30年越しの手紙

星の書庫

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 次の日から僕は、一ヶ月の謹慎処分となった。
女子生徒に手を上げたのだから、当然といえば当然かもしれない。
 僕はまた、一人の生活に戻った。
彼女からの連絡はない。それに、僕から連絡する気も起きなかった。
家にいる間は、ずっとゲームをしている。新しい物も買う気になれないので、一度クリアしたゲームをする。特に楽しくはなかった。
母さんも弟も、父さんも、そんな僕に文句を言ったりはしなかった。

 半月が経った頃。彼女からメールが来た。
『今日、家に行っても良いかな?ちょっと、話したい事があるからさ』
とうとう彼女も、僕に愛想を尽かしたんだろう。僕は『分かった』とだけ返信して、部屋を片付ける。

 夕方には、メールの通り彼女が家に来た。
「ひ、久しぶり……」
ぎこちない笑顔を浮かべる彼女は、少しやつれていた。
「うん。久しぶり……。中、入りな?」
「う、うん……」

「話ってさ……」
「だいたい分かってるよ」
「え?」
「僕が、あの二人を殴った事でしょ?」
「まあ、そうだけど……」
「呆れた?」
「い、いや……。そうじゃなくて」
「ムカついたから殴っただけだよ。それ以上のことはない」
「……うん」
煮え切らない。用件があるなら早く言えば良いのに。
……それは僕も同じか。
「用があったんじゃないの?」
「あっ、うん……。えっとね」
「うん?」
「あの……。えっと、その……」
「煮え切らない。そういうの嫌いだな」
「っ……!な、何よ!」
「なんでもないよ」
「なんでもあるじゃん!ハルキのばか!」
「バカとはなんだよ!いつまでも何も言わない君が悪いんだよ!」
「私は悪くない!ハルキが嫌いなんて言うからじゃん!」
「焦らすのが嫌いなんだよ!」
「別に焦らしてなんかない!」
「だったらなんだよ!僕が悪いのかよ!」
「そうじゃないもん!」
「どういうことだよ!」
「どういう事でもないもん!」
「何かあるなら早く言えよ!」
「もう良いもん!」
「良いってなんだよ!早く言えよ!」
「言わない!」
「あぁ⁉︎」
「な、何よ……」
「もう良いよ。言わなくて」
「ハルキが聞いたんじゃん……」
「言いたくなくなったんなら仕方ないでしょ」
「……」
「なに?」
「人の気も知らないで」
「なんだよそれ!」
「なんでもない!」
「なんでもないわけないだろ!人の気も知らないで⁉︎じゃあ君は、僕の気持ちが分かるのかよ!」
「わかるわけないでしょ!」
「だったら僕も、君の気持ちなんてわかるわけないだろ!」
「あぁそうですか!ハルキなら私の痛み、分かってくれると思ったのに!期待した私が悪かったよ!ハルキなんてもう知らない!どこぞでのたれ死んじゃえばいいんだ!」
「あ、おい!」
 彼女は、荷物を持って部屋を出て行った。
ドアを閉める横顔は、涙に濡れていた。

 しばらくして、母さんが帰ってきた。
「あんた、ひなちゃん泣いてたけど?何かしたの?」
「……なにもしてないよ。自爆しただけじゃないの?」
「あらそう……。夕飯、いる?」
「いらない……」
「……お風呂。沸かしておくから、入っちゃいなさい。今日は早く寝な」
「……分かってる」
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