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どうしてこうなった。
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「こんな時間から仕事かよ……」
マサキは嘆きながらスチュアートと歩いて居たが、そんな状態を見ての事か「仕事じゃないですよ!」と前を向いて言い出した。
「え?」
マサキは立ち止まり、スチュアートを見ると
「ええ、仕事ではないです。」
とスチュアートもマサキに向き直り、表情を崩さずに会話を続けた。
「じゃ、なによ?」
訝しげにスチュアートを見ると勝ち誇ったように
「例の物(ブツ)ご用意しました!」
と言ってスタスタと歩き出した。
(ちょっと待て、ブツって本だよな……何であそこまで芝居がかった事までしてるんだ?ソレに冗談にしては度が過ぎてる……)
マサキは全く状況が飲み込めずに居た。
「さ、クラタナさん行きましょう!」
軽快にマサキを誘導するスチュアート。
「いやいやいや……何処へよ!」
(何コレ……俺誘拐?されてんの?)
「行けば解ります。もうすぐです!」
何を聞いてもダメだと感じたマサキは抵抗すること無く黙ってスチュアートの後を着いて行った。
暫く歩き、目的の場所であろうそこは、滞在して居るホテルから五分ほど離れた所にある、別のホテルであった。
(ギルドにって言ってたけどギルドじゃ無いじゃん……ここホテルだろ?
「少々お待ちを。」
とスチュアートが先にクロークに行って何やら確認をしている。
(もしかして、例えば国の要人とか隠密会合?とかか?いやいや、物(ブツ)が、とか言ってたもんなぁ……もう訳が解らん……)
「クラタナさん、五階です。行きましょう。」
戻って来たスチュアートは静かにそう言って階段に向かった。
玄関から廊下に至るまで全て絨毯で覆われていて、普通に歩く分には足音が全くしない。
今の状況が理解出来ず、為す術も無いマサキはスチュアートの言われた通りに着いて行くより他なら無かった。
(まな板の上の鯉とこれ如何に……)
五階の部屋まで来るとスチュアートが振り向き話しかけて来た。
「ここからはクラタナさんの自由です。我々は何も見なかった。居なかった。知らなかった。です。」
(なに?脅迫?何か碌な事にならなきゃ良いんだけど……)
「どうせ、既に肯定しかここでは出来ないんだろ?解ったよ。やってやるよ。何か知らんけど。」
「お気に入りをお好きになさって下さい。」
「いや、マジ言ってる意味が解らん!だから本だろ?何でここ迄大掛かりな事になってんだよ。」
スチュアートは黙ってノックをしてから中から鍵を開けさせた。
「私はここで戻りますので後は楽しんで下さい。下には護衛もおりますが、ここには誰も上がって来ないよう命令をしてあります。では。」
(言ってる意味も状況も全くわからん……いつからお前は言葉のキャッチボールが出来なくなったんだよ。)等と不満を脳内で嘆いて居ても仕方無いので中に入る事にする。
「 取り敢えず入るか……」
とゆっくり扉を開けて中に入ると見覚えのある姿が立っていた。
しかもメイド服で。
「お、おかえりなさいませ、ご、ごひゅ人様っ!です!」
「ロリ子……お前何やってんの?」
中に居たのはメイド服を着たアリシアことロリ子であった。
「い、いや……さっきの会議のあ、後、急に副隊長と、スミスさんとアクセルさんに話掛けられて、こ、こうなったです!」
「…………………………」
(うん。何を言ってるのか全く解らん!)
アリシアの説明を必死に聞くマサキであったが、言葉が足りなさ過ぎて全く要領を得ない為、考える事を辞めた。
「ク、クラタナさん?どうして黙るですか?」
ウルウルしながらアリシアは堪らずマサキに問い掛けるが、全く反応を見せなかった。
(え?コレってドッキリ?え?俺って今嵌められてんの?何でロリ子がメイド服着てんの?楽しむ?ん?どうなってんだ?)
