蜥蜴と狒々は宇宙を舞う

中富虹輔

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第六話

第六話 宇宙の彼方に隠るもの

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 タニーの両親が残したデータにあった謎の天体……エネルギー変換ユニットの命名になぞらえ、「天体D」の呼称が与えられた……の調査が決定したのは、数時間後だった。
 先の戦闘で大きな痛手を負った宇宙狒々防衛軍の再編成にもかなりの時間がかかりそうだということが判明し、比較的身軽な宇宙サービス各社には、その期間中の遊撃や偵察といった任務が課されることが決定していた。
「でまあ、その再編期間の間に、宇宙探検に行ってこようって寸法だ」
 長距離航行用モジュールの接続作業を眺めながら、ラウルは隣に立っているタニーに概略を説明した。
 戦闘用モジュールにカグツチ、そして今回の長距離航行用モジュール。これほどごてごてとモジュールを取り付けるのは、ラウルも初めての経験だった。さすがに戦闘用モジュールのいくつかは取り外されていたが、その機能上どうしても小型化が難しい長距離航行用モジュールが接続されているため、機体の全長は二倍近くなってしまっている。
「ここまであれこれくっついてると壮観だな」
 ラウルは感心半分、あきれ半分でいったが、隣にいるタニーの反応はなかった。
 もともと口数が多い方でもないし、先の戦闘以降、その傾向は強くなっている。それに加えて、つい先ほどの天体Dだ。
 ──まあ、仕方がないか。
 とはいえ、これから一ヶ月ほどを二人だけで過ごさなければならないのだ。「同居人」にいつまでも鬱々としていられたら、こちらも気が滅入ってしまう。
 ──こればっかりはどうしようもないしなあ。
 タニー自身が自分の心に向き合い、うまく折り合いをつけてもらうしかない。
 そんなことを思いながら作業を眺めていると、
「作業は順調?」
 後ろから声をかけられた。
 振り返ると、整備班の数少ない女性エンジニアの一人、メイベルが立っている。
「メイベル、お前の担当はここじゃないだろ? こんなところで油を売ってて大丈夫なのか?」
 メイベルは肩をすくめた。
「私のメイン担当はトール機だったから。今はちょっと暇なのよね」
 残っている機体の整備もほぼ終わっており、実質的にはラウル機の出発準備のみが、現在の整備班の仕事だった。
 説明を聞いてラウルは「なるほどな」とうなずき、
「で、どうした? 何かあったのか?」
「ううん、用があるのはあんたじゃなくてタニーのほう」
「タニーに?」
「そ」と短くうなずいて、メイベルはラウルとタニーの間に割り込んだ。
「大丈夫? 無理してない?」
「はい、大丈夫です」
「そう、良かった」
 メイベルが小さく笑みを浮かべるのを、ラウルは意外に思いながら見ていた。
 少し前に、メイベルにタニーのことを頼もうか、とは思ったが、顔を合わせる機会もなかったので、それは実現していない。
 しかし、二人の様子を見る限りでは、ラウルが思っていた役割を、メイベルは果たしてくれているようだ。気のせいかもしれないが、メイベルと言葉を交わすタニーの表情が、少し明るくなったようにも思える。
 二人は目的地である天体Dのことについて話をしていたが、やがて話は「一ヶ月間もラウルと二人きり」である、という点に焦点が当たるようになった。
「……気をつけなさいよ。寝るときは部屋に鍵をかけて、枕元に何か武器になるものを置いておくのよ」
 ──信用ねえなあ、おれ。
 内心苦笑すると、メイベルの舌鋒がラウルに向いた。
「あんたも、タニーにヘンなことして泣かせたりしたら、機体を爆弾満載にして、遠隔操縦であんたもろとも宇宙狒々に突撃させるからね」
「へいへい」
 ──まるで保護者だな。
 少しあきれて、ラウルは肩をすくめた。
 今回はデータの少ない宙域への航行であるということもあり、航行中のデータ取得も、ミッションの一つになっている。やらなければならないことは少なくはなく、余計なことをしていられる暇など、決してあるわけではない。
 そうこうしている間にも作業は順調に進み、長距離航行用モジュールに物資を積み込む作業が始まっていた。燃料に食料。トラブルを想定した主要部品の予備。十分なスペースがあるはずの長距離航行用モジュールが、大量の物資で埋め尽くされる。
 やがて物資の搬入も終わり、モジュールの搬入口が閉じられた。
 準備はほぼ完了し、あとは最終点検を行っているスタッフが数人、機体にとりついているだけとなった。
「もう出発なのね」
 ため息混じりにメイベルがいう。そしてメイベルは、「そうだ、ねえ」と、タニーに目を向けた。
