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第119話 ホットスクランブル
しおりを挟むローズの街から西では二機の国籍不明のロービジリティー(低視認性)に塗装されたミリタリーモアが領地侵犯行為中であった。
「ジッ……おい、イザード、そろそろ国境も超えた事だし、お迎えが来るんじゃ無いのか?」
「ジジ……そうだな、それ迄には何とか終わらしたいんだが、もし来たらお前が相手をしてやれ。」
「ザー………相手って……だったら落としても良いのか?」
「ザザッ……駄目だ、今日は発砲行為は許可されて居ない。それにまだ仕事が残ってるからな。焦らなくても良いさ。」
「シー……ザッ……発砲の許可は無くて相手って……。どうすんだよ?向こうは確実に撃って来るぞ。」
「ザザッ……まぁそうだろうけど、どうせ牽制だろ?相手も本気で落とそうとはしないさ。こちらがロックオンでもすれば、向こうもビビるんじゃないのか?鬼ごっこでもして相手してやれ。」
「ザッ……あ~……了解。でもホントなのか新型モアと新スキル発現なんて。ガセネタじゃないのか?」
「ザザッ……ガセにしては冗談の規模がデカすぎる。新型モアの噂も現に700系のコストが下がってるからな。新スキルに対しては、第一に、現に各国の要人がこの街に集まって来ているのが何よりの証拠じゃないか。だから俺達もこうやって動ける訳だ。」
「ザザッ……まぁ、確かにな。それは一理ある。」
「ザッ……取り敢えず、今、俺らは与えられた任務をするだけだ。」
「シー……ザザッ……解ってるよ。さっさと仕事済ませてさっさとバックれようぜ!」
「ザザッ………オリオンスリー、ローズコントロール、ゴーアヘッド。」
「ザザッ……ローズコントロール……オリオンスリー…………対象は……あ~、ウエストフォーティーマイルス進行中。経路は……レーダーベクタートゥーダナン、フォア、ウイスキー、ラン、プランルート、ラン、レベルズ、トゥーゼロ、メインテインあ~…ワンスリーノッツ、…対象の動向は不明な為に適正な対処をせよ。リードバック。」
現在、シャーロットとアリシアが乗っている二機のスクランブル発進したモアは、ジャンプをしながら道路や屋根を伝い、目的のポイントへ高速移動しているのであった。
「ザッ……オリオンスリー。ローズコントロール、レーダーベクター、ダナン、フォアウイスキー、ランレベルズ、トゥーゼロメインテイン、ワンスリーノッツ、ウエストフォーティーマイルスに対しては適正な対処で処理する。ゴーアヘッド、」
スクランブル発進の近衛兵隊のモアと云うのは、前世で言う所の救急車等の「緊急車両」とほぼ同じである。
勿論、モアがサイレンを鳴らしたり等と云う事は無いので、民衆からして見れば「モアが突然現れる」訳なのだが、兵隊側も闇雲に市街地を抜けるのでは無く、近衛兵隊で決められた「経路」に沿って各方面へ出撃しているのである。
それより何より、ミリタリーモアが爆音なので、その音が近付いて来れば普通は先ず「何事か?」と思い、辺りを警戒するのでサイレンの必要が無いとも言えるのであった。
「ザッ……オリオンスリー、リードバックイズコレクト。コンタクト、ワンワンセブン、ディスポイントゼロ ローズコントロール。」
その経路上は、ローズの街のルールで、如何なる者でも駐停車してはいけない決まりなっているのであった。
当然、この世界では内燃機関型の自動車は存在しないのだが、馬車や荷車、移動販売車等は、普通にそこらじゅうに存在しているので、それらがその区域に駐停車しないように道路には「黄色い線で四角に囲われている区画」が存在するのであった。
モアの着地ポイントとなる区画は、道路以外頑丈な屋根や塔にポイント名が記されている。
簡単に例えるなら、屋上のヘリポートや警察署の正面、消防署の正面が駐停車禁止の黄線で囲われているそれと同じ事である。
まぁ、発着する物はヘリコプターでも自動車でもないのだが……
