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王都戦の準備……です?

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《梓side》
    「王都戦?君達、王都戦に参加したいのかい?」
「はい。でも、どうすれば参加できるんですか?」
「ギルドには入っているかい?」
「……来たばかり」
「入っていない……で合っているね。まずギルドの会員にならないとな。案内するよ、ついてきな」
「は、はい。さえちゃん、行こ?」
「……ん」
衛兵に言われるがまま、私達はギルドに赴いた。小汚い看板には、ギルド とだけ書いてあった。
「ここがギルドだよ。君達、読み書きはできるかい?」
「……出来る」
「そうかい。じゃあ、君達だけでいけるね?」
「……ん」
「親切にありがとうございます」
「これも衛兵の仕事さ。王都戦の説明は、ギルドでされるから。君らにご武運を」
「……ん」
「ギルドへようこそ!何用で?見ない顔ですねぇ。ギルドに登録したいんで?」
「……ん」
「はい!王都戦に参加したくて、ギルドに入らないといけないって聞いたので……」
「そういう事ならお安いご用です!お二人とも登録で?」
「……ん」
「先ずは、この書類に目を通してくださいな。ギルドに入るにあたっての注意事項と、決まり事です。説明しますね」
「はい!」
「……ん」
「最初に、注意事項を説明しますね。このギルドでは、入る際に職業を選んでもらわなければならないんです」
「ふ、ふむふむ……」
「……ん」
「職業には大きく三種類あります。騎士職、魔導職、兵職の三種類ですね」
「騎士職は、『ラプラスの加護』を受けた人がなるんです。魔導職は『イリヤの加護』を受けた人が。兵職は……。加護無しがなる職業です」
「……ん」
「じゃあ僕は魔導職で、さえちゃんは騎士職だ!」
「……ん」
「お?君達二人は加護持ちのようで?」
「はい!僕が『イリヤの加護』で、さえちゃんが『ラプラスの加護』です!」
「だったら話は早いですね。名前をお伺いしましょうか。男の子の方は?」
「僕は九条伊織です!こっちの女の子が中森梓ちゃん!」
「クジョウイオリ様と、ナカモリアズサ様ですね……。承りました。次に、他の加護を持っているか聞いてもいいですか?」
「……『剣神の加護』」
「なんと!その加護は……。いえ、なんでもありません」
「僕は……『正賢者の遺志』ですかね」
「『正賢者の遺志』ですか ︎ということは……。マーリン様がお亡くなりになられたのですか」
「はい……。僕達を庇って死んじゃったんです」
「そうですか……。ご冥福を」
「……ん」
「注意事項はもう特にありませんね。次に、決まり事ですね」
「はい……」
「このギルドでは、基本的に争いを好んでいません。ですので、一度他のギルド会員との争いを起こせば相応の処分を取らせていただく事になります。よろしいですか?」
「はい!」
「……ん」
「後は……。決まり事ではありませんが、暗黙の了解として知っておいて欲しいのが一つ。ギルドでは等級制度は設けていませんが、こなした以来の数や難易度によってギルドカーストに位置付けられます。ギルドカーストは身分みたいなもので、より高難易度のものやより多くのものをこなせば、優遇されます。駆け出しでは舐められることが多いので、簡単なものを少しづつ進めていきましょう」
「……ん」
「……うにゅ。ほとんど分からない」
「ゆっくり慣れていけば良いですよ」
「はい……」
「これで説明は以上です。質問はありますか?」
「……ない」
「さえちゃんがないなら僕も……」
「承知しました。そう言えば、王都戦の参加をしたいと言っていましたね。お二方出るので?」
「まだ分かんないけど……。説明を聞いてから決めます」
「分かりました。王都戦の説明をしますね。王都戦は、月に一回開催される戦いのイベントです。腕に自信のあるギルドの会員達が、大賢者様に刃を向けられる唯一の催しでもあります」
「ふむふむ……」
「ルールはいたって簡単です。大賢者様が倒れれば、その場に残っている者共の勝利。それだけです。何人でかかっても構いません。勝てれば、騎士職の者は剣聖になり、魔道職の者は大賢者になることができます」
「それじゃ、二人以上残った時は……」
「その時は、最後の一人になるまで争ってもらいます。ギルドの注意事項は無視して大丈夫です」
「そうなんだ……。どうする?」
「いおりが出ていい」
「良いの?さえちゃんは?」
「応援しておく」
「そっか!じゃあ、僕だけが王都戦に参加します!」