「ク、クラタナさん……」
と服を摘んで揺すられ我に返るマサキ。
立って居るのも落ち着かないので、ロリ子との距離を取りつつベッドから離れた所にある椅子に座りガンベルトを外した。
「と、取り敢えず、ロリ子も座ったら?」
言葉とは裏腹に、今迄、と言うかティナ以外の異性と部屋に二人きりの状況に戸惑いを隠せないマサキは完全にテンパって居た。
(ちょ……この雰囲気……めっちゃ気まずい……)
「は、はいです。」
とロリ子はチョコチョコっと小走りに、ふわっと甘い香りと共に何の躊躇もなく俺の膝の上に座った。
「えっ?ちょっ!」
(あったまおかしーだろ!今の会話の流れで何故こうなった!座れば?とは言ったけど、誰も俺の膝の上に座れとは言ってないぞ!)
マサキは咄嗟に両手を頭の上に上げて、ロリ子に極力物理接触をしないよう試みるが座り心地が悪いのか、モソモソと落ち着く場所を探していた。
「ア、アリシアさん?貴方は一体何を?」
精一杯の気力を振り絞り質問をした。
(アリシア頭ちっせぇーなぁ……)
「あ、座れば?と言われたので座ったのですが……お、重かったですか?ご、ごめんなさいです。」
「い、いや、そう云う事じゃなくて……」
(ダメだこの人……何故か会話が噛み合わない……何処で間違った?ま、先ずは離れないと……)
そんな事を考えつつも、身体を強ばらせて座っているアリシアを見ると手を膝に置いてカタカタと震えていた。
「アリシア、全然重くは無いんだけど、取り敢えず膝から降りてコッチに座って!」
と、言葉を選びながら挙げている手首だけで椅子の方を指さした。
「は、はいです……」
そう言ってアリシアは指さした椅子に座った。
「ふぅ……」
マサキは挙げていた両手を下げ、辺りを見回すと簡易魔石コンロがあったのでお茶の支度を始めた。
そんな様子を見て、慌ててアリシアが立ち上がろうとしたのだが、マサキは手を上げてそれを制して、座っているように求めた。
「ロリ子、コーヒー飲めるか?」
「は、はいです。大丈夫です!飲めるなのです!」
アリシアは妙な気合いが入って居て、ただでさえ特徴的な話し方が更におかしな事になっていた。
「ぷぷぷ!なのですって!ロリ子ちょっと落ち着こう。俺も今の状況が解らないから一回落ち着きたいんだよ。」
(何かしてると気が紛れるからなぁ……とは言えどうしたもんだか……)
アリシアの変な言い回しに助けられ、若干の落ち着きを取り戻したマサキであったが、状況的には一切変わりがない事を危惧した。
「コトッ……」とアリシアの前にコーヒーを注いだマグカップを置き、砂糖とミルクの有無を聞いてから自分もマグカップを持って椅子に座った。
「あ、ありがとうございますです……」
最初はマサキがコーヒーを煎れているのを眺めていたアリシアであったが、ずっと見ているのも申し訳無く思い、先程からテーブルクロスの縫い目を数えていた。
「取り敢えずこれ飲んで一旦落ち着いてから話をするか。あ、タバコ良い?」
「どうぞ!何本でもお願いしますです!」
(なんと言うか……緊張してるからなのか、天然なのか、それとも馬鹿なだけなのか、ロリ子の意図が全く掴めん。)
「ブフォ!何それ!」
と言ってマサキはポケットからタバコを取り出しファイヤーの魔法で火をつけて大きく煙を吐き出した。
魔法を使った時、少しばかりロリ子の目の色が変わったのをマサキは見逃さなかった。
「ロリ子、この状況って何なの?責めてるんじゃなくてさ、目的を聞きたいんだよ。わざわざこんな遅くに、俺とお茶会する為に来た訳じゃ無いでしょ?いつ、誰に、なんの目的で、どういう理由で今の状況になってるのか、ロリ子が解る範囲で良いから説明してくれないか?」
(なるべく威圧的にならない様に言葉を選んだつもりだけど、大丈夫かなぁ?ロリ子の事だからなぁ……)
「解りましたです。今日の会議の後、副隊長以下二人の同僚に引き止められ、最初に私の今日の予定を聞かれました。そして、私の予定が無いと分かると、指定された時間にここへ来るようにと言われて今に至ります。な、内容は言いづらいのですが、言うですか?」
(あれ?何か普通にスラスラ話してるけど、何の違いだろう?形式的だと普通の一般的な話し方に変わるのかな?)