「今回のミッションが一段落して、オストーコロニーに戻ったら、一緒に食事に行きましょ。おいしいお店、知ってるのよ」
 満面の笑みを浮かべるメイベルに、タニーも「そうですね。ぜひ」と、微笑みを浮かべて応える。
「じゃ、決まりね」
 メイベルはうれしそうにいった。
 話が一段落したようなので、ラウルはタニーに目を向け、
「よし、じゃあ、出発するぞ」
「はい」
 タニーがうなずいたのを確認し、ラウルは愛機に向かって歩き出した。

 天体Dへ向けての航行は順調だった。機体の調子は良く、大きな障害となるものも存在しない。航路のデータ収集ミッションは、逆に収集すべきデータがないという、いささか退屈なものになってしまっていた。
 自分よりも十歳近くも年下の、それも異性と二人きりというのは少々気詰まりではあったが、タニーが寡黙で落ち着いているのも幸いし、大きなトラブルもなく、平穏なままに二週間が過ぎていた。
「カグツチの点検終わりました。問題なしです」
「おう、ご苦労さん」
 コックピットに入ってきたタニーを、ラウルは振り返った。
「少し休憩してきていいぞ。こっちもすこぶる順調だ」
「あ、はい」と応えはしたものの、タニーはコックピットから去ろうとはしなかった。何かをいいたそうにコックピット入り口で立ち止まり、外を見ている。
「どうした? 何か気になるのか?」
「あの、天体Dは?」
「ああ。軌道データが正しいなら、到着まであと三十時間ってところだな。まだ焦るような距離じゃないから大丈夫だ」
 焦るような距離ではないとはいえ、やはり色々と気にはなっているのだろう。タニーがコックピットに残っていてもさして問題はないのだが、今から気を張り詰めていては肝心なところで集中力が途切れてしまう可能性もある。
 ラウルに諭され、タニーは渋々といった様子で、
「わかりました。少し休憩します」
 コックピットを去っていった。
 メイベルのおかげだろうか。少なくとも表面的には、タニーは落ち着きを取り戻していた。
 とはいえ、なるべくなら無理はさせたくない。そのことを考えると、天体Dへの航行が順調なのは幸いだった。
 オーヴィルとの定期連絡では、宇宙狒々の方にも動きはないらしい。
 二週間前の激戦のことを思うと、信じられないくらいに平穏だった。
 ──おれも、少し休憩するか。
 レーダーと目視で、周辺に危険な浮遊物がないかを確認する。しばらくは、自動航行装置にまかせても問題はないだろう。
 ラウルは一つあくびをすると、席を立った。

 異変が起きたのは、天体D到着まで八時間あまりを残した頃だった。
「進行方向に複数の浮遊物があります」
 レーダーを見ていたタニーが顔を上げた。
「浮遊物?」
 はい、とうなずいて、再びレーダーに目を向けたタニーが驚きの声を上げる。
「どんどん数が増えています。目視では数え切れません」
「なんだと?」
 ラウルもあわててレーダーに目を向けた。確かに進行方向に無数の光点が輝いており、さらに機体の移動に伴って、進行方向上の光点が次々に増えている。
 ──小惑星帯か、デブリか何かがたまっているのか?
 現在の速度を維持していれば、浮遊物との接触まではあと一時間くらいだろうか。レーダーは感度のいいものを搭載してきた。そのレーダーがこの距離までとらえられないのだから、浮遊物はさほど大きなものではないはずだ。
 しかし、この距離でレーダーに反応するということは、デブリだとしても、無視できるようなサイズではない、ということでもある。
「タニー、光学観測の用意をしてくれ」
「わかりました」
 どうやら返事をする前から、準備は始めていたらしい。ものの数秒で、サブモニターに望遠映像が表示される。
 二人はサブモニターを注視したが、最大望遠でもぼんやりと「何かがある」ことがわかる程度で、それが何であるかまでは判然としない。
「くそっ、この機体の望遠鏡じゃ、これが限界か」
 毒づくラウルの横で、タニーが何かしているのが見えたが、すぐにタニーも首を横に振って、端末から目を離した。
「画像の鮮明化をしてみたんですけど、この距離ではだめですね」
 そうか、とラウルはうなずいた。
「今さら焦っても仕方がねえか。少し速度を落として慎重に近づこう。もう少し近づけばはっきりと見えるようになるだろうし。タニーは引き続きレーダーの監視を頼む」
「わかりました」
 ラウルは機体の速度を落とした。そうしている間にも、前方の浮遊物はどんどん数を増している。望遠カメラによる映像は次第に鮮明になりつつはあったが、やはりまだ、それが何であるかまでは判然としない。
 さらに速度を落とす。正体がわからない以上、慎重を期してやりすぎということはない。
