上 下
53 / 127

二人の温度差

しおりを挟む
 シパッ!シパッ!シパッ!と弓矢を持つ相手の三十メートル後方で突如火球が現れ一瞬辺りが明るくなる。
 それは一定の明るさを保ちながらゆっくりと落下していく。

 何事かと振り向いて確認した隙にティナは立ち上がり、少し離れた横をすり抜けた。
 咄嗟を突かれた弓を持った相手は、まともに狙いを定める事が出来ず一射目をあさっての方に飛ばし、二本目の矢を準備するが、その間にマサキが近付いて居ようとは思いもしていなかった。

 匍匐前進の状態で、マンターゲットの様な敵に狙いを定めトリガーを絞る。

「パァァッン!」

 その瞬間、標的は「ぐっ!」と嗚咽の様な声を上げ倒れた。

(当たった……倒れたから当たったんだ。でもどこに命中したのかは解らない。死んだのか死んでないのかも解らない。)

 硝煙の硫黄の匂いが立ち込める中、人を撃った事に恐怖する。

「なんだ!今のはっ!クソ!探せ!もう何でも良いから殺しちまえっ!」

 そんな言葉を聞いて意識を取り戻す。

(そうだ、ゴミだ。)

 匍匐前進をしていたマサキはゆっくりと立ち上がり、近付いて来るであろう敵を待った。

 すると暗闇の中で二つ動く物が眼に入ってきた。二人とも剣を持っていてラグビー選手のような出で立ちだった。

「おっさん!てめぇ死ねや!」

 相手が剣を振りかざして向かって来る瞬間に躊躇無く撃った。

「パァァッン!」

 暗がりに強烈なマズルフラッシュの光が伸びる。至近距離だった為外すことは無い。腹部に着弾し一瞬衝撃波で身体が膨らむ。

(即死か?)

 相手は何が起きたか分からないまま、力無く剣を地面に落とし膝から崩れ落ちるように倒れた。

「次。」

 横に居たもう一人も訳が解らないまま固まっているが、そんな事はお構い無しに鉛弾を撃ち込む。

「パァァッン!」

「ぶっ!」と息を吐き出して残りの一人も地面に倒れ込んだ。

 マサキは溜息を一つ吐き出して、今使った三発分の実包を再装填し、 後ろを振り向くと、倒した一人目のそばにティナが居た。

「なにしてんの?」
 抑揚の無い声でマサキが聞く。

「何って!治してるの!」
ティナは泣きながらそう言った。

「なんで?」

「どんな方法でも人は殺めちゃだめだよ……」

「だってコイツらゴミじゃん。殺意を持った相手に襲われそうになったんだから、こうなるのも自業自得じゃん。」

「それでもだめなのぉ~!」
かざしていた掌が光り出し、倒れている身体を包み込んだ。

「次はどこ?」
 キッと睨む様な表情でマサキを見て、倒した相手の場所を聞く。

「あっち。」
と力無げに指を指す。
 するとティナは走って行き今と同じ事を繰り返す。

 暫くすると最初の治癒魔法を掛けられて居た相手が気づ付いた。

「う、う~……」
(あ、気が付いた。)
 武器の弓は蹴って遠くにやったが、油断は出来ない。少し離れた場所から見守り、ハンマーは起こしておいた。

「おい。」
 マサキの眼には生気が無い。

「ひっ!」
 ビクッとして身体を起こす。そして仲間を探すように辺りをキョロキョロ見回した。

「何故襲った?」

「…………」
カチカチと恐怖で歯の当たる音が聞こえてくる。

「喋れないの?さっきは元気良かったじゃん?」
 不意に立ち上がると、襲った相手は目を瞑り腕でガードする素振りを見せた。

「喋りたくないのか喋れないのか解らんけど、まぁいいやー。」
と銃口を向け
「バーン!」と口で言うとその男は震えながら漏らした。

(駄目だコイツ……)

 見切りをつけ、ティナが治癒魔法を掛けている奴らの所へ行く。歩きながら全弾を非致死性弾に替えておく。


「さっきの奴、気が付いたぞ。」

「そう。良かった……」
(俺には何故良かったのかさっぱり解らん。)
 そう言って最後の一人を治療している。

 殺意を向けられればそれに立ち向かう、まぁ正当防衛だよな。まさか過剰防衛とか言わんだろうな…この世界で?そんな敵を気遣う様な余裕、俺には無いぞ!

