊び。僕の拙い語彙力で意味を探しても、今の状況で良い意味は思い当たらなかった。
「だから、別れて欲しいの。ハルキとはもうおしまい。私は翔くんが好きなの」
「……俺じゃ、ダメなの?」
「うん。ダメ」
彼女の声は淡々としていて、暖かさを感じない。それでいて、少し満足そうだった。
「……そっか」
「うん、バイバイ」
振られたはずなのに、不思議と涙は出ない。前のように、無気力にもならなかった。
彼女が帰ってしばらくの間、僕は部屋に座っていた。
ようやく動き出したのは、深夜になってからだった。
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