 そのまま二十分ほどが経過した頃だろうか。ようやく、望遠カメラの解像度でも浮遊物の大雑把な姿をとらえられるようになってきた。
 細長い棒状の物体から、四本の、やはり細長い棒状の物体が伸びている。
 その姿に、ラウルは見覚えがあった。
「宇宙狒々、か?」
 間違いない。宇宙空間を大量の宇宙狒々が漂っている。かなり近づくまでレーダーに反応しなかったのも、相手が宇宙狒々だというのなら納得もできる。
 ──だけどこいつは……。
 すぐにラウルは、その異変に気づいた。
 宇宙空間を漂っている宇宙狒々は、いずれも明確な意志を持っているようには見えない。あるものは四肢を投げ出し、またあるものは、背中を丸め、四足動物のような姿勢で宙に浮いている。
「死んでいるんでしょうか?」
「わからん」
 ラウルは首を振った。光学映像をとらえたといっても、まだそこそこの距離はある。身動き一つしないところを見れば、活動を停止しているようにも見えるが、宇宙狒々の生態についてはわかっていないことも多い。仮死状態で漂っているだけという可能性も捨てきれなかった。
 仮にこれが、一時的に活動を停止しているだけで、何らかの刺激で息を吹き返すのだとしたら。
 ──さすがにこの数がいっぺんに押し寄せてきたら、おれたちは宇宙の藻屑だろうな。
 最悪の可能性も考慮に入れて、ラウルは機体をさらに減速させた。
「しばらく状況を観察しよう。この距離を保ったまま、いったん相対速度を合わせるぞ」
 緊張の面もちで「はい」と応えるタニーに、
「ところでタニー。コーヒーを入れに行くのと、ここで宇宙狒々の観察を続けるの、どっちがいい?」
 ラウルは冗談めかして問うた。

 三十分が経過し、一時間が経過した。
 宇宙空間を漂う宇宙狒々の姿をした浮遊物に、変化は見られない。
「どう思う、タニー?」
「わかりません」
 タニーの応えはにべもない。
「レーダー画像の差分を見る限りでは、明確な意志を持って動いている個体はなさそうです」
 少なくとも、この一時間の状態を見る限り、前方にあるのは意志を持たない浮遊物である可能性が高い。
 あとは、その浮遊物が仮死状態の宇宙狒々である可能性だが、こればかりは確認のしようがない。うかつなことをして眠れる獅子ならぬ狒々を起こしてしまえば大変なことになってしまう。
 だが、だからといってここで何時間も様子を観察していても、おそらくは何も変わらないだろう。
 ──思案のしどころだな。
 腕組みをしたラウルに、
「あの」
 おずおずとタニーが声をかけてきた。
「先に、進んでみませんか?」
「先に?」
 タニーがそのような提案をしてきたことに少し驚いて、ラウルはタニーに目を向けた。
「万が一のこともある。もう少し様子を見た方がいいんじゃないか?」
「いえ」
 タニーは小さく首を横に振った。
「二十年前に父と母が天体Dに行ったのなら、二人とも、ここを通って天体Dに行き、ここを通って帰ってきているはずです」
 二十年という時間は長い。二十年前にはなかったものが、今ここに存在しているという可能性も否定はできない。
 しかし、タニーの目は本気だった。
「あと、根拠はないんですけど、あそこを漂っている宇宙狒々は、もうすべて死に絶えているように思えるんです」
 ラウルはタニーを見つめた。若いエンジニアは、まっすぐにこちらを見つめている。
 わずかな逡巡の後、ラウルは、
「わかった。行ってみよう」
「はい!」
 タニーがうなずき、操作パネルに向き直る。ラウルもシートに座り直し、必要最低限まで絞っていたエンジンの出力を上げた。
「とりあえず、安全が確認されるまではゆっくりと近づくぞ。どのみち、こんだけ大きなデブリがごろごろしていたら、危なっかしくて全速で進むのは無理だ」
「はい。念のため、カグツチはいつでも出力を上げられるようにしておきます」
「ああ、頼んだ」
 うなずいて、機体を前進させる。
 徐々に浮遊物宙域が近づくにつれ、ラウルの心配が杞憂だったことがわかってきた。次第に鮮明になる宇宙狒々は、そのいずれもが、明らかに生命活動を停止させていたのだ。
 腕や足、頭がないもの。上半身だけ、あるいは下半身だけのもの。ざっと見回した限りでは、完全な形をとどめているのは半分に満たないのではないだろうか。
 原型をとどめているものでも、手足があらぬ方向へねじ曲がっていたり、胴体が逆方向に折れ曲がっていたりと、まともな状態のものはほとんど見られない。仮にこれが仮死状態だったとしても、この姿では、息を吹き返したと同時に絶命してしまうだろう。
 最初は慎重だったラウルも、徐々に緊張を解いていった。決して気を緩めていいわけではないが、臨戦態勢を続けなくてよければ、精神的にも余裕ができる。