「ザザッ……ローズコントロール、コンタクトワンワンセブン、オリオンスリー、」
市街地でのモアのスクランブル発進は、経路順にその黄色い線のポイントを、次々と最短距離でジャンプして抜けて行くのである。
「ザッ……オリオンシックス、今の聴いた?なんでこんな近くまで対象を見付けられなかったのよ!」
オリオンスリー呼称は、忘れていると思うがアグレッサー部隊内でのシャーロットのコードネームであり、オリオンシックスはアリシアである。
シャーロットは、ローズ管制との交信を終えると、次はアリシアに通信を入れて、ルーチンワークの様にIFF(敵味方識別装置)のスイッチを入れながら、FCC(火器管制システム)のモードをオフからノーマルに切り替えたのであった。
「ザザッ……オリオンスリー、は、はい、き、聴いてたです。ど、どうやって観測所の防衛網を突破したんでしょうね?」
一方アリシアも、シャーロットの通信を聴きながら、万が一の対応に備えてSMS(兵装管理システム)の起動準備をしていたのである。
「ザザッ……来ちゃったもんは仕方が無いから、適正な対処で追っ払えば良いのよね?」
「ザザッ……た、多分……だ、段取りを踏んでだとは思うですけど。」
この世界でも、国境付近や国内の要所要所に「魔力観測場所」が設置されており、それに引っ掛かると一番近くに配備されている近衛兵隊がスクランブル発進すると云う手筈になっているのである。
魔力観測所は、魔物相手にだけに設置されて居る訳ではなく、モアや該当識別のない魔石や魔力に反応する、あらゆる脅威から国や街を護る為にギルドが設置したものであった。
当然「観測所」なので常勤している者が居り、定められた規定に基づいてギルドが運営しているのである。
その規定とは、先ず、観測所が自国の領地識別圏に接近している識別不明機を探知して、提出されて居る走行計画書との照合をするのである。
そして、目視の為に当該ポイントから一番近い場所の近衛兵隊駐屯地のモアをスクランブル発進させて識別をするのであった。
なので、敵の軍勢が街の城壁から見える位置に勢揃い、なんて事は先ず無く、 そんな光景が見られるのは「国が滅ぶ時」であり、中世や戦国時代でありがちな、野原で睨み合ってからの「合戦」の様な事も無かった。
逆に此方からも、仮に進軍する場合は、敵の本拠地手前迄進行出来る筈も無く、精々国境付近に陣取ると云うのが関の山である。
前世では「領空侵犯」と云う言葉があるのだが、この世界では、魔物以外に意図的に「空」を飛ぶ物は存在しないので、今回の場合は「領地侵犯」となる。
正式な手続き無く領地を侵犯する者は、軍でも商用でも関係無く、攻撃、若しくは排除対象となり、侵犯された側の適正な対処を取られるのであった。
今回何故「侵犯」を許してしまったのかは、各観測所の包囲網の「隙」を突かれてしまったのである。
ギルド本部がこの街には存在していると言う安心感から、こうした隙を作ってしまったギルド観測所の怠惰でもあった。
ローズの街から西へ四十マイル。
キロ換算すると、おおよそ64km地点で今回の領地侵犯が起きたのである。
実際、少し領地侵犯をしたからと言って、そんなに頻繁にスクランブルが掛かるものでは無いのである。
程度問題でもあるのだが、識別不能な対象や何らかの意図での長時間の侵犯の他、明らかに進軍してると判断された場合のみにスクランブルが掛かるのである。
どちらにせよ、ただのスクランブル発進では無く「ホットスクランブル」が掛かると云う事は「只事では無い」事には間違い無かったのであった。
このローズの街には各地へ散らばる支部ギルドのギルド総本部が存在し、きちんとインフラも整備されて首都として機能しているのだが、当然「街」一つで機能している訳ではなく「キャパリソン国」に属している数ある中の一つの街でしか無かった。
キャパリソン国は島国では無く、大陸続きであり、国としてはそれ程大きく無い風光明媚な平凡な国であり、各地区は州で別けられている。
それらの州は「市」若しくは「都」で区分けされており、細かくは「区」や「町」で別けられていた。
