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第3章 この世界が思ってた以上にやばかったんですけど
2:聖都への〝帰還〟
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鈍色の表面が弾けるようにして消え去ると、私の腕は元通りになっていた。
「お前……何者だ?」
第七魔王が私の背中に問い掛ける。
私は混乱する頭を冷やすためにも、シリウスが飛び去って言った方向へ歩き出した。
──私が何者なのか、私だって分からない。
首から下げ続けていた白い花を封じ込めたガラス球のネックレスを握りしめる。枕元にこれが現れたあの日から、私はおかしくなった。この身体は、心は、本当に私のものなのか?
「街だ……」
弱々しいイヅメの声がした。
農耕地に疎らに家が建ち、街道が向かう先に高い城壁と白亜の塔が林立する中心地が見える。
気がついたらずいぶん歩いてきたようだった。
***
メスタという街は、蜂の巣を突いたような大混乱に陥っていた。大人たちが駆け回り、あちこちで衝突し、殴り合い、その中にあって露店などは商魂逞しく声を張り上げている。
「聖女を守る者には死を!」
そう叫んで、数人の男たちがひとりを殴りつけていた。第七魔王は鼻で笑う。
「所詮、人間はどこもこんなものか」
「笑ってる場合じゃない。とりあえず、イヅメを休ませられる場所を探さないと」
周囲の人々の奇異の目が私に向けられる。ドライバースーツも二人の格好も明らかに場違いな格好だ。服も変えなければならないだろう。イヅメも肩を貸さないとままならない。
どうすべきか考えていると、第七魔王がさきほどひとりをボコボコにしていた男たちに近づいた。
「聖女を守る連中に仲間が襲われた。休ませたいのだが、良い場所を知らないか?」
男たちは私とイヅメを怪訝そうに見つめたが、彼らの仲間がやっている宿屋が怪我をした同族を受け入れていると教えてくれた。第七魔王は得意げに戻って来た。
「この街に詳しいの?」
「初めて来た」
***
奥まった路地の中ほどにあったその宿屋は私たちを引き入れると、部屋を宛がってくれた。悪い人たちなのか良い人たちなのか分からなくなる。
窓からは古びた街並みの向こうにそびえる白亜の塔の群れが見える。だが、いくつかの塔は破壊されているようだ。煙も上がっている。
何かがあったのだ。
「奴は……?」
ベッドに横になったイヅメがそう問いかける。ここにいない第七魔王のことだ。
「服を調達しに行った」
「そうか……。今は奴と手を取り合うしかない」
「残念だけど、同感」
***
第七魔王が帰って来て、全員分の服を寄越してきた。
「魔族が聖都を襲ったらしい」
「それでこんな騒ぎに?」
「聖都の人間が魔族と通じていると疑った連中が聖女を襲撃したようだ。それで、聖女擁護派と衝突した」
どこに行っても争いばかりだ。
「で、聖女は?」
「逃亡中だ」
「シリウスはどこに?」
「知らん。さっさと着替えろ」
その時、隣室で物凄い物音がして、叫び声がした。
「聖女だ!」
慌てて部屋の外に飛び出した私に銀色の長い髪の少女が突っ込んできた。ぶつかられて、一緒に倒れてしまう。その後ろでアワアワと狼狽えるひ弱そうな男がひとり。
「れ、レヴィト様ぁ! 大丈夫ですか!」
宿屋の中の男たちが手近な物を武器にして二人を取り囲もうとしている。少女の決意に満ちたような眼。
私は彼女の手を取って部屋に駆け戻って、そのまま窓を突き破って外に飛び出した。イヅメたちがついて来ることを祈りながら。
「お前……何者だ?」
第七魔王が私の背中に問い掛ける。
私は混乱する頭を冷やすためにも、シリウスが飛び去って言った方向へ歩き出した。
──私が何者なのか、私だって分からない。
首から下げ続けていた白い花を封じ込めたガラス球のネックレスを握りしめる。枕元にこれが現れたあの日から、私はおかしくなった。この身体は、心は、本当に私のものなのか?
「街だ……」
弱々しいイヅメの声がした。
農耕地に疎らに家が建ち、街道が向かう先に高い城壁と白亜の塔が林立する中心地が見える。
気がついたらずいぶん歩いてきたようだった。
***
メスタという街は、蜂の巣を突いたような大混乱に陥っていた。大人たちが駆け回り、あちこちで衝突し、殴り合い、その中にあって露店などは商魂逞しく声を張り上げている。
「聖女を守る者には死を!」
そう叫んで、数人の男たちがひとりを殴りつけていた。第七魔王は鼻で笑う。
「所詮、人間はどこもこんなものか」
「笑ってる場合じゃない。とりあえず、イヅメを休ませられる場所を探さないと」
周囲の人々の奇異の目が私に向けられる。ドライバースーツも二人の格好も明らかに場違いな格好だ。服も変えなければならないだろう。イヅメも肩を貸さないとままならない。
どうすべきか考えていると、第七魔王がさきほどひとりをボコボコにしていた男たちに近づいた。
「聖女を守る連中に仲間が襲われた。休ませたいのだが、良い場所を知らないか?」
男たちは私とイヅメを怪訝そうに見つめたが、彼らの仲間がやっている宿屋が怪我をした同族を受け入れていると教えてくれた。第七魔王は得意げに戻って来た。
「この街に詳しいの?」
「初めて来た」
***
奥まった路地の中ほどにあったその宿屋は私たちを引き入れると、部屋を宛がってくれた。悪い人たちなのか良い人たちなのか分からなくなる。
窓からは古びた街並みの向こうにそびえる白亜の塔の群れが見える。だが、いくつかの塔は破壊されているようだ。煙も上がっている。
何かがあったのだ。
「奴は……?」
ベッドに横になったイヅメがそう問いかける。ここにいない第七魔王のことだ。
「服を調達しに行った」
「そうか……。今は奴と手を取り合うしかない」
「残念だけど、同感」
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第七魔王が帰って来て、全員分の服を寄越してきた。
「魔族が聖都を襲ったらしい」
「それでこんな騒ぎに?」
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「れ、レヴィト様ぁ! 大丈夫ですか!」
宿屋の中の男たちが手近な物を武器にして二人を取り囲もうとしている。少女の決意に満ちたような眼。
私は彼女の手を取って部屋に駆け戻って、そのまま窓を突き破って外に飛び出した。イヅメたちがついて来ることを祈りながら。
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