 やがて機体は、浮遊物宙域に突入した。宇宙狒々が襲ってくる可能性は低くなったとはいえ、今度は浮遊している宇宙狒々の死体そのものが、大量の大型デブリとして行く手を阻んでくる。ラウルは慎重に機体を操縦した。
 すぐ目の前を、宇宙狒々の死体がかすめていく。
 その姿を目で追っていたタニーが、ぽつりとつぶやくようにいった。
「この宇宙狒々は、どうしてこんなところにいるんでしょう」
「さあな」
 ラウルは早々に思考の放棄を宣言した。
「ただまあ、この連中は、おれたち人間と戦って、ここに流れ着いたんじゃないことは確かだろうな」
「やっぱり、そうですよね」
 タニーはうなずいた。
 この宙域を漂っている宇宙狒々の身体には、人間が作った兵器によって傷ついたあとがない。
 ビーム弾を受ければ焦げあとや貫通した穴が開くはずだし、小型の宇宙狒々がミサイルの直撃を受ければ、腕や足などは粉々に吹き飛ぶ。
 そういった傷を負った宇宙狒々の姿が、この宙域には全く見られなかった。
「それにしても、どうやったら、宇宙狒々をこんな風に倒せるんだろうな」
「そうですね」
 手足をねじ曲げる。身体をへし折る。
 どれも人間の兵器でできる芸当ではない。こんなことができるのは、宇宙狒々と同等か、あるいはそれ以上に巨大な生物、ということになりはしないだろうか。
 宇宙狒々の死体が散乱していることを考えれば、少なくともその生物は宇宙狒々とは敵対している、ということではあるだろう。
 だからといって、その生物が全面的にこちらの味方になってくれるという保証はどこにもない。
 ──まさか、な。
 ラウルはあわてて、飛躍しすぎた発想を打ち消した。今は天体Dに向かうことを最優先にすべきだ。よけいなことを考える必要はない。
 やがて唐突に、宇宙狒々の死体が浮かぶ空間が途切れた。まるで見えない壁でもあるかのように、特定のラインを境目に宇宙狒々の姿が消え去る。
「なんなんだ、こりゃ」
 徐々に遠ざかっていく宇宙狒々の姿を後方モニターで確認して、ラウルはつぶやいた。
 答えを求めたところで、明確な解答など出てくるはずもない。天体Dも目と鼻の先となっているため、ラウルはすぐに思考を切り替えた。
「まあいい。とりあえず、先に進もう。浮遊物宙域のおかげで、よけいな時間をくっちまったしな」
 タニーに伝えるというよりも、自分にいい聞かせるように、ラウルはいった。
 ざっと見た限りでは進行方向に障害物は見あたらない。ラウルは機体を加速させ、一直線に天体Dを目指した。
 浮遊物宙域を抜けるのに神経をすり減らしてもいる。ラウルはタニーに状況観察を頼むと、自動航行装置を起動し、休憩に向かった。

 やがて機体の望遠カメラが、天体Dをとらえた。近づくにつれて鮮明になってきた天体Dの姿に、ラウルとタニーは驚きの声を上げた。
「こいつはまた……とんでもないものが出てきたな」
 天体Dは、明らかな人工物だった。

 くすんだ銀色のドーナツ。それが、天体Dをもっとも端的に表す言葉だった。
 スタンフォード・トーラスと呼ばれるタイプのスペースコロニーに近い形状の構造物ではあったが、スペースコロニーとの最大の相違は、そのサイズだった。
 スペースコロニーであればキロメートル単位の大きさをもつのが普通だが、天体Dはそれよりもはるかに小さい。タニーの計算によれば、直径は大きく見積もっても精々百メートル程度だという。この程度の大きさでは、人間サイズの生物が居住していたとしても、その人数は限られるだろう。人間の基準に当てはめれば、小規模な基地か、宇宙ステーションといったところだろう。
 ラウルは慎重に、機体を天体Dへと接近させていった。徐々に近づく天体Dが、より鮮明な姿を見せ始める。
 まだ詳細はわからないが、それが、人間が作った宇宙ステーションの類ではないことは明白だった。
 宇宙ステーションにせよスペースコロニーにせよ、人間が作ったものには、中に入るための入り口が存在する。
 しかし、望遠カメラからの映像を見る限り、天体Dには、宇宙港らしき入り口もなければ、宇宙船を接続・係留するための構造物も見あたらなかった。
 ただ、天体の規模を考えれば、なんらかの方法で中に入ることができなければおかしいような気もする。
 ──まあなんにしても、もっと近づかないとわからんか。
「タニー、天体Dを目視できるところまで近づくぞ。なにが起きるかわからないから、周囲の監視はしっかりとやってくれ」
 はい、というタニーの返事を聞きながら、ラウルは機体をさらに天体Dへと近づけていった。望遠カメラの倍率は徐々に小さくなっていき、やがてラウルたちの視界に、銀色のドーナツ状の構造物が入ってくる。
