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食わせ者

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 「自分は第一近衛大隊、第二教導隊所属、ジェームス・F・スチュアートであります!」

 エイドリアンさんに紹介された人物は完全な軍人だった。

「はぁ……で、何故俺に軍人さんを?」
 思った事をそのままエイドリアンに聞いてみた。

「はい。突然の事で驚かれたと思いますが、それを今から説明しますね!」

 スチュアートは手を後ろに組み、肩幅に足を広げ姿勢よく前を向いて微動だにせず立っていた。
(ピクリとも動かないと蝋人形みたいだなぁ……www)

「実は彼を呼んだのには理由が有りまして……」とエイドリアンは話を続ける。

「彼は教導隊に所属してまして、日夜外敵から民衆を護る兵隊の指導をしています。まぁ簡単に言ってしまえば先生の様な役割をしているんですよ。」

「なるほど。」
(教導隊って確か凄腕の居る所だよな……)
 ティナも先程の事は切り離して真剣に耳を傾けている。

「それでですね、ここからはお願いになるのですが、クラタナさん、貴方に彼を指導して頂きたいと思って呼んだのです。そして……」

(え?意味わからん……)

「ちょ、ちょっと待って下さい!全く意味が分かりませんて!」
 慌ててマサキがエイドリアンの言葉を遮った。

「教導隊って事は、通常勤務の近衛兵隊の指導をしてるんですよね?そんな指導してる人に指導なんて、釈迦に説法ですよ!」

「仰る事はごもっともなんですが、私は昨日、貴方のモアの扱いを見て確信しました。確実に彼より扱いが上手いと。」
(おいおい、本人の目の前でそんな事言うなよ。可哀想だろ?鬼か?アンタは。)
 
 スチュアートは一瞬ピクっと動いたが表情は崩さなかった。

「そんな事急に言われても……ねぇ………」とティナに助けを求めるが、ティナも何と返したら良いのか解らず困り顔をしている。

「いや、お返事は直ぐで無くても良いのです。まだ時間は有りますのでゆっくりお考え下さい。」
(なに?この断れなそうな空気は……)

「い、いや、考えるとか関係無くて、俺は全くの素人ですよ?そんな素人が、日々鍛えたり訓練をしてる人に指導なんて、おこがましいですよ。」

「はは!私も酔狂でクラタナさんにお願いをしている訳では無いです。では一つネタバレをさせていただきますと、昨日、街を出た時の事を覚えて居ますか?」

「ええ、少し速度を上げると言って物凄い加速で離れた時ですよね?」(あんなん絶対少しじゃないわ!)

「その時私は、申し訳無いとは思いつつ全力で加速しました。」
(ですよねー……うん、うん、知ってた知ってた……(白目)

「はぁ。」

「それで貴方は直ぐ追い付いた…と言うかある一定の大きさなったら、近付く事は有っても離れませんでしたよね?」

「ええ、見失わない様に必死でしたから。」

「その後、貴方は私を追い抜いた、いえ、飛び越したんですが、コレの意味が解りますか?」

「いや、全くわかりません……」
(なに、なんか馬鹿にされてるのか?)

「最初に私は全力で、と言いました。それでお分かりかと……因みに、実は振り切ろうと思ってました。」

(え?なぞなぞ?なんだ?全力で走ってるのを追い越した。それがどうした?)

「わかりませんか?でしたら、貴方が全力で走って、振り切ろうとしている時に、逆に追い越されたらと考えればお分かりかと。」
(俺が全力で走ってて追い越されたら……相手の方が速いって考えるけど……あ……)

「もうお分かりですね、そう云う事です。因みに彼は私に追い付いて来れません。」とエイドリアンはスチュアートをみた。

(やっぱこいつ食わせ者だ……変な所で実力測りやがって……謀ったなぁ!シ○アっ!)

