30年越しの手紙

星の書庫

文字の大きさ
上 下
26 / 50

ひとりぼっち

しおりを挟む
「ハルキなんて、もう知らない……か」
 これは、振られたという事で良いのか?
そうか。僕は振られたのか。
 そんな事を一人、ベッドの上で考えていると、急に涙が込み上げてきた。それはすぐに、雫となって枕を濡らした。
「……僕が泣くなんて、らしくないな」
 涙を止めようとしても、抑えが効かなかった。
どうしてあんなに怒鳴ってしまったんだ。もっと言い方があったじゃないか。
「どうして僕は……」
自己嫌悪に陥っていたのかもしれない。
今は、他の事を考えたくない。
 彼女からメールが届いていたけれど、見る気にはなれなかった。

 何ヶ月、僕には二人の時間があっただろうか。もう、独りの過ごし方が分からない。
それだけ彼女に依存していたのかと考えると、少し怖くなった。
「僕は本当に、何をしているんだ……」
息苦しい。今更後悔しても遅いのに。
僕が彼女のそばにいなければ。そう思っていなのに、情けないなぁ。
「ぁぁぁぁぁぁ!クソがァァァァ!」
その叫びは、誰にも聞こえない。聞こえるはずがない。今は家に一人だ。僕は独りだ。
疲れ果てて眠るまで、僕の叫びは続いた。

「……ん」
目を覚ましたら、夕方だった。
「ただいまー」
弟が帰ってきたのか。玄関のドアが開いた。
しばらくすると階段を登る音が聞こえた。
足音は僕の部屋のドアの前で止まった。弟がドアを開く。
「兄ちゃんさぁ。一日中寝るのは良いけど、ちょっとは家事くらいし……。やっぱりなんでもないわ」
弟は僕の顔を見ると、きまり悪そうに部屋を出て行ってしまった。
きっと、僕の顔は涙でぐちゃぐちゃになっているだろう。
「僕は、弟にまで心配かけるのか」
 段々と、何もかも嫌になってくる。
すぐ落ち込む性格、どうにかしないとな。
「あ、兄ちゃん。帰る途中で彼女に会ったよ」
弟が思い出したように部屋を覗いて言った。
「……彼女じゃないよ」
僕は一言、それだけ言って布団を被った。
「あの子はもう、僕の彼女じゃないんだ……。違う。僕に会いに来たんじゃない……」
「……あんまり思い詰めすぎんなよ。ひなさんからチョコ預かってるから、机置いとくよ。ハッピーバレンタインだってさ」
「……ん」
 今日はバレンタインだったのか。彼女が僕に?ありえないだろ。
机を見ると、確かに上に袋が置いてある。
「……君は、優しすぎるよ」
振った男にチョコを渡すなんて、お人好しにも程がある。
彼女の優しさが胸に突き刺さる。
同時に、自分が惨めに思えた。
「どうせ義理だ」
ひねくれた考えをするしか、僕の心を安定させる術はなかった。

 不意に、僕の携帯に電話がかかってきた。 
彼女からだ。
「……なんだよ今さら」
悪態をつきながら携帯を手に取る。
「……はい」
「あ、ハルキさん……」
電話越しに聞こえた声は、妹のういちゃんのものだった。焦っているようにも聞こえる。
「ういちゃん?どうしたの?」
「あ、あの……。お姉ちゃんが、事故にあっちゃって……!総合病院に搬送されて!」

 気付くと、僕の足は駆け出していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃です。この度、陛下から離婚を申されたので

ラフレシア
恋愛
 陛下から離婚を申されたので。

公爵令嬢の私を捨てておきながら父の元で働きたいとは何事でしょう?

白山さくら
恋愛
「アイリーン、君は1人で生きていけるだろう?僕はステファニーを守る騎士になることにした」浮気相手の発言を真に受けた愚かな婚約者…

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

【完結】旦那様、お飾りですか?

紫崎 藍華
恋愛
結婚し新たな生活に期待を抱いていた妻のコリーナに夫のレックスは告げた。 社交の場では立派な妻であるように、と。 そして家庭では大切にするつもりはないことも。 幸せな家庭を夢見ていたコリーナの希望は打ち砕かれた。 そしてお飾りの妻として立派に振る舞う生活が始まった。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

側室は…私に子ができない場合のみだったのでは?

ヘロディア
恋愛
王子の妻である主人公。夫を誰よりも深く愛していた。子供もできて円満な家庭だったが、ある日王子は側室を持ちたいと言い出し…

【完結】騙された侯爵令嬢は、政略結婚でも愛し愛されたかったのです

山葵
恋愛
政略結婚で結ばれた私達だったが、いつか愛し合う事が出来ると信じていた。 それなのに、彼には、ずっと好きな人が居たのだ。 私にはプレゼントさえ下さらなかったのに、その方には自分の瞳の宝石を贈っていたなんて…。

結婚前の彼の浮気相手がもう身籠っているってどういうこと?

ヘロディア
恋愛
一歳年上の恋人にプロポーズをされた主人公。 いよいよ結婚できる…と思っていたそのとき、彼女の家にお腹の大きくなった女性が現れた。 そして彼女は、彼との間に子どもができたと話し始めて、恋人と別れるように迫る。

処理中です...