「俺に言いづらいこと?」
「ええ、まぁ……クラタナさんにとって不利益な事とかでは無く、単に私が恥ずかしいだけの事なので……命令とあらば話しますが。」
(話し方が普通過ぎで一瞬誰と話してるのか解らなくなるぞ!)
「あ~……いや、ロリ子を恥ずかしがらせたい訳じゃ無いからその部分は良いや。」
(何と無く分かったような気がする。確かにお気に入りのオーダー(本の内容のつもりで)の好みはロリ子に一致するから白羽の矢が立ったんだろう。とは言え、この状況を各所に誤解を生まずに回避出来る方法が有るんだろうか?何か面倒な事になって来たぞ……)
アリシアから顔を背けて「ふぅ~っ!」と大きく煙を吐き出した後くしゃっと持っていたタバコの火を消した。
「ク、クラタナさん……シ、シャワー行くです……」
「おおおい、ちょちょちょ待て!頼むから動くな!取り敢えず座ってくれ。」
(怖いよ!何この娘!潔良すぎだろ!こっちの意図確認も無しかよ!)
「はい?」
キョトンとして真っ直ぐな瞳でこっちを見る。
「アリシア、よく聞け、はっきり言ってロリ子は俺の好みだ!」
(って、ちっがーう!そうじゃねぇよ俺!)
「あ、ありがとうございますです。」
と言いながら頬を染めるアリシア。
「いや、そうじゃなくて、いや、そうなんだけど、そういうのはダメだ!」
(いちいち頬を染めるなし!こっちの調子狂うから!)
「ぽかーん。」
「ですよね。俺も今、自分で何を言ってるのか解らなくなった。上手く説明出来るか解らんけど、アリシアと倫理上問題になる関係はダメだ。解るか?倫理上だぞ!倫理って解るか?ロリ子の事を嫌いとか嫌だって意味ではないぞ!」
「まぁ、はいです。」
マサキの話を聞くや否や、アリシアは俯いてしまった。
「どういう覚悟でアリシアがここに来たか、俺には解り知れないけど、何かすまなかったな。こんな事になっちゃって。」
(やべ……泣かせちゃったか?そうは言っても他に言いよう無いもんなぁ……)
「いえ、だ、大丈夫です。」
(大丈夫そうには見えないんだけど……)
「ん~……どうしたもんだか……」
(胃が痛い……何度こういう場面に対極しても慣れんし苦手だ……下手なフォローなんてもってのほかだし……)
「……………………………………」
(ヤバい……マジ間が持たん……こんな時何を話せば良いんだろう。)
手持ち無沙汰で、かと言ってこの雰囲気を打破する突破口も見付けれずにいるマサキは、無意識にタバコの本数が増えて行く。
「アリシアはどうして今の職業に就いたの?」
「え?どうしてですか?」
「何と無くだけど、性格的にわざわざ選ぶような職業じゃないと思ったから。」
「いえ、あ、す、すみませんです。質問を質問で返した訳じゃ無いんです。」
「ああ、そっか、大丈夫だから。」
「うちは三人兄弟なんです。上には年の離れた兄が二人居ました。元々住んでた所は、こ、この街からうんと北にあるロレッカと言う地方の小さな街です。そこはギルドも無いようなほんとに小さな所です。」
「うん。」
