30年越しの手紙

星の書庫

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告白

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 始業式から数日後の体育の時間。彼女は倒れた日から、体育の授業に出なくなっていた。
 眠たそうに授業を見ている彼女は、どことなく落ち込んでいるように見える。
「……どうかしたのかな」
その直後、僕の頭を目掛けてボールが飛んでくる。
「ハルキ!危ない!」
「え?痛ぁ⁉︎」
「ギャハハ!彼女ばかり見てんなよ!バーカ!」
ボールは直撃し、翔をはじめとした男子たちが大爆笑した。
彼女もこっちに気付いたらしく、小さく笑っていた。
「ほら、大丈夫か?」
翔が僕に手を差し出してきた。僕は彼の手を取って、礼を言った。
「……ありがとう」
「次は気を付けろよ?」
「気をつけるよ」
「おう!」
彼はニコニコ笑う。

 体育が終わると、いつも通り僕は彼女の所へ行く。
彼女は笑っていたけど、僕は授業中の彼女が気になっていた。
「ハルキはドジっ子だねぇ」
「ひなに言われたくないな」
「えー?」
彼女の笑みには、いつもの元気がない。
「どうしたの?何かあった?」
「えっ?いやいや。なんでもないよ?」
彼女は肩を震わせて、無理に笑顔を作った。
彼女が僕に隠し事をするのは初めてだ。
彼女の言いたくないことは無理に聞かないようにしようと思い、彼女の様子に気づかないフリをした。
「そっか。何かあったら言ってね?」
「う、うん!ありがとう!」

 その日の授業が終わると、彼女は涙目になって、僕の所までやってきた。
「ハルキ……」
「うん?どうしたの?」
「きょ、今日……暇?」
「暇だけど、何かあった?」
泣きそうな彼女に、僕は優しく手を置いた。
「うん……。家、良いかな」
「僕の家?良いよ。話ならいくらでも聞くから」
「ありがと……」
彼女は、それだけ言うと泣き出してしまった。
「と、とりあえず!家に行こう⁉︎」
「うん……」

 僕の部屋に入ると、彼女は僕に抱きついてきた。
「どうしよう……。私、わだじぃ……」
「わっ、ちょっ!?なんで泣いてるの!?」
「謝らなくちゃいけないことがあるのぉ……」
彼女がここまで泣くのは珍しい。僕はそんな感覚で話を聞いていた。
……彼女の告白を聞くまでは。

 彼女は落ち着くと、ゆっくりと話し始めた。
「私ね……。病気らしいの」
「……ん?」
彼女の言葉を理解するのに時間がかかった。
「病気……?ってあの、病気?」
「うん……。ハルキが言ってるような意味」
「……どんな?」
「分からない……。でも、軽くはないらしいの」
「それって、どのレベルで……?」
「結構……やばいらしい」
 その時、僕の脳内を何が支配したのかは分からない。
ただ、僕はその現実を、受け入れるだけの頭がなかった。
「黙ってて、ごめんね」
違う。謝るのは僕の方なんだ。

 僕は彼女のために、何が出来るのか。
それは、僕には分からないし、彼女にも分かるはずがなかった。
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