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日常

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 体調を崩す前、Lちゃんは犬とは思えないほど、規則正しい生活を送っていた。
 朝は四時に起き、飼い主を叩き起こした。トイレに行き、片付けるのを見守ったのちに、窓辺へ行き外を眺めた。少しの間うたた寝をし、五時半頃になると、おやつを所望する。
「ご飯が先」と出すが、トッピングによって食べたり食べなかったりする。ふと、Sちゃんのご飯の方が美味しそうだとハイエナのように狙い、Sちゃんに怒られる。
 食後、家事をする飼い主の姿をのんびり眺めて時間を過ごす。家事が一段落ついた頃、それではとばかりにレースのカーテンをめくり、日差しをガッツリ浴びる。
 数分後。
「けっけっけっけ」と舌を出しながら涼しい場所へ移動。暑いのに何してるんだ、と家族全員が首をかしげる。暑さ涼しさを繰り返すさまが、まるでサウナみたいだということで、Lちゃんのこの謎行動を『ととのえてる』と言っている。
 お昼。Lちゃんたちのご飯は、朝と夕の二回なのだが、自分たちにも何かおくれと騒ぎ出す。すぐに何かあげられればいいが、たまに無理な時がある。そういう時は、膝裏を鼻でぐいっと押してきて、膝カックンを食らうはめになる。ガチなやつで、本当にバランスを崩す。
 催促したおやつをもらい満足すると「お昼寝しましょう」と誘ってくる。
「待て」は、はっきりいって出来る子じゃない。添い寝をするまで、ずっと鳴き続ける根性の持ち主。諦めるまで無視すると、ふて寝する。いつも愛想が良い子なのだが、ご機嫌斜めになると声をかけてもガン無視してくるようになる。時間が解決してくれるまで待てば良いのだが、飼い主たちも待つことが出来ない。つまり飼い主そっくりってわけだ。ご機嫌取りにおやつをあげてしまう。そして、Lちゃんの機嫌もすぐ直る。
 夕方、外に出たいと鳴き出す。
 ご要望通り外へ連れて行くが、散歩はしない。抱っこのまま外の匂いを堪能し、飽きれば顔に鼻をくっつけてくる。そして夕飯の準備を見つめながら、野菜が貰えないかイイコちゃんで待ち続ける。
 夕ごはんを食べ、食後のおやつをもらい、ちょっと寝る。
 二十時。寝ましょうと誘い始める。眠気に勝てないのか、鳴いたり、寝たりを繰り返す。
 数時間後、一緒にご就寝。そして、朝は四時に起きるの繰り返し。
 おかげで、飼い主も早起きが当たり前になったし、お昼寝も当然のこととなっている。余命を告げられてからは、寝ていることが多くなった。自ら動くのはトイレと水を飲みに行く時ぐらい。
 しかし、ここにきて規則正しい生活が復活してきている。
 まさに『謎』。
 心なしか毛づやが良くなりつつある。さわり心地はまだまだだけど、ちょっとしたことで走るようになったし、ピョンピョン跳ねながらおやつをねだるようになった。
 本当にもうすぐ余命宣告された二ヶ月目に到達するんだろうか。本当にもうすぐいなくなってしまうのであろうか。

 余命宣告だなんてなかったような気がしてならない。
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