 望遠カメラの映像でもわかっていたことだが、直径百メートルの構造物だというのに、天体Dには継ぎ目のようなものが見あたらない。望遠カメラの分解能の限界で継ぎ目が見えないのかと思っていたが、どうやら本当に、天体Dには継ぎ目が存在していないらしい。
 無論人類には、これほど巨大な構造物を、分割せずに作る技術はない。
「この星系には、人間と宇宙狒々以外にも生物がいる、ってことなのか?」
「いた、のかもしれませんね」
 つぶやくようにいったラウルに、やはりタニーもつぶやくように応えた。
「私の両親は、宇宙考古学者でした。もしかしたら、この星系に存在していた文明の痕跡を、どこかで見つけていたのかもしれません」
 そしてその痕跡から、この天体Dの位置を推測した。
 あり得ない話ではないな。ラウルは思った。
 だとすれば、ここに浮いている天体Dは、人類がこのアートルー星系に入植する以前に栄えていた文明のもの、ということになるのだろうか。
 いずれにしても、判断材料が少なすぎる。天体Dの正体を知るには、もっと接近する必要がありそうだった。
「よし、それじゃあ天体Dとランデブーといくか」
 ラウルが宣言した、その直後だった。
 無線通信の呼び出し音が、コックピットに鳴り響く。
「なんだ? なにがあった?」
 ラウルは、それが母艦オーヴィルからのものであると疑っていなかった。あわてて回線のスイッチを入れようとして、しかしその手が止まる。
「民間船の周波数?」
 オーヴィルからの通信には、専用の周波数が割り当てられている。しかし、現在こちらに届いているのは、民間の航宙会社などで広く使われている帯域のものだった。
 この帯域の電波は減衰が大きいため、人類の活動圏から送られてきた電波は、リザードマンに装備されている受信アンテナでは受信できないはずだった。
 本来なら受信できないはずの電波が届き、目の前には人類以外の何者かが建造したと思われる構造物が浮かんでいる。
 無線通信の発信元は明らかだった。
 ──まさか、向こうから接触してくるとはな。
 はやる気持ちを抑えながら、タニーに目を向ける。考えていることは一緒だったようで、ほとんど同時に、タニーもこちらに目を向けてきた。
 タニーが緊張の面もちでうなずくのを見届け、ラウルは通信回線を開いた。
「こちらシャープエッジ宇宙サービス、ラウル……」
『遠路はるばるご苦労じゃったの。ワシの名はナルファルサス。堅苦しい挨拶は抜きにして、まあひとまず、こっちに来るといい』
 マニュアル通りのラウルの言葉は、ひどく陽気な男の声に遮られた。声は若いようにも、齢を重ねた老人のようにも聞こえる。
 こっちってどっちだよ、と問おうとして、ラウルは言葉を飲み込んだ。視界の中にあるもので、「こっち」と呼べるものは一つしかない。
「ナルファルサスっていったな。あんたほんとうに、そこのリング状の構造物の中にいるのか?」
 ラウルは問うた。
『厳密にいうなら「中」というのはちと語弊があるがの。まあおおむね当たっておるよ』
 応える声はなぜか楽しそうだった。ラウルはタニーに目を向け、
「せっかくここまできたんだ。招待に応じるとしようぜ」
「はい」
 タニーは真剣な眼差しで天体Dを見つめている。
 ──さあ、鬼が出るか蛇が出るか。
「よしわかった。これからそちらへ向かう。もうしばらく待っていてくれ」
『いくらでも待つともさ』
 ナルファルサスはうれしそうに応えた。
『誘導灯を灯すでの。そこから入ってきなされ』
 次の瞬間、天体Dの一角に、青白い光が灯った。
「了解」
 ラウルは応え、機体を誘導灯へと向ける。
 徐々に近づく天体Dを見ながら、ラウルは通信回線が開いたままになっていることを確認し、
「そっちにつくまではもう少し時間がかかりそうだ。少し、話をしてもいいか?」
『無論。大歓迎じゃぞ』
 返事はすぐに返ってきた。
「こっちの話は質問ばかりになっちまうと思うが、大丈夫か?」
『ああ、問題ないとも。もちろん、ワシが応えられる範囲でなら、という条件付きではあるがね』
 応える声は相変わらず陽気だった。
「じゃあ、遠慮なく聞かせてもらうぜ。とりあえず確認したいんだが、あんたは人間なのか?」
『お主らの基準でいうのなら、答えは「否」じゃな。ただまあ、知的生命体、という観点でいえば、ワシらのメンタルは、お主らとそう変わりはせんよ。お主らと似たような価値観や倫理観、感情を持ち、お主らと似たような知的探求を行った歴史をもっておる。一応は、「話せばわかる」相手ではあると自負はしておるよ』
 なるほどな。ラウルはうなずいた。
「てことは、あんたらはこの星系の先住民、ってことでいいのか?」
『そういう認識でかまわんよ。残念ながら、ワシらはもう滅亡一歩手前、という状態じゃがの。お主らがこの星系でなにをやろうと、ワシらは文句をいうつもりはないよ』