マサキがこの世界に出現し、ティナと出会ったラスクの町も、正式にはキャパリソン国ケトナー州ラスク市ファイブヒルズ町なのである。
そして、首都とは言えど、国の中央に位置して居る訳ではなく 、どちらかと言うとローズは国の東寄りの端の方に位置しているのであった。
「ザッ……オリオンシックス、いつも通りの手筈で行くから哨戒宜しく!」
「シー……ザッ……オリオンスリー、ラジャー。」
シャーロットの後追いであるアリシアは、市街地を抜けると左手に並んでツーマンセルの編隊を組み、薄紫色の魔力煙を残して目的地へと向かったのであった。
一方その頃マサキ達は「試験中止」命令を請けて、ギルド本部のハンガーに戻って来た所であった。
「フランクさん!ホットスクランブルって?」
試験運転から帰還したモアには、直ぐタラップが設置されてマサキは一目散に駆け下りて、フランクに状況説明を求めたのである。
整備員達はモアのチェックをする為に駆け寄り、程なくしてティナも降りてフランクの話に耳を傾けたのだった。
「そのままの意味じゃよ。」
フランクは落ち着いた口調でマサキにそう答えて、フィリングと視線を交えたのだった。
「いえ、その意味は理解してますけど、状況は?確か今日のアラート勤務はシャーロットとアリシアだった筈なんじゃ?」
ティナも、今日彼女達に会ってない理由を思い出して、心配そうな表情でそばに居るアリスに視線を向けたのだった。
「そうじゃな。状況はまだ掴めておらん。それを掴む為に出撃したんじゃからのう。それに嬢ちゃん達は、仮にも教導隊の隊員じゃから心配は要らんて。」
マサキはこの時、何かとても嫌な感覚を感じたのだが、それを言葉に出す事は無く、心の中に思い留めたのだった。
「お主が先程、頭がおかしい軌道のスキルを披露してくれた者かの?」
(誰?このお爺さんは?てか頭おかしいは余計だろ。)
「え?あ、ああ、まぁ、そうですけど。何か?」
マサキの少々戸惑っている様子を見て、不意に近くに居たアリスがボソッっと口を開いたのだった。
「ギルド総本部統括理事長。」
フィリングはアリスにチラッと視線を向けてから会話を続けたのである。
「失礼、自己紹介がまだじゃったの。ワシはギルド総本部統括理事長のフィリングじゃ、以後お見知り置きを!と言っても、どちらにせよ、そなたの認定式には会うんじゃけどの。(笑)」
(おっとぉ~!このお爺さんはそんなお偉いさんだったのか!不味った!)
「いえ、初めまして。此方こそ、これからお世話になると言うのに、存じ上げ無くて申し訳ありませんでした。クラタナ マサキです。いえ、頭のおかしいただのミジンコです。」
マサキはそう言ってフィリングに深々とお辞儀をしたのである。
「ぶふぉ!ミジンコて……!と、兎に角、堅苦しいのは無しじゃ!にしても……ミジンコにあんな芸当は出来んよ……頭のおかしいと云うのはワシの褒め言葉じゃ!もし悪く取ったんであれば申し訳無かったの!」
(吹いたよこの爺さん……偉い人なのにノリ良いなぁ……でもマジでこんな人がギルド総本部を仕切ってんの?ギルド大丈夫か?)
フィリングは、握手を求めながら同乗していたティナに視線を向けて
「して、そちらのお嬢さんはそなたの娘さんかのぅ?」
と言ったのである。
フィリングは二人の見た目からティナをマサキの娘だと勘違いをしたらしく、そんな発言をしたのであった。
「え?」
(ティナが俺の娘?いやいやいやいやいや!確かに年の差から言って、ないことも無いけど違うから!ティナが俺の娘違うから!髪の毛の色違うし!)
「いえいえ、初めまして。私はラスクに居を構えているウェールズ・デ・マルティーニ・ティナです。この度の認定式の件有難う御座います。こちらのクラタナさんとは縁あって一緒に暮らしては居るのですが血縁関係では御座いません。」
(あれ?ティナって俺の保護者なのかな?てか何時もと別人みたいな話し方してるし!俺の事クラタナさんだって!言われてるこっちが恥ずかしいわ!)