マサキは黙って話を聴きながら、小さいケトルに水を継ぎ足してお茶のお代わりの用意をする。
「り、両親は冒険者とか全く無縁で、街全体が冒険者とか無縁な場所なので殆どの人は農業をして暮らしてました。う、上の兄達も農業の手伝いをして居たんですが、多少なりとも魔法が使えた為、農作物を荒らす害獣駆除もしていたです。」
アリシアは一つ一つ思い出すようにテーブルクロスを見詰めてゆっくり話していた。
「なるほど。」
「あ、ある日、害獣駆除中に運悪く兄達が怪我をしてしまって戻った晩、滅多に姿を見せない魔獣現れて街を襲いました。」
「お兄さん達の怪我って直ぐには動けないような?」
「はいです。生命の危険は無かった物の、骨折等の怪我をしてしまったので動けない状態でした。」
「そっか……」
「当然、小さな街だったので、入院施設が整った病院も無く、兄達は自宅で療養していたんですがそこに魔獣が来たんです。」
「マジか!」
(何か重い話になって来たな……シリアスな状況を打破する為に聞いた話題だったんだが、余計シリアスな話に成ってしまった……)
コトコトと湯気を立てているケトルを取り、お代わりのコーヒーを入れてアリシアの前に出した。
「あ、ありがとうです……」
「どういたしまして。」
アリシアは前に出されたコーヒーに、三本のスティックシュガーを入れ、三つのミルクポーションを開けて考えるようにクルクルとスプーンで回していた。
一口飲んで熱かったのか舌を出して「ひーふー」している。
「あ、熱かったか?慌てんでも良いから!あ、因みに舌先を下の歯の裏にくっ付けて飲むと、幾らか熱いのが緩和できるよ!」
「ほーなんれすね!」
「早く教えてあげれば良かったな……」
「い、いえ。」
此処に着いて一時間以上が過ぎ、妙な展開になりながらも夜は更けて行った。
マサキは嘆きながらスチュアートと歩いて居たが、そんな状態を見ての事か「仕事じゃないですよ!」と前を向いて言い出した。
「え?」
マサキは立ち止まり、スチュアートを見ると
「ええ、仕事ではないです。」
とスチュアートもマサキに向き直り、表情を崩さずに会話を続けた。
「じゃ、なによ?」
訝しげにスチュアートを見ると勝ち誇ったように
「例の物(ブツ)ご用意しました!」
と言ってスタスタと歩き出した。
(ちょっと待て、ブツって本だよな……何であそこまで芝居がかった事までしてるんだ?ソレに冗談にしては度が過ぎてる……)
マサキは全く状況が飲み込めずに居た。
「さ、クラタナさん行きましょう!」
軽快にマサキを誘導するスチュアート。
「いやいやいや……何処へよ!」
(何コレ……俺誘拐?されてんの?)
「行けば解ります。もうすぐです!」
何を聞いてもダメだと感じたマサキは抵抗すること無く黙ってスチュアートの後を着いて行った。
暫く歩き、目的の場所であろうそこは、滞在して居るホテルから五分ほど離れた所にある、別のホテルであった。
(ギルドにって言ってたけどギルドじゃ無いじゃん……ここホテルだろ?