「クジョウイオリ様がご参加ですね……。日時は一週間後の早朝。場所は……街の中心部にあるコロッセオです。ご武運を」
「ありがとうございました!頑張りますね!」
「……ん」
「登録は完了していますので、依頼を受けたい時はここに来てくださいね」
「……ん」
「はい!」
    私達はギルドを後にし、王都を散策していた。ギルドを後にするときに捕捉された事が一つあった。ギルドに会員証のような物は無く、ここを出る際に特殊な魔法をかけられたそうだ。これで同業者は、私達が会員である事が一目でわかるらしい。
「魔法って便利だね……」
「……ん」
「一週間後かぁ。どうする?マーリンさんが一緒に守っていた荷物でお金はあるから、宿を探す?」
「そうする」
「うん!そうしよう!どこが良い?一週間泊まるから、高すぎるところは選べないよね……」
「……ん」
私は周囲を見渡し、手頃な宿を指差した。
「あそこがいい?」
「……ん」
「そっか!じゃああそこにしようか!」
    チェックインを済ませて、私達は同じ部屋に入った。
「疲れたぁ……」
「……ゆっくり休んで」
「うん!さえちゃんも一緒に休も?」
「ぇっ ︎」
「ん?さえちゃんどうしたの?」
「……」
「あっ……ご、ごめん!そんなつもりじゃなかったんだよ?」
「……ん」
「……」
「……」
「暇だね!何しようか!」
「……ん」
「何もする事ないよね……」
「……ん」
「お腹空いたし、夜ご飯食べよっか?」
「……そうだね」
「どこ行きたい?レストラン?」
「……ん」
「じゃあ、そうしよっか!」
「明日からどうしたい?やりたいことある?」
「いおりは?」
「うぅん……。僕は、さえちゃんが良いなら一緒に観光したいなぁって思うんだけど、どうかな?」
「ん。良いよ」
「やった!じゃぁ、観光しよっか!」
王都戦を一週間後に控え、特に準備する事もなくなった私達は、王都での観光を満喫することにした。
《伊織side》
「いおり、おいしい?」
「うん!ここのビーフシチューって変な色してるけど、やっぱり美味しいね!」
「……ん。美味しい」
「王都の人に聞いて正解だったね!ここに来て五日が過ぎたけど、聞かなかったらこんなの食べてないもんね!」
「……ん」
    僕とさえちゃんは、商業街にある小さなレストランで晩御飯を食べていました。三日間は王都の観光をして、昨日からギルドで依頼を受けています。今日の依頼は、城壁の近くにいる魔獣の駆除でした。
「今日の依頼は疲れたねぇ……。昨日よりも数が多くてびっくりしちゃった」
「……ん。いおり、頑張ってた」
「えへへ……。同業者の皆さんに補助魔法をかけてただけだよ。さえちゃんこそ、一人で三百体だっけ?凄かったよ!こう、しゅばぁんって!」
「……ん」
「おぉ。昼間の二人組じゃないか。お手柄だったな」
「あ!レイさん!お疲れ様です!」
「……ん」
「相変わらず嬢ちゃんは無表情だなぁ」
    二人でご飯を食べていると、依頼で出会った騎士職のレイさんがこっちに来ました。
「しっかし、新人なのに二人とも腕が良いなぁ。王都戦を目指してここにきたんか?」
「……ん。師匠の仇」
「あ、さえちゃんそれは……」
「師匠の仇?なんだ、大賢者様に師匠を殺されたのか?」
「……ん。堕ちた賢者マーリン・セイジャスト」
「なにぃ ︎お前さんたち、あのマーリン様の弟子だったのか ︎それに、マーリン様が殺されたぁ ︎」
「ちょっ!声が大きいですって!」
慌てて周りを見ると、そこにいた人達が皆こちらを見ていました。僕達を見ながら、ヒソヒソと話しています。
「うぅ……。秘密にしてたのに」
「……ごめん」
「これは失礼しました。ご無礼を働いたことをお許しください……」
「僕達は偉くないから気にしないでください!」
「……ん。今まで通りでいい」
「そ、そうか……」
「はい!」
「……ん」
「ま、まぁ詳しくは聞かないでおくとしようか。とりあえず、二人とも頑張れよ!」
「え?は、はい……」
「……いおり、逃げよう」
「え?」
「厄介なことになる……」
振り向くと、そこにはさっきまで席についていた人達がいました。皆一様に、目を輝かせて。
「マーリン様のお弟子様!サインをください!」
「私にも!」
「僕にも!」
「握手して下さい!」
「え、ちょ、ちょっとまってぇ!」
「……逃げよう。こっち」
「うん!ありがとうさえちゃん!」
その夜は、一晩中鬼ごっこをしていました。噂が王都中に広まって、それを聞きつけた人達が宿に押し寄せてきて大変でした……。
    王都戦まであと二日、避けたかった面倒ごとを引き起こしてしまいました……。
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