恥ずかしい時に人は、特に人の目が気になるもので、マサキは反射的にフランクとアリス達をチラッと視界に入れたのだが、フランクは強面でフィリングとティナのやり取りを眺めており、アリスは相変わらず無表情で正面を見て立って居るだけであった。
「そうか!ワシの勘違いじゃった様じゃの!すまんこって!それから、堅苦しいのは無しじゃ!これからはティナちゃんでいいかの?」
(うわ、何この爺さん!……ティナちゃんとか俺でも言ったことないわ、つか、ティナに「ちゃん付け」の発想すらなかったよ。でもこう言うのって、偉い人なりの気配りなのか?)
「え?ええ?か、構いませんけど(笑)」
「なら決まりじゃの!ティナちゃん」
「あ、はい。ははは……で、では、わ、私は何とお呼びしたら……」
(えげつねぇ~!)
「そうじゃの、何でも構わんが……強いて云えば[おじいちゃん]かの?」
(うわ~……俺マジでドン引きです…………仮に俺が自分の事を[おいちゃん]と呼んで!って言ってるのと同じ事だわ……全っ然嬉しくない)
マサキが脳内でフィリングをディスってた矢先に目が合い
「お主も好きに呼べば良いぞ!」
と邪悪な笑みを浮かべて言ったのである。
(俺が言えないと解ってて絶対言ってるよね、この爺さんは……)
「なら、爺さんで……」
「ちょっ!マサキ!」
ティナがマサキの言葉を遮ろうとしたのだが、それを耳にしたその場に居た一同が凍り付いた瞬間であった。
そして、マサキが発したその言葉は、いつも無表情なアリスでさえも、驚きの表情に変えた事をマサキは見逃さなかったのであった。
「ほほっ!ならワシは、お主の事を[坊主]と呼ばせて貰うわい!」
フィリングは敢えてその場の空気を読まず、そんな事はお構いなしに、マサキへそう返したのだった。
「どうぞ良しなに。」
(もう好きにしてくれ……てか、この爺さん、俺に似てなくね?)
するとフィリングはマサキに向き直り、先程のスクランブルについて語り出したのである。
「お主は発進した彼女等を心配しとるようじゃが、心配からは何も生まんぞ。心配するなと言ってる訳では無いがの。お主もここ暫く教導隊の面子と顔を合わせて[情]が芽生えたんじゃろうが、[情]だけでは、此処では何からも何も守れんと早く気づく事じゃ。発進した彼女等は、仕事とは言え、それぞれ自分の大切な物を護る為に出たんじゃからの。」
フィリングは、マサキから視線を外さずそう静かに話す表情は、先程のふざけた様な笑みが既に無かったのであった。
「まぁ、確かに……」
それを聴いたマサキは、フィリングに図星を指摘されて何も返す事が出来なかったのだった。
「ザッ……オリオンスリー、オリオンシックス、ゴーアヘッド。」
「ザザッ…………オリオンシックス、な、なんでしょう?オリオンスリー、ゴーアヘッド。」
「シー……そろそろ見えてくる頃よ。気を引き締めて行くわよ!」
「ザッ……り、了解です。」
アリシアはそう応えると、シャーロットのモアから七時方向へ後退させて、FCC(火器管制システム)のセーフティーを解除したのであった。
程なくして、シャーロットとアリシアの右手前方に微かな魔力を探知し、黄緑色の魔力煙を目視したのであった。
「ザザッ…………オリオンスリー、オリオンシックス、見付けた。対象は二機。オリオンシックスは現状待機。[オリオンスリー、ローズコントロール、ゴーアヘッド。]」
「ザッ……オリオンシックス、オリオンスリー、了解。」
「ザザッ……ローズコントロール、オリオンスリー、ゴーアヘッド。」
「ザッ……対象は二機。目視確認。これから退去勧告を実施する。オリオンスリー。」
「ザッ……オリオンスリー、ラジャー、ローズコントロール。」
シャーロットは二機の侵犯行為中である、先頭を走るミリタリーモアの右側へ接近してレシーバーで退去勧告を実施したのだった。