 滅亡、という言葉に、ラウルとタニーは顔を見合わせた。
 思わず、といった様子で、タニーが口を開く。
「あの、それは宇宙狒々に滅ぼされた、ということですか?」
『いやいや、ワシらはそれほどヤワではないぞ』
 ナルファルサスは楽しそうに応えた。
『まあ、アレとは散々やりあったがね。ワシらの衰退の直接の原因は、種族そのものの寿命、としかいいようがないの。高度な文明を築いた結果、個々の繁殖意欲が減退し、個体数が減っていった。個体数の減少を技術で補えば、さらに輪をかけて個体数が減る。そうこうしている間にせっかく築いた文明や技術を継承できなくなるほどに個体数が減ってしまった。個体数の減少によって種としての多様性が失われ、近親交配を繰り返すことで繁殖力が弱くなり、ますます個体数が減る。……まあ、悪循環じゃな』
 悲惨な歴史を語っているはずなのに、ナルファルサスの口調は明るかった。
「その割には、なんていうか、悲壮感がないんだな、あんたには」
『まあの。お主ら流にいえば、「運命を受け入れた」といった感じかの。滅びの運命は避けがたいと受け入れ、腹をくくってしまえば、達観もできるさね』
「そんなもんなのか?」
『まあ、まだ繁栄の一途をたどっているお主らにはわからんだろうがの』
「あの」
 おずおずとタニーが口を開いた。
「あなたがたの種族は、あと何人くらい残っているんですか?」
『こうしてお主らと言葉を交わせる状態の者は、残念ながらワシだけになってしまったよ』
「あなた一人……」
 タニーが絶句した。
 その姿を横目に見ながら、ラウルはナルファルサスの言葉に含みがあることに気づいていた。
「おれたちと言葉を交わせる状態の、ってことは、そうじゃないのもいるってことなのか?」
『察しがいいの。その通りじゃ。詳細については、お主らがこっちについたときに話そう。恐らくは、お主らがここまで来た目的にも関係しておるじゃろうからの』
「おれたちがここに来た目的を知っているのか?」
『詳しくは知らんが、察しはついとるよ。お主らが宇宙狒々と呼んどるアレに関わることじゃろう?』
「何もかもお見通し、ってわけか?」
『まさか。ワシらは神でもなんでもない、一介の知的生命体じゃよ。これまでに入手した情報と、ワシらの経験から導き出した推測じゃ』
 ナルファルサスの言葉に反応したのはタニーだった。
「すみません、今、情報を入手した、とおっしゃいましたよね? その情報源というのは、もしかして?」
『お主の予想の通りだと思うよ、タニー』
 ナルファルサスの口調は優しかった。
『まあその話しも、お主らがここについてからにしよう。そろそろお主らを迎える準備をせんとならんから、いったん話はここまでにしておこうかの』
 ラウルは、タニーの表情がこわばっていることに気づいた。
 ──あいつ、今タニーを名前で呼んだよな。
 今この時点で、タニーの名前はナルファルサスには伝えていなかったはずだ。タニー自身もそのことに気づいているからこそ、今の表情なのだろう。
 ──まあいい。そのあたりのことも、教えてくれるんだろうさ。
 ひとまずラウルは、機体の操縦に専念することにした。

 ナルファルサスは「誘導灯」といっていたが、それはタニーの知る光源とは別の原理で発光しているようだった。
 天体Dののっぺりとした外壁はどれほど近づいてものっぺりしたままで、光源となる発光体が設置されている様子はない。
 ナルファルサスが誘導灯といっていた明かりは、外壁の一部が自ら発光しているようにしか見えず、その原理はタニーには想像もできなかった。
 ラウルの巧みな操縦によって、機体が天体Dのごく近くで相対速度を合わせる。
 同時に、天体Dの外壁の一部がぱっくりと口を開けた。それは壁面がスライドするというような機械的な動きではなく、壁面を構成している物質が意志を持ち、自発的に移動をして壁面に穴をあけたようにも見えた。
 その開口部から接続用のアームとおぼしき棒状の物体が出てきて、ゆっくりと機体に向かって伸びてくる。どういう理屈なのか、一本の棒にしか見えなかったアームの先端が、接続の寸前に二股に分かれ、機体を上下からしっかりと挟み込んだ。
「おいおい、このまま機体を押しつぶしたりしないだろうな」
 さすがに不安になったのか、ラウルは冗談めかしていったが、目が笑っていなかった。
 しかし、ラウルの不安は杞憂のようだった。アームは絶妙な力加減で機体を支えると、静かに天体Dの開口部へと導いていった。
 機体が天体Dの内部に入ると、壁面が生物的な動きでふさがる。
 そして機体を固定していたアームが、機体をしずしずと床に降ろすと、壁の中へ吸い込まれるように消えていった。