「少々お待ちを。」
とスチュアートが先にクロークに行って何やら確認をしている。
(もしかして、例えば国の要人とか隠密会合?とかか?いやいや、物(ブツ)が、とか言ってたもんなぁ……もう訳が解らん……)
「クラタナさん、五階です。行きましょう。」
戻って来たスチュアートは静かにそう言って階段に向かった。
玄関から廊下に至るまで全て絨毯で覆われていて、普通に歩く分には足音が全くしない。
今の状況が理解出来ず、為す術も無いマサキはスチュアートの言われた通りに着いて行くより他なら無かった。
(まな板の上の鯉とこれ如何に……)
五階の部屋まで来るとスチュアートが振り向き話しかけて来た。
「ここからはクラタナさんの自由です。我々は何も見なかった。居なかった。知らなかった。です。」
(なに?脅迫?何か碌な事にならなきゃ良いんだけど……)
「どうせ、既に肯定しかここでは出来ないんだろ?解ったよ。やってやるよ。何か知らんけど。」
「お気に入りをお好きになさって下さい。」
「いや、マジ言ってる意味が解らん!だから本だろ?何でここ迄大掛かりな事になってんだよ。」
スチュアートは黙ってノックをしてから中から鍵を開けさせた。
「私はここで戻りますので後は楽しんで下さい。下には護衛もおりますが、ここには誰も上がって来ないよう命令をしてあります。では。」
(言ってる意味も状況も全くわからん……いつからお前は言葉のキャッチボールが出来なくなったんだよ。)等と不満を脳内で嘆いて居ても仕方無いので中に入る事にする。
「 取り敢えず入るか……」
とゆっくり扉を開けて中に入ると見覚えのある姿が立っていた。
しかもメイド服で。
「お、おかえりなさいませ、ご、ごひゅ人様っ!です!」
「ロリ子……お前何やってんの?」
中に居たのはメイド服を着たアリシアことロリ子であった。
「い、いや……さっきの会議のあ、後、急に副隊長と、スミスさんとアクセルさんに話掛けられて、こ、こうなったです!」
「…………………………」
(うん。何を言ってるのか全く解らん!)
アリシアの説明を必死に聞くマサキであったが、言葉が足りなさ過ぎて全く要領を得ない為、考える事を辞めた。
「ク、クラタナさん?どうして黙るですか?」
ウルウルしながらアリシアは堪らずマサキに問い掛けるが、全く反応を見せなかった。
(え?コレってドッキリ?え?俺って今嵌められてんの?何でロリ子がメイド服着てんの?楽しむ?ん?どうなってんだ?)
「ク、クラタナさん……」
と服を摘んで揺すられ我に返るマサキ。
立って居るのも落ち着かないので、ロリ子との距離を取りつつベッドから離れた所にある椅子に座りガンベルトを外した。
「と、取り敢えず、ロリ子も座ったら?」
言葉とは裏腹に、今迄、と言うかティナ以外の異性と部屋に二人きりの状況に戸惑いを隠せないマサキは完全にテンパって居た。
(ちょ……この雰囲気……めっちゃ気まずい……)
「は、はいです。」
とロリ子はチョコチョコっと小走りに、ふわっと甘い香りと共に何の躊躇もなく俺の膝の上に座った。
「えっ?ちょっ!」
(あったまおかしーだろ!今の会話の流れで何故こうなった!座れば?とは言ったけど、誰も俺の膝の上に座れとは言ってないぞ!)