「ザザッ……此方はキャパリソン国、ローズ本部ギルド近衛兵隊である。貴機はキャパリソン国領地を侵犯している。速やかに進路を変更せよ!」
侵犯機の搭乗している相手を、目視出来る距離までシャーロットはモアを近付けて勧告をしたのだった。
「ザッ……おい!イザード!お迎えは女だぞ!」
「ザザッ……ああ、意外だな。クルツ、お前の後方にもう一機居るから気をつけろよ、此方はもう少し記録を実施する。最初は撃たれても、当てては来んから心配するな。」
「ザザッ……繰り返す。貴機はキャパリソン国領地を侵犯している。速やかに進路を変更せよ!」
シャーロットは二度目の勧告を実施して、侵犯機に変化が無い事を確認するとFCC(火器管制システム)のセーフティーを解除した。
「ザッ……オリオンスリー、ローズコントロール、現在勧告実施中。対象に変化無し。警告を実施する。」
シャーロットは対象に勧告した後、脚部に取り付けられて居るスーパーパックの魔石に魔力を注入して点火し、イザードの前に出てモアの翼を広げて左右に振りながら「我に続け」の警告を見せたのであった。
「ザザッ……警告、貴機はキャパリソン国領地を侵犯している。速やかに領地から退去せよ。」
「ザッ……イザード!次は撃って来るんじゃないのか?」
「ザザッ……大丈夫さ、そうそう警告で当てては来んさ。とは云え……余り長居は出来んな。」
「ザザッ………此方はキャパリソン国、ローズギルド本部近衛兵隊、警告、貴機はキャパリソン国、領地侵犯をしている。我の指示に従え!ユーアー アプローチング キャパリソン グラウンドスペーステリトリー。フォロウ マイ ガイダンス![オリオンスリー、ローズコントロール 、再度警告中、警告射撃を実施する。] 」
「ザザッ……ローズコントロール、オリオンスリー、ラジャー。」
シャーロットは、逐一ローズコントロールに報告を入れながら侵犯している国籍不明侵犯機に警告をして、大きくモアを旋回させてから後方に待機しているアリシアの右側へ並んだのだった。
そして、警告射撃の為に侵犯機をロックオンせず羽根の付け根に取り付けられて居るストライカーパックからフレアバーストを発動した。
ズボボボォォォォォ~……
シャーロットが搭乗しているモアのストライカーパックから発動されたフレアバーストは、領地侵犯中の対象、遥か右手を通過して空へと吸い込まれたのである。
「ザッ……イザード!う、撃ってきたぞ!」
「ザザッ……クルツ、大丈夫だ、当てては来んだろ?お前は後ろのもう一機でも相手をしてやれ。でも発砲はするなよ!俺も、いつまでもご婦人とランデブーをしてる訳にはいかないからな!」
イザードはクルツに通信を入れた後スロットルをミリタリーパワーに入れてシャーロット達を振り切ろうと試みたのであった。
「ザッ……了解。発砲しなきゃ良いんだな!」
クルツはイザードがミリタリーパワーでフル加速したのを確認すると、進路をアリシアが搭乗しているモアの後ろへ急旋回してロックオンしたのであった。
「ザッ……オリオンシックス、対象がブレイク、一機そっちに行くわよ対応は任せる![オリオンスリーローズコントロール、ゴーアヘッド、対象は此方の警告を無視しブレイク(散開)。僚機FC。警告及び警告射撃を続行する。]」
「ザザッ……オリオンシックス、オリオンスリー、了解。(ピッピッピピーーーーーーーーーー)」
クルツにロックオンされ、瞳からハイライトの消えたアリシアは、シャーロットにレシーバーで無機質にそう返答すると、スロットルをハーフからミリタリーパワーに一気に入れ、モアに内蔵されて居る魔石から紫色の魔力光を発しながら急加速してクルツの迎撃体制に入ったのである。
「ザッ……警告、貴機はキャパリソン国領地を侵犯している、我の指示に従え!ユーアー、アプローチング、キャパリソン、グラウンドスペーステリトリー、フォロウ マイ ガイダンス![オリオンスリー ローズコントロール ラジャー 警告を続けろ。ロックオンの発砲は許可されていない!繰り返す、迎撃は許可されて居ない。]」
