30年越しの手紙

星の書庫

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彼女の容体は悪化する

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 ひなの告白から数日。彼女はしばらく学校を休むことになった。
理由は公開されていないが、僕は本人から聞いていたので、特に驚く事はなかった。
入院期間は未定で、いつ戻ってこれるか分からないらしい。
見舞いに行っても彼女の表情は暗く、一ヶ月前と比べてやつれているようにも見えた。
「容体は良い方ではない、よね」
「正直言って、全然良くない……」
「そっか……」
「こんなになっちゃって、ごめんね?」
申し訳なさそうに彼女が笑う。
「それはひなのせいじゃないって。前にも言ったでしょ?」
「そう、だったっけ……」
「うん。そうだよ」
「……ありがと」
「いえいえ」
「本当に、ありがとうね……。こんな私といてくれて」
「僕が好きでいるんだから」
「私の事が好きだなんて、物好きだねぇ」
「そう言うひなこそ。僕が好きなんて、相当な物好きだよ」
「そうでもないよ。ハルキはモテる」
「モテてないから」
「そんな事ないよ。ハルキはかっこいいし、何より優しいもん」
「その、かっこいいが間違ってるよ」
「間違ってないってー」
彼女はそう言って笑う。とてもじゃないけど、余命一年だとは思えない。
「……死んじゃうんだね」
現実から目を逸らしたくて、僕はそんな事を口走った。
すると、彼女は笑って僕の頭を小突いた。
「演技でもないこと言わないの~」
「……ごめん」
謝る僕を、彼女は愛しそうに見つめる。
「……ねえ、ハルキ」
「うん?どうした?」
「愛してるって、言って欲しいな……」
「愛してるよ。僕は、一生君を愛し続ける」
彼女は嬉しそうに目を細めて、それから涙を流した。
「こりゃあ、死ねないね……。私、頑張らないと……」
「……うん」
「弱くてごめんね……。私、頑張るからさ。そばにいて、くれる?」
「もちろん」
「そっか……。良かったぁ」
「ひな……」
「んー?」
「もし、さ……」
「うん?」
「ひなの病気が治って、高校卒業できたら……」
「う、うん……?」
「け、結婚しよう!幸せにする!」
「ふぇ……?」
これしか思いつかなかった。でも、これが正解だと思った。
僕が彼女にできる、闘病した彼女への、最大のご褒美。
「ひなは何もしなくて良い。料理は僕がする。いっそ、家事も仕事も全部僕がするから……。だ、だから!」
彼女は、何も言わずに僕の話を聞いている。
「……僕と、結婚してください」
最後まで言い切って、僕は彼女を見た。すると、彼女は大粒の涙を流していた。
「うん。うん……。私も、ハルキと結婚したい……。私の事、お嫁さんにしてください。私を、幸せにしてください……」
「うん。絶対、幸せにする……」

 夕暮れの日差しを受けて、僕たちは二人して泣いた。
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