上 下
10 / 107
第1章 「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになったんですけど

4:気づいたら殺ってました。

しおりを挟む
 俺は透明化の指輪の恩恵を受けながら旅立つ故郷を目に焼きつけようとしていた。俺の葬儀が終わった街はに服していて、どうやら俺の死は俺が思っている以上に大事おおごとだったんだと気づかされる。

「アーガイルが死ぬなんて、あり得ない!」

 スカーレットがうちの家の居間で泣いている。仕方なくついて来たシリウスと共に、姿を消したままその様子を見ていた。
 憔悴しょうすいしきった父は彼女の言葉に驚きつつも、なにやら思うところがあるようだった。

「あいつは城を出ていく前に身分証を発行していたらしい。魔王を倒すのには必要がないのに。何かに巻き込まれた可能性がある」

 シリウスが俺を小突いて「余計なことを」と口の動きで伝えてきた。身分証はお前の上司である魔王に持って来いと言われただけだ、と目で訴える。
 家の二階からロゼッタの号泣とそれをなぐさめる母の声がくぐもって聞こえてくる。

 ああ、俺は本当にバカな選択をしたのだ、と今になって深く痛感する。

   ***

「息子が身分証の発行申請した理由を、どうしてきちんと確かめなかったんだ!」

「通行証の発給に使うとおっしゃっていたので、それ以上は……」

 シルディア城の窓口で父はイラついていた。そして、この街の治安を守る警護隊としての目が燃えていた。

「ここから魔王城の間に通行証が必要な要衝ようしょうなどないだろ!」

 透明化したまま遠巻きに見ていたシリウスは冷徹な目をして、小声で言った。

「面倒なことになってるじゃないか。あの男が君の死に裏があると気づきでもしたら、魔王様の思惑が台無しになる」

「それは魔王の自業自得だろ……」

 俺が不満をぶつけると、シリウスは悪魔のような形相ぎょうそうで俺を見た。……元から悪魔みたいなもんか。

「魔王様を愚弄ぐろうするのは許さんぞ」

「俺の死体を見てるんだし、大事おおごとにはならないだろ。父さんの思い過ごしで終わるさ」

「いや、魔王様の障害になる芽は即座にむべきだ」

 父に向けて火球を放とうとするシリウスの顔面にパンチをかます。奴がひるんだ隙に身体をホールドして、城塞の外に簡易転移魔法で瞬間移動テレポートする。
 シリウスが口の端から青い血を流して地面に尻をついていた。

「魔王様にも殴られたことないのに……!」

 シリウスの身体がメキメキと音を立ててひび割れて、見る見るうちに青い炎をまとった鈍色の巨体に変貌していく。一部の魔族は真の姿を顕現けんげんさせるらしいが、こういうことか。

「消えろ!」

 青い炎の爪が振り下ろされる。それを回避して、空中に退避する。

「お前がいなければ、ボクが魔王様の一番なんだぁ!!」

 感情ダダ漏れで無数の火球魔法を解き放ってくる。防御魔法で光陣を展開し、火球をシャットアウトする。
 爆炎と黒煙をき分けてシリウスの青い炎の腕が伸びてきて、その爪で俺を引き裂こうとする。

 俺は光の剣を異空間から引きずり出して、その腕に斬撃をぶち込んだ。パックリと割れたシリウスの腕から炎がほとばしる。

「ぐああっ!!」

 光の剣をシリウスの顕現した悪魔の顔に向ける。燃える眼が俺を睨みつけた。

灰燼かいじんに帰せ──」

 シリウスが唱えた瞬間、天空から白熱する巨大な火の剣が降り注いできた。周囲の地面と空間を轟音と炎熱の小さな地獄が包み込む。
 天高く飛翔した俺には意味がない。眼下がんかでは、シリウスが黒煙の中をうかがっている。

「やったか……?!」

 光の翼を呼び出して、急降下する。
 無防備なシリウスの脳天目がけて、神速の剣撃を突き下ろした。シリウスの頭から身体を突き抜けて光の柱が屹立きつりつする。

 シリウスは大きな音を立てて倒れ込んだ。その身体を光の粒が包み込んで人の姿に戻っていく。横たわるシリウスの魔力は消滅しているようだ。
 着地して光の剣を異空間に送り返す。まずいことになった。

「やべ……。ぶっ殺しちゃったよ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

処理中です...