「で?そこで俺の実力を見て、この人の指導をしろと?」
 人を試す様な事をされて、マサキは少しカチンとなり言葉の端に怒気を含みながら言った。

「ええ、試す様な真似をして本当に申し訳ありませんでした。でも我々も必死なんです。」
 エイドリアンは姿勢を正してから謝罪した。
(そうとは言ってもなぁ……人に指導て……そんな立場じゃないし……そもそも俺は居候で無職でティナのヒモなんだぞ!そんな奴が人を指導とかwww教えられる方も嫌だろ、普通に考えて。それに何よりめんどくさい!)

「エイドリアンさん、頭を上げてください。」
(よし、ここは穏便に断わる方向で……)

「私事になるのですが…」と一応礼儀の為にエクスキューズを入れる。

「俺は、現在彼女の家に居候になってる身です。そして無職なんですよ。まぁこの歳で威張れた事では有りませんが。世間一般で言われるヒモと言うやつですね。そんな自分が到底、人の指導なんてもんが出来るとは思えませんですし、教えられる方も嫌だと思うんですよね。それにティナも居ますし。」

 エイドリアンとスチュアートはフムフムと真剣に聞いている。

「俺だったら、そんなゴミみたいな奴に教わるよりも、もっと人間として出来てる人に教わりたいと思うので、この話はお断りします。」

 エイドリアンは目を閉じ何かを思考している。

「ははは!流石おっぱい演説をしただけの事はありますね!」

「ええ?」
 突然先程のおっぱい演説の話を蒸し返され、ティナもマサキも驚きを隠せないでいた。
 チラッと横をみると、また顔を赤くしてティナは俯いてしまった。
(あ~あ……俺しらねーぞ。折角ティナタソ普通になってたのに……)

「ちょ、勘弁してくださいよ……なんでここでさっきの話が……」

「クラタナさん、貴方は墓穴を掘りましたよ!普通なら指導しろと言われれば、どう指導しようとか、ただ単にやりたくない理由を述べる物です。」

「ええ。なのでやりたくない理由を述べたのですが……」

「その、やりたくない理由でも、指導される側の気持ちを考えての事を仰りましたよね?」

「はい。」

「そこまで考えて解って居るなら、指導者として現在どうであれ問題無いという事です。貴方は相当頭の回転が速い。先の先まで考えれる力があります。そういう事も含めて彼に指導して欲しいのですよ。」

(え、俺またハメられたの?)

 どうしようもなくティナに助けを求めるが、やれやれといった顔をしている。

「で、でも、ティナも居ますし、まだ町で井戸掘りとかの作業も途中ですし……」
 とマサキは言ったがグダグダ過ぎて、最早ただの言い訳にしかならなくなっていた。

「あ~……そちらの件ですが、こちらから連絡しておきますよ。あとウェールズさんの事ですが、当然御一緒に指導に回って貰います。」

「ええ?!ティナもですか?」

「はい。」

「え?なんで?」

「失礼と思いましたが、ウェールズさんの冒険者カードも調べさせて頂きました。モア使いのaという事で。」
 とエイドリアンはティナに顔を向ける。

「はい。そうですが。」

「モア使いaの取得基準はご存知かと思われますが、私共はクラタナさんと同レベルの技術をウェールズさんが持って居ると判断しております。あ、同レベルと言っても今では無く今後と言う意味です。」

「はぁ……」
(まぁ、俺よりもティナの方がモアの扱い上手いのは納得できるわ。そんな所までこいつ見抜いてたのかよ……)

「でも、私、人に指導なんてした事ありませんよ!それにマサキの様なモアの扱いは出来ないですし…」
 おっぱい演説の時からずっと黙っていたティナが、久しぶりに口を開いた。

「ええ、承知しています。ただ、それは現段階で、ですよね?」
(何この人、何か喋れば喋る程、自分らが苦境に立たされる気がして来た。)

「まぁ、それは……そうかもだす……ですけどぉ……」
(あ、噛んだ……ティナ焦ってる。)

「お二人共、宜しくお願いしますっ!」と突然スチュアートが頭を下げた。

「まぁ、こんな感じですが、是非とも御協力願いたい次第です。」
 マサキとティナは顔を見合わせ返答に困った。

「あの……」とマサキはエイドリアンに声を掛ける。

「エイドリアンさんて、役所の人じゃ無いですよね?」

「ははは!やはりバレてしまいましたか、騙す真似をして申し訳無いのですがこれも命令だった物で……」
(やっぱそうか。役所の奴が軍用機なんか使わねーってーの!)