マサキは咄嗟に両手を頭の上に上げて、ロリ子に極力物理接触をしないよう試みるが座り心地が悪いのか、モソモソと落ち着く場所を探していた。
「ア、アリシアさん?貴方は一体何を?」
精一杯の気力を振り絞り質問をした。
(アリシア頭ちっせぇーなぁ……)
「あ、座れば?と言われたので座ったのですが……お、重かったですか?ご、ごめんなさいです。」
「い、いや、そう云う事じゃなくて……」
(ダメだこの人……何故か会話が噛み合わない……何処で間違った?ま、先ずは離れないと……)
そんな事を考えつつも、身体を強ばらせて座っているアリシアを見ると手を膝に置いてカタカタと震えていた。
「アリシア、全然重くは無いんだけど、取り敢えず膝から降りてコッチに座って!」
と、言葉を選びながら挙げている手首だけで椅子の方を指さした。
「は、はいです……」
そう言ってアリシアは指さした椅子に座った。
「ふぅ……」
マサキは挙げていた両手を下げ、辺りを見回すと簡易魔石コンロがあったのでお茶の支度を始めた。
そんな様子を見て、慌ててアリシアが立ち上がろうとしたのだが、マサキは手を上げてそれを制して、座っているように求めた。
「ロリ子、コーヒー飲めるか?」
「は、はいです。大丈夫です!飲めるなのです!」
アリシアは妙な気合いが入って居て、ただでさえ特徴的な話し方が更におかしな事になっていた。
「ぷぷぷ!なのですって!ロリ子ちょっと落ち着こう。俺も今の状況が解らないから一回落ち着きたいんだよ。」
(何かしてると気が紛れるからなぁ……とは言えどうしたもんだか……)
アリシアの変な言い回しに助けられ、若干の落ち着きを取り戻したマサキであったが、状況的には一切変わりがない事を危惧した。
「コトッ……」とアリシアの前にコーヒーを注いだマグカップを置き、砂糖とミルクの有無を聞いてから自分もマグカップを持って椅子に座った。
「あ、ありがとうございますです……」
最初はマサキがコーヒーを煎れているのを眺めていたアリシアであったが、ずっと見ているのも申し訳無く思い、先程からテーブルクロスの縫い目を数えていた。
「取り敢えずこれ飲んで一旦落ち着いてから話をするか。あ、タバコ良い?」
「どうぞ!何本でもお願いしますです!」
(なんと言うか……緊張してるからなのか、天然なのか、それとも馬鹿なだけなのか、ロリ子の意図が全く掴めん。)
「ブフォ!何それ!」
と言ってマサキはポケットからタバコを取り出しファイヤーの魔法で火をつけて大きく煙を吐き出した。
魔法を使った時、少しばかりロリ子の目の色が変わったのをマサキは見逃さなかった。
「ロリ子、この状況って何なの?責めてるんじゃなくてさ、目的を聞きたいんだよ。わざわざこんな遅くに、俺とお茶会する為に来た訳じゃ無いでしょ?いつ、誰に、なんの目的で、どういう理由で今の状況になってるのか、ロリ子が解る範囲で良いから説明してくれないか?」
(なるべく威圧的にならない様に言葉を選んだつもりだけど、大丈夫かなぁ?ロリ子の事だからなぁ……)
「解りましたです。今日の会議の後、副隊長以下二人の同僚に引き止められ、最初に私の今日の予定を聞かれました。そして、私の予定が無いと分かると、指定された時間にここへ来るようにと言われて今に至ります。な、内容は言いづらいのですが、言うですか?」
(あれ?何か普通にスラスラ話してるけど、何の違いだろう?形式的だと普通の一般的な話し方に変わるのかな?)
「俺に言いづらいこと?」
「ええ、まぁ……クラタナさんにとって不利益な事とかでは無く、単に私が恥ずかしいだけの事なので……命令とあらば話しますが。」
(話し方が普通過ぎで一瞬誰と話してるのか解らなくなるぞ!)
「あ~……いや、ロリ子を恥ずかしがらせたい訳じゃ無いからその部分は良いや。」
(何と無く分かったような気がする。確かにお気に入りのオーダー(本の内容のつもりで)の好みはロリ子に一致するから白羽の矢が立ったんだろう。とは言え、この状況を各所に誤解を生まずに回避出来る方法が有るんだろうか?何か面倒な事になって来たぞ……)
アリシアから顔を背けて「ふぅ~っ!」と大きく煙を吐き出した後くしゃっと持っていたタバコの火を消した。
「ク、クラタナさん……シ、シャワー行くです……」
「おおおい、ちょちょちょ待て!頼むから動くな!取り敢えず座ってくれ。」
(怖いよ!何この娘!潔良すぎだろ!こっちの意図確認も無しかよ!)
「はい?」
キョトンとして真っ直ぐな瞳でこっちを見る。
「アリシア、よく聞け、はっきり言ってロリ子は俺の好みだ!」
(って、ちっがーう!そうじゃねぇよ俺!)