「ザッ……オリオンシックス、迎撃は許可をされて居ない。アリシア!撃っちゃ駄目よ![オリオンスリー、ローズコントロール、ラジャー]」
ローズ管制とアリシアとの通信を同時に捌きながら、シャーロットもイザードを追撃する為にフル加速して後ろに付いたのだった。
「ザザッ……オリオンシックス、オリオンスリー、ラジャー。(ピーーーーーーーーー)」
最初、後ろに付かれていたアリシアであったのだが、マサキとの模擬戦の様な失態はせず今回は落ち着いて居り、ミリタリーパワーで軽々と左右にモアを振った後、スロットルをリバーサーに全開で吹かし、あっという間クルツの後ろに付けて魔法発動のロックオンをしたのであった。
アリシアは「やればできる子」なのである。
ピッピッピッピッピッピッピ…………ピピピピピピピピピピピピピピピピピーーーーーーーーーーーーー。
クルツはアリシアに後ろに付かれまいと、右に左にと旋回を繰り返しドッグファイトをするのだが、どうにも振り切れなかったのであった。
「マジかよ……嘘だろ?!ヤバい!」
クルツは相手が「女」だと舐めて掛かって居た為に、油断して後に付かれたのだった。
どうにかアリシアを引き剥がそうと、ミリタリーパワーにスロットルを入れて必死に逃げようとするのだが、教導隊の一員であるアリシアのロックオンからは全く歯が立たず警報音が鳴り止むことは無かった。
「ザッ……警告、貴機はキャパリソン国領地を侵犯している。速やかに進路を国外へ変更しない場合は撃墜行動に移る。これは最後通告です。」
アリシアが、抑揚の無い機械的な口調でクルツの搭乗するモアの後ろでロックオンしたままピッタリと張り付いて警告をしたのだった。
「ザザッ……イザード、もう潮時だ!離脱しよう!(ピーーーーーーーーーーーーー)」
「ザッ……ああ。俺も今張り付かれてる最中だ!離脱経路確認後グリッド34、ポイントオスカーで落ち合おう。」
シャーロットに追われているイザードはクルツへそう告げると、急旋回をして一目散にキャパリソン国外へと向かったのである。
「ザザッ……グリッドスリーフォー、ポイントオスカー、ラジャー」
同じくクルツも、鳴り止まない魔法発動ロックオンの警報音を聴いて、冷や汗をかきながら離脱行動に移ったのだが、撃たれないと頭では理解している物の、キャパリソン国境を超えるまで喉元にナイフを突き付けられて居るようで気が気でなかったのであった。
「ザザッ……オリオンスリー、オリオンシックス、此方の対象は進路を国外に向けた。国境を超えるまで監視を続けた後そちらの援護に向かう。[オリオンスリー、ローズコントロール、対象一機は進路を変更。国境付近まで監視を続ける。]」
「ザッ……オリオンシックス、オリオンスリー、此方の対象も進路を国外へ向けた。援護の必要は無い。引き続き監視を続ける。」
「ザッ……ローズコントロール、オリオンスリー、監視対象が国外退去の確認した後、帰還せよ」
「サザザッ……オリオンスリー、ローズコントロール、ラジャー。」
程無くして、領地侵犯した二機は、黄緑色の魔力煙を残してキャパリソン国境を越えて姿を消したのだった。
「ザッ……オリオンスリー、オリオンシックス、仕事は終わりよ!帰りましょ![オリオンスリー、ローズコントロール、二機の対象の国外退去を確認。これより帰還する。]」
「サザザッ……オリオンシックス、オリオンスリー、ラジャー。」
アリシアは、シャーロットに返信して、今までの緊張感を解く様に一息大きく息を吸い込んだ後、漸く瞳にはハイライトが戻っていたのだった。
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