「すげえな、こりゃいったいどういう理屈なんだ?」
 ラウルが感心した、といった様子でつぶやく。
 やはり技術の基礎的な部分が人類のものとは異なっているのだろう。技術者の端くれとして興味もあったが、タニーはひとまず自分の好奇心は心の奥の方へと押しやった。
 機体が格納されたのは、長方形の空間だった。後方モニターの映像などから推定すると、あつらえたようにリザードマンの機体がちょうど収容できるくらいの空間のようだった。
 床も壁も天井も、外壁と同じくすんだ銀色。おそらくは、外壁と同じ素材なのだろう。
「船外活動の準備をしたほうがいいでしょうか?」
「どうなんだろうな。あちらさんの方が技術力は高いみたいだし、快適な環境を用意して待っていてくれそうな気もするけどな」
 ラウルは応え、
「とりあえず、環境観測プローブを外に出してみるか」
 操作パネルに向き直った。プローブが船外に放出され、ほどなくして観測データが送られてくる。
 重力は一G、気温摂氏二十三度。大気は人間が呼吸するのに適した構成だったが、気圧が極端に低い。
 ただ、どうやらこの空間に空気を送り込んでいる最中のようで、気圧が徐々に上昇しているのが見て取れた。
 ラウルのいうとおり、ナルファルサスの方で、こちらの生存に適した環境を整えてくれているらしい。
 やがて、ナルファルサスから通信が入った。
『すまんかったな。お主らの受け入れ作業に手いっぱいで、連絡をする暇がなかった』
「いや。大丈夫だ。で、おれたちはこれからどうしたらいい?」
『もうしばらく待ってもらえば、そこがお主らの生存に適した環境になる。そうしたらその船を降りてもらっていいかね?』
「ああ、わかった」ラウルが応えるのを聞きながら、タニーは機体前方の壁に穴が開き、そこから小柄な影が出てきたことに気づいた。
「ラウルさん」
 声をかけ、その影を指さす。
「あれが、ナルファルサスか?」
「その可能性が高いと思います」
 タニーはうなずいて、観測プローブから送られてくるデータを確認した。まだ少し気圧は低いが、生存が不可能というレベルではなくなっている。
 ほとんど同時にラウルもデータを確認したようで、
「よし、ちっと早いが、ナルファルサスの顔でも拝みにいってみるか」
 と立ち上がった。意気揚々と歩くラウルの後ろをついてコックピットを出て、通路を抜け、機体を降りる。
 機体の搭乗口のすぐそばで、小柄な人影がタニーたちを待っていた。
「あんたがナルファルサスか?」
「いかにも」
 うなずいたナルファルサスは、人類とさほど変わらない姿をしているように見えた。二本の足で直立し、二本の腕と一つの頭部を備えている。ただ、人類と決定的に違うのが、その肌だった。
 黒っぽい、ごつごつとしたウロコのようなもので覆われている。
 ゆったりとした着衣を身につけているので身体がどうなっているかはわからないが、おそらくは全身がこのようなウロコで覆われているのだろう。
 この肌にタニーは見覚えがあった。それはおそらくラウルも同様だろうが、ラウルはそのことは指摘せずに、
「ラウル・ニューランドだ」
 と、ナルファルサスに向けて手を差し出した。
 ナルファルサスは自然な動作でラウルの手を握り返す。握手を終えると、ラウルはタニーに目を向け、
「もう知っているみたいだが、こっちがタニー」
「タニー・ミームです」
 会釈をすると、今度はナルファルサスから、タニーへ手を伸ばしてきた。
「ナルファルサスじゃ」
 差し出された手を握り返す。ナルファルサスの手のひらや指にはウロコはなかったが、それでも人の肌よりもはるかに硬質で、ひんやりとしていた。
 手を離すと、ナルファルサスはタニー、ラウルと順番に目を向け、
「まあ立ち話もなんじゃ。ついて来なされ。座って話をしよう」と、きびすを返した。
 ナルファルサスのあとにラウルが続き、それに少し遅れてタニーも歩き始める。ナルファルサスは先ほどやってきた壁の穴を通り抜け、タニーとラウルもそれに続いた。
 壁一枚を隔てた場所はやはりくすんだ銀色の部屋で、中央にテーブルと人数分のイス、そしてテーブルの上には飲み物と簡単な食べ物が二人分用意されている。
 ナルファルサスは食べ物が用意されていないイスに腰掛け、
「遠慮はいらん。座りなされ」
 と二人をうながした。
 まずはラウルが座り、続いてタニーも、その隣の席に腰掛ける。
 座ったラウルが難しい顔をして飲み物と食べ物……見た目はコーヒーとクッキーのようだった……を見つめているのが、なんとなくおかしかった。
「安心せい。毒など入っておらんし、お主らの味覚に合わせて調整してある」
「そりゃどうも」
 ラウルはナルファルサスの顔を見た。
