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第1章 「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになったんですけど
9:この世は望まぬことばかり
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天高く舞った黒竜が急降下する。鎧をつけた人間を薙ぎ払って、口から火を噴いた。盾で炎を防いだクラウスが長剣で反撃するも、固い鱗が刃を弾いた。リナが叫ぶ。
「本当に助けないとやばいって!」
俺は岩の影から動くことができなかった。今の俺の状況をどうやってクラウスに説明すればいい?
あいつとは騎士団学校で切磋琢磨した仲だ。そんな友人ごと、俺は街を裏切ったのだ。
「もういい! 出る!」
リナはそう言って駆け出した。
兵士たちを爪で引き裂こうとしていた黒竜目がけて彼女は雷の魔法を放つ。ひるんだ相手が空に逃げた隙にリナはクラウスのもとに駆けた。
「援軍助かる! 君は?!」
「リナ! この数相手じゃ分が悪い! 逃げるわよ!」
クラウスは首を振る。
「仲間たちを見捨てては行けない!」
だが、そうこうしているうちに二人の周囲の兵士たちが次々と倒れていく。リナは剣を拾って反撃するが、黒竜に翻弄されている。
遠くの空から滑空してきた黒竜の翼が二人を捉えて勢いよく弾き飛ばす。折り重なるように倒れ込む二人に黒竜が近づいていく。
堪らずに俺は飛び出して光の矢を放った。
「勇者アーガイル……!」
黒竜が咆哮と共に俺を振り返った。そう、こいつらは人語を話す。初めは俺も驚いた。
クラウスとリナの前に立って黒竜を睨みつけると、以前痛い目を見たせいか黒竜たちは慌てて飛び去って行った。
「なんで、お前が……。死んだはずじゃ?」
クラウスが叫んだ。
「そっちこそ、なんでこんな所まで?」
「お前がやられたと知っての弔い合戦さ。なぜか魔物の数が減っていて、ここまで進軍させることができた」
俺のせいだ。魔王城を目指す途中であらかた魔物を片付けておいた。俺は頭を抱えた。やることなすこと全て裏目に出ている。
疑問の止まらないクラウスに、俺は「魔王を倒すために死んだことにして奇襲の機会を窺っている」と苦し紛れのウソをついた。リナが呆れてそっぽを向くが、クラウスは信じたようだった。
「そうだったのか……」
「頼む。このことは誰にも言うな」
これでクラウスが秘密を守れば、何とかこの場は収まる。だが、クラウスの様子が変だ。
「お前は強い。それなのに、仲間が殺されているのをずっと見ていたのか?」
「それは……」
大勢の人間に目撃されれば秘密が漏れる可能性が高まる。それを危惧していたなんて口が裂けても言えなかった。
「強さは護るためにあるんじゃないのか?」
クラウスは満身創痍のまま行ってしまう。追いかけようとする俺にリナが冷たく言う。
「魂まで魔王にあげちゃったの?」
「お前だって、俺から世界の半分を……!」
「私に何か言う暇があったら、あんたのお友達のことを気にした方がいいんじゃない?」
***
クラウスを止めることは俺にはできなかった。そのままシルディア城まで彼を尾行した。
王の間が見下ろせる天窓の近くに陣取ってクラウスが報告を行うのを黙って見ているしかできなかった。
「シルディア王、僭越ながら申し上げます」王の前で膝を突いたクラウスが声を上げる。「アーガイルは生きております!」
「そんなバカな……。葬儀まで執り行ったのだぞ?」
「奴は我々を欺いたのです。そして、私の仲間を見殺しにしました。彼の討伐命令を!」
最悪の事態だ。
シルディア王は険しい表情で立ち上がった。
「勇敢に戦った勇者を愚弄するとは、なんという不敬! 貴様のような奴はこの街から追放だ! 殺されないだけありがたく思え!」
クラウスは失望に満ちた表情を浮かべ、王の間の入口まで歩いて振り返った。
「この街に尽くした俺にそのような侮辱を……! いずれ後悔することになるぞ!」
「本当に助けないとやばいって!」
俺は岩の影から動くことができなかった。今の俺の状況をどうやってクラウスに説明すればいい?
あいつとは騎士団学校で切磋琢磨した仲だ。そんな友人ごと、俺は街を裏切ったのだ。
「もういい! 出る!」
リナはそう言って駆け出した。
兵士たちを爪で引き裂こうとしていた黒竜目がけて彼女は雷の魔法を放つ。ひるんだ相手が空に逃げた隙にリナはクラウスのもとに駆けた。
「援軍助かる! 君は?!」
「リナ! この数相手じゃ分が悪い! 逃げるわよ!」
クラウスは首を振る。
「仲間たちを見捨てては行けない!」
だが、そうこうしているうちに二人の周囲の兵士たちが次々と倒れていく。リナは剣を拾って反撃するが、黒竜に翻弄されている。
遠くの空から滑空してきた黒竜の翼が二人を捉えて勢いよく弾き飛ばす。折り重なるように倒れ込む二人に黒竜が近づいていく。
堪らずに俺は飛び出して光の矢を放った。
「勇者アーガイル……!」
黒竜が咆哮と共に俺を振り返った。そう、こいつらは人語を話す。初めは俺も驚いた。
クラウスとリナの前に立って黒竜を睨みつけると、以前痛い目を見たせいか黒竜たちは慌てて飛び去って行った。
「なんで、お前が……。死んだはずじゃ?」
クラウスが叫んだ。
「そっちこそ、なんでこんな所まで?」
「お前がやられたと知っての弔い合戦さ。なぜか魔物の数が減っていて、ここまで進軍させることができた」
俺のせいだ。魔王城を目指す途中であらかた魔物を片付けておいた。俺は頭を抱えた。やることなすこと全て裏目に出ている。
疑問の止まらないクラウスに、俺は「魔王を倒すために死んだことにして奇襲の機会を窺っている」と苦し紛れのウソをついた。リナが呆れてそっぽを向くが、クラウスは信じたようだった。
「そうだったのか……」
「頼む。このことは誰にも言うな」
これでクラウスが秘密を守れば、何とかこの場は収まる。だが、クラウスの様子が変だ。
「お前は強い。それなのに、仲間が殺されているのをずっと見ていたのか?」
「それは……」
大勢の人間に目撃されれば秘密が漏れる可能性が高まる。それを危惧していたなんて口が裂けても言えなかった。
「強さは護るためにあるんじゃないのか?」
クラウスは満身創痍のまま行ってしまう。追いかけようとする俺にリナが冷たく言う。
「魂まで魔王にあげちゃったの?」
「お前だって、俺から世界の半分を……!」
「私に何か言う暇があったら、あんたのお友達のことを気にした方がいいんじゃない?」
***
クラウスを止めることは俺にはできなかった。そのままシルディア城まで彼を尾行した。
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