「あ、ありがとうございますです。」
と言いながら頬を染めるアリシア。
「いや、そうじゃなくて、いや、そうなんだけど、そういうのはダメだ!」
(いちいち頬を染めるなし!こっちの調子狂うから!)
「ぽかーん。」
「ですよね。俺も今、自分で何を言ってるのか解らなくなった。上手く説明出来るか解らんけど、アリシアと倫理上問題になる関係はダメだ。解るか?倫理上だぞ!倫理って解るか?ロリ子の事を嫌いとか嫌だって意味ではないぞ!」
「まぁ、はいです。」
マサキの話を聞くや否や、アリシアは俯いてしまった。
「どういう覚悟でアリシアがここに来たか、俺には解り知れないけど、何かすまなかったな。こんな事になっちゃって。」
(やべ……泣かせちゃったか?そうは言っても他に言いよう無いもんなぁ……)
「いえ、だ、大丈夫です。」
(大丈夫そうには見えないんだけど……)
「ん~……どうしたもんだか……」
(胃が痛い……何度こういう場面に対極しても慣れんし苦手だ……下手なフォローなんてもってのほかだし……)
「……………………………………」
(ヤバい……マジ間が持たん……こんな時何を話せば良いんだろう。)
手持ち無沙汰で、かと言ってこの雰囲気を打破する突破口も見付けれずにいるマサキは、無意識にタバコの本数が増えて行く。
「アリシアはどうして今の職業に就いたの?」
「え?どうしてですか?」
「何と無くだけど、性格的にわざわざ選ぶような職業じゃないと思ったから。」
「いえ、あ、す、すみませんです。質問を質問で返した訳じゃ無いんです。」
「ああ、そっか、大丈夫だから。」
「うちは三人兄弟なんです。上には年の離れた兄が二人居ました。元々住んでた所は、こ、この街からうんと北にあるロレッカと言う地方の小さな街です。そこはギルドも無いようなほんとに小さな所です。」
「うん。」
マサキは黙って話を聴きながら、小さいケトルに水を継ぎ足してお茶のお代わりの用意をする。
「り、両親は冒険者とか全く無縁で、街全体が冒険者とか無縁な場所なので殆どの人は農業をして暮らしてました。う、上の兄達も農業の手伝いをして居たんですが、多少なりとも魔法が使えた為、農作物を荒らす害獣駆除もしていたです。」
アリシアは一つ一つ思い出すようにテーブルクロスを見詰めてゆっくり話していた。
「なるほど。」
「あ、ある日、害獣駆除中に運悪く兄達が怪我をしてしまって戻った晩、滅多に姿を見せない魔獣現れて街を襲いました。」
「お兄さん達の怪我って直ぐには動けないような?」
「はいです。生命の危険は無かった物の、骨折等の怪我をしてしまったので動けない状態でした。」
「そっか……」
「当然、小さな街だったので、入院施設が整った病院も無く、兄達は自宅で療養していたんですがそこに魔獣が来たんです。」
「マジか!」
(何か重い話になって来たな……シリアスな状況を打破する為に聞いた話題だったんだが、余計シリアスな話に成ってしまった……)
コトコトと湯気を立てているケトルを取り、お代わりのコーヒーを入れてアリシアの前に出した。
「あ、ありがとうです……」
「どういたしまして。」
アリシアは前に出されたコーヒーに、三本のスティックシュガーを入れ、三つのミルクポーションを開けて考えるようにクルクルとスプーンで回していた。
一口飲んで熱かったのか舌を出して「ひーふー」している。
「あ、熱かったか?慌てんでも良いから!あ、因みに舌先を下の歯の裏にくっ付けて飲むと、幾らか熱いのが緩和できるよ!」
「ほーなんれすね!」
「早く教えてあげれば良かったな……」
「い、いえ。」
此処に着いて一時間以上が過ぎ、妙な展開になりながらも夜は更けて行った。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
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