30年越しの手紙

星の書庫

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一人の日常

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「私、彼氏が出来たの」

「え……?」
「ごめんね。もう、ハルキと一緒にいられなくなっちゃった」
 笑いながらその場を去っていく彼女に、僕は声をかけられなかった。

 次の日から僕は、学校を休むようになった。
 中学の頃に戻っただけ。そう思っていた。それなのに、心の中は空虚なままだった。

 彼女に会いたい。話したい。日に日に欲望は強くなっていく。
 それに比例するように、彼女が他の男の恋人だと言う現実に、僕は打ちひしがれていった。

 一ヶ月経った頃だろうか。完全な不登校として、外に出る事がなくなっていた僕は、久しぶりに外出をした。散髪のためだ。
散髪が終わり、ついでに高校を覗きに行こうと思い、裏門の横を通った。

「い、いや!やめて!」
「大人しくしろ!人が来たらどうするんだ!」
聞き慣れた心地良い声と、男の声が聞こえた。

「っ!な、何してるんだ!」
無意識に体が動いていた。僕は、彼女に覆いかぶさっている男を殴り飛ばした。
「あ……。ハルキ……」
案の定、彼女だった。助けに来て正解だったと思う。しばらく黙っていると、男が起き上がった。
「いっ……。何すんだてめぇ!」
「お前こそ、何してるんだよ!」
「俺の女なんだから、好きにして良いだろうがよ!」
あぁ……。こいつが、彼女の言っていた男か。
「彼女を大切に出来ない男なんて、この子に相応しくない!お前なんかより……。よっぽど俺の方がこの子を幸せにできるね!」
僕は、何を言っているんだ?
「あぁん?てめぇ、俺が誰だか分かってんのか?」
「し、知らない!ただ、お前がろくでなしの糞虫なのは分かってる!」
「あぁ⁉︎」
男は殴りかかってきたが、僕はそれを楽々と躱す。すかさず、カウンターの一撃をお見舞いしてやった。男はその場に倒れ込み、気絶している。
「もう……彼女に近付くな」

 すると、周りから歓声が上がった。いつの間にか、ギャラリーが僕たち三人を囲んでいたらしい。

 すぐに、先生が駆けつけてきた。
僕と彼女は、先生からの事情聴取を受けることになり、男は医務室へと運ばれた。

 三時間拘束され、家に帰り着いたのは七時過ぎだった。
我ながら馬鹿な事をしたとは思う。僕は、殴りかかった理由を話さなかった。
話したら、彼女が大変だと思った故の結論だ。説教を喰らったが、後悔はしていない。
手を出したのは僕なので、二ヶ月間の自宅謹慎を受けることになった。
……謹慎じゃなくても学校には行かなかっただろうけれど、家にいられる理由が見つかって、嬉しかった。

 もう、彼女に合わせる顔がないな……。
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