「毒は入っていない」といわれてもやはり不安なのだろう。出されたものに手をつけかねているラウルの姿を見かねて、タニーは自ら毒味を買って出ることにした。
 コーヒーカップを手に取り、一口口に含む。ほどよい苦みと酸味が、タニーの口の中にひろがった。
「おいしいですよ、これ」
 まだためらっている様子のラウルに声をかけると、「じゃろう?」と、ナルファルサスがうれしそうにいった。
 ようやく、ラウルが意を決したようにコーヒーを口に含んだ。
 すぐにその表情に驚きの色があらわれ、ラウルはカップを口から離すと、感心した、といった表情で二、三度うなずいた。
「たまげたな。こんな美味いコーヒーは久しぶりだ」
「気に入ってもらえて何よりじゃ」
 ナルファルサスは満足げにうなずき、
「さて。こうして無事に顔を合わせることもできたし、まずはお主らの要件を聞かせてもらおうかの」
 ああ、とラウルはうなずいた。
「まずは確認しておきたいんだが、おれたちが乗ってきた宇宙船には、おれたちの技術力ではあり得ないくらいの性能のエンジンが載っている。その機関部には原理のよくわかっていないエネルギー変換ユニットが使われているんだが、それを作ったのはあんたなのか?」
「厳密にいえば、ワシは作ったのではなく、調整しただけじゃがの。さっきも話をしたが、技術を継承できる者がいなくなってしまってな。使うことはできるが、新しいものを作ることはもうできんのじゃよ」
 タニーはラウルと顔を見合わせた。ナルファルサスの言葉は、二人がここまで来た目的がかなわない可能性が高いことを示唆している。
「ということは、あのエネルギー変換ユニットは、もう作ることはできない、ってことか?」
「いかにも」
 ナルファルサスは無情にうなずいた。
「そうか……」
 ラウルが顔をしかめた。
「もうわかっているかも知れないが、おれたちはそのエネルギー変換ユニットのことを教えてもらいに来た。あれを使ったエンジンを量産すれば、宇宙狒々と互角以上に渡り合えそうだったからな」
「だとすれば、無駄足を踏ませてしまったことになってしまったの。そのことは詫びよう」
 ナルファルサスは静かにいった。
「では、ここからは少し、ワシの話しにつきあってもらっていいかね?」
「まあ、こっちもそんなに時間があるわけでもないがな。せっかくこんな遠くまで来たんだ。あんたの話しを聞くくらいのことはして帰らないとな」
「結構」
 ナルファルサスが満足げにうなずく。
「あの、お話しをうかがう前に、一ついいですか?」
 合間を見て、タニーは口を開いた。
「なんじゃね?」
「私の父と母は、ここに来たんですよね?」
「ああ。その通りじゃ。お主らとの通信方法も、このコーヒーとクッキーも、お主の両親から教えてもらったものじゃよ」
 ナルファルサスは穏やかに応えた。
「あれはなかなかできる体験ではなかったのう。ワシらがここに引きこもってからだいぶ経つというのに、どうやったのかは知らんが、数少ない手がかりを集めて、この場所を推定した、といっておったな」
「そうですか」
 肩に重くのしかかっていたものが一つ、なくなったような気がした。
 もしも両親が生きていたのなら、母がいれてくれたコーヒーはこんな味だったのだろうか。
「それで、お主の両親は息災かね?」
「いえ。ナルファルサスさんと別れたあとの帰途で、宇宙狒々に襲われて命を落としてしまいました」
「そうか。それは残念じゃった。あの二人と話しをするのは大変楽しかったよ。いつかまた、話しができればと思っておったのじゃがな」
 会話を交わす中で、タニーはナルファルサスの表情がまったく変わっていないことに気づいた。言葉には感情がこもっているのに、その表情から感情をうかがうことができない。
 ──表情筋のようなものがないのかもしれない。
 タニーは漠然と思った。
「ほかには何かあるかね?」
「じゃあ、おれの方から一ついいか?」
「何かね?」
「ここにくる前に、宇宙狒々の死体が大量に浮いているところがあった。あれは、あんたらがやったのか?」
「いかにも。さっきも少し話したが、ワシらもアレとは浅からぬ縁があってな。あのあたりでアレを迎え撃っておったのじゃ」
「なるほどな。じゃあ、あんたらが宇宙狒々を迎え撃ってる武器みたいなものは、輸送できたりしないのか?」
「それは」と、ナルファルサスは意味ありげにタニーに目を向けた。
「ワシの話を聞いてもらってからにしようかの」
「えらくもったいつけたいい方だな」
 ラウルが小さく嘆息する。
「まあいい。それじゃあ、あんたの話ってのを聞かせてもらおうか」
「よかろう。ではまずは、ワシらの種族のことについて話そうかの」
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