蜥蜴と狒々は宇宙を舞う

中富虹輔

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エピローグ

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 半年間にわたる宇宙狒々の襲来を、今回も人類は退け、生き残ることができた。
 そして人々に平穏な日常生活が戻ってきたある日。
 オストーコロニーの宇宙港。シャープエッジ宇宙サービスの専有エリアの一角で。
「それじゃあね、タニー! 元気でね! ノーマコロニーに戻ったら、連絡ちょうだいね!」
 目に涙を浮かべてタニーの手を取り、ぶんぶんと振り回しているのはメイベルだった。
 そんなメイベルに、タニーは苦笑いを浮かべて「はい、わかりました」とうなずく。メイペルの背後、少し離れたところでは、一通り挨拶をすませたシャープエッジ宇宙サービスの上司や同僚たちがタニーと同じような苦笑いを浮かべていた。
 そして。
 タニーの背後には、乗降口が開いた宇宙船が一機、静かにたたずんでいた。
 宇宙船の機首には、鎧兜に身を包み、剣と盾を構えたトカゲの戦士が描かれている。何か月にもわたる戦いをくぐり抜けてきた機体には、激戦の痕跡である傷がそこここに残っていたが、機首に描かれたトカゲの戦士の絵だけは、今日に合わせて新たに描き直されていた。
 そして機体後部に目を向ければ、これもやはり傷だらけのエンジンモジュールが接続されている。モジュールには再建なったカグツチエンジンが搭載されており、今日のこの飛行が、カグツチのひとまずの飛び納めとなる予定になっていた。
「メイベル、ほどほどにしとけよ。タニーが困ってるじゃねえか」
 リザードマンから降りてきたラウルが、あきれ顔で声をかける。タニーとメイペル、二人の目が同時にラウルの方へ向いた。
「だってえ……」
 駄々っ子のような声を出したメイベルに、
「べつに今生の別れってわけでもねえんだ。宇宙狒々も当分は襲ってこねえし、会おうと思えばいつだって会えるだろ」
 ため息まじりにラウルはいった。
「発進準備は完了したぜ。忘れ物はねえな?」
「はい、大丈夫です」
 うなずいて、タニーはラウルの愛機リザードマンに目を向けた。その視線に気づいたか、ラウルもまた愛機へと顔を向ける。
「長かったような短かったような、って感じだな」
「そうですね」
「このあとカグツチが使えなくなるのはちっと不便だけどな」
 冗談めかしたラウルの言葉に、小さく笑う。
「まあでも、これまで助かったよ。ありがとな」
「いえ、大したことはできませんでしたし」
「謙遜しなくていいのよ。あなたのおかげで私たちはずいぶん助かったし。私からもお礼をいわせてちょうだい」
 タニーの言葉に反応しようとしたラウルをさえぎって、メイベルが微笑みかけた。
「はい」
 メイベルにうなずきを返し。
「そういえば、ちらっと聞いたけどコースを変えるんだって?」
「はい。両親の専門だった宇宙考古学を学んでみようと思っています。この星系で過去に起きたことを調べることで、別の方向から宇宙狒々に対処する方法が見つかるんじゃないかと思って」
「頑張ってね。あなたならできるわ」
「はい」とうなずくタニーに、
「調査活動に宇宙船が必要になったら、そのときはぜひ我が社にご用命を」
 ラウルはおどけた様子で口を開いた。
「はい。現地調査が必要になったら、ぜひ」
「そのときは、ラウルの給料を半分にして、その分うんとディスカウントしてあげるからね」
「おれの給料かよ! そこは自分の給料だろうが」
 ラウルの抗議を無視して、メイベルがタニーを見つめる。
「じゃ、元気でね。なにか困ったことがあれば、いつでも連絡をちょうだい」
「はい、ありがとうございます。メイペルさんもお元気で。色々とありがとうございました」
「ええ」
 とメイベルはうなずいて。
「ずっとこうしていても名残惜しくなるばかりだし。そろそろおしまいにするわね。じゃ、元気でね」
 そういってきびすを返し、後ろにいた同僚たちの列にまざった。
「よし、じゃあそろそろ行くか」
 ラウルの言葉にタニーはうなずいた。
「はい」
 先を歩くラウルの背中を見ながら。
 タニーは一歩を踏み出した。
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