 姿勢を正して
「自分は、第一近衛兵隊大隊、第一教導アグレッサー部隊隊長 エイドリアン・J・マーヴェリックです!一応クラタナさんと同じモアライダー持ちですよ!」

「まじか……」
 軍人だろうとは予想していたものの、アグレッサー部隊の隊長とは思いもよらなかった。
(アグレッサー部隊の隊長て、殆ど居ないと言われるモアライダーのaの人だろ?て事はスチュアートさんもモアライダーなんだよな……)

「いやぁ~……やっと肩の荷が降りましたよ、騙すのはやっぱ疲れますねぇ……」

「………………」
 今までの生活に全く縁の無かった人々に会い、マサキとティナは完全に沈黙してしまった。
(いやいやいやいやいやいや、ちょっと待て、何がどうなってんだ?)

「ああ、そうだ!私も要件だけを先に伝えようとして先走ってしまいましたが、仮に指導して頂けるとなれば、当然タダとは行きませんので報酬が発生します。」

「え?あ、ああ……」
 マサキもティナも未だ上の空である。

「その報酬と福利厚生などの内容をこちらにまとめて置きました。」

 その内容とは

・指導期間の滞在費用及び住居
・モアの無期限貸与
・月毎の給料
・福利厚生の優遇措置
・他、指導に必要な物の無監査供給
条件として
・毎週毎の指導予定表の提出
・月毎の指導試験
・有事の際は所属する隊に準ずる

 等他にも色々書かれて居たが、とてもじゃ無いが読み切れないので飛ばし読みした。

「まぁ、宿泊先に戻られてゆっくり検討してみて下さい!後日でも良いので質問、疑問、要望とか何かお気付きの点が有りましたら何でも仰って下さい!」

「あ、はい……」
 (なにか、新聞とか宗教の勧誘に押されてるデジャブなのだが……)

「今日はこの要件だけですので、お帰りになられても結構ですよ!」
(あ、なんかいきなり終わったなwww)

「では、帰らせてもらいますね。」
(とても疲れた……考える事が多すぎだわ……)

「本日はありがとうございました!」
 エイドリアンとスチュアートがお辞儀をする中、二人はそそくさと部屋を後にして役所の建物から外に出た。


「ぷは~っ……………」
 マサキは早速一服している。役所の館内は何処も禁煙だからだった。
「マサキぃ~……どうすんの?」
 ティナが困り顔で聞いてくる。

「どうするってもなぁ……やりたいやりたくない以前に色々中途半端だからなぁ……どうしたもんだか……」
 ティナの方に煙が行かない様に風下に移動する。

「だよね。マサキはまだやらなきゃいけない事があるもんねぇ……」

「そうなんだけど、ティナはどうしたいとかあるのか?」

「え?私?私は~……まだ解らないよ。人の指導とか……でもマサキがやるなら私もやるよ!」
 道行く人々を見ていたティナが振り返り答えた。

「え?俺次第って事?まぁ、俺もティナがやるって言うならやるんだけどな(笑)」
 ただ一つマサキは気になる事があった。
 条件の一つに「有事の際は所属する隊に準ずる」と言う一文……
(これって無条件で戦えって事だろ?俺一人ならまだしも、ティナを道連れにする訳には行かない。)

「あー……まぁ、適当にやるか……」
 マサキは、演算のキャパオーバーしたのか、考える事を辞めた。

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