「終わった。後は目を覚ますのを待つだけ。」
と独り言の様にティナが言った。

 先程気が付いた奴はどうしたんだろうと振り向いてみるが、既にそこには誰も居らず、何事も無かったの様に草が風に揺れていた。
(逃げたか……)

五分程経ち、二人目が目を醒ました。
(さぁ、尋問開始だ。)

「アンタ、なんで俺らを襲ったの?」
 
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」

「なんで?質問に答えてよ。」
 立ち上がりおもむろにチャキッとハンマーを引く。

「マサキ!銃はだめ!」
(何故止める。)

「大丈夫だってぇ~!殺さないから。」

 声は通常の言い方だが、顔は笑っていなかった。

「な、何で俺生きてるんだ?」
 襲った連中の一人が、自の身体を触りながら口にする。

「答えろ。」
 ボソリと言って引き金を引く。

「パァァッン!」と辺り一面に銃声が響き地面に着弾を残す。

「マサキっ!」とティナが叫び、咄嗟に腕を掴んで銃を降ろさせた。

「ひぃぃッ!」
と目を見開き頭を抱え小さくなる。

 もう一人の相手も今の銃声で気が付いたようだが、置かれている状況がまだよく分かってないらしい。

「じゃ、こっち。」
と目覚めたばかりの相手に質問をする。

「アンタは重傷を負ったがここに居るティナのお陰で命を取りとめた。おーけー?」

 言ってる意味が解っているのかいないのかは不明だが、うんうんとヘッドバンキングの様に頷いている。

「アナタハーナゼ、ワタシタチヲーオソイマシタカー?」

「そ、それを狙ってだ。」
(マトモに話せるじゃん。)

「ソレハーキンピンヲーネラッテノゴウトウデスかー?」

「そ、そうだ。」
(やっぱゴミじゃん……)

 グッと腕に力を入れるが、ティナが腕を押さえ付けていて動かない。本気で振りほどこうとすれば出来るのだろうけど、ティナの眼が全てを語っていた為、出来なかった。

「解った!解ったってば!」
 腕の力を抜き、観念する様な大袈裟なリアクションをするとティナは離れた。

「今日あったことは他言無用だ。」

 慈悲を求める様な表情で、二人共激しくヘッドバンキングしている。

「もし言ったり町の噂になる様な事になれば…」

「なれば……」
動きが止まる。

「容赦無く殺す。おーけー?」

「おーけ!」
二人は逃げる様に走って街道に戻って行った。

「先に逃げた奴にも伝えろよ~!」
 凄いスピードで走って行った為、声を大にして投げ掛ける。
 姿が闇と同化した頃、遠くから「おーけ!」と返事が聴こえた。


「帰るか……」

「うん……」
 そう言い二人は街道に戻る。ランタンはティナが最初に投げてしまったので、星の光程の明るさしか無い。

「ランタン弁償しないとな。」

「うん。」

(またこのパターンか……)

 そんな事を思っているとティナが口を開いた。
「マサキ、人は殺めちゃだめだよ。」

「解ってるけど、アレは正当防衛だろ?」

 ティナは黙って首を横に振る。
「あれはやりすぎだよ……」

(こちとら殺され掛けてるのにやりすぎもクソもあるかよ……)

 「こっちは殺され掛けたんだぞ!」
と矢で切った腕を見せると「ごめん、気付かなくて……」と言い治癒魔法を掛け始めた。

「服、破れちゃったね……」
 静かに目を伏せながら言葉を紡ぐ。

「うん、まぁ、仕方無い。」

 何となくティナの言いたい事も解るが、このイライラは何処にぶつけて良いのか解らない。

「帰ったら繕うから。」

「別に良いよ。」

「だって大事な物なんでしょ?」

「まぁ、そうだけど……」
(今、話逸らされた?俺……)

「うん、だから帰ったら繕うよ。」

「そこまで言うなら頼むよ。」


 そして二人は無言のまま帰宅したのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側室を用意したら離縁して下さいますか?

ヘロディア
恋愛
育ちがよく、幸せな将来を予想していた主人公。彼女の結婚相手は望んでいた結婚とは大違いであった。 夜中になると貪るように彼女を求めてくる彼と、早く離婚したいと願うようになり…

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

処理中です...