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【魔女「アラクネ」の遺言】

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漆黒の暗闇の中に魔女「アラクネ」が横たわっていた。
その真上で髑髏(ドクロ)の顔に黒のローブを着た死神少女が浮かび、手に持っている「死の書」を確認していた。
人と現世を繋ぐ「命の紐(ひも)」を断ち切る時には、死神は黒の正装になる。
人は葬式の時、黒又は場所によっては白の喪服を着る。
それは 昔から人の死にふれることは、「けがれ」といって、まわりの人々にとって良くないこととして、避けられてきたからであるが、死神が黒を基調にしたローブを纏うのは人を尊(とうと:うやまって大切にする)ぶところから来ており、人とは考え方が少し違うようである。

『魔女アラクネよ、その時が来たようだ、何か言い残すことはないかね?』死神は何時もの少女言葉と違う中年男性の威厳ある声で言葉を掛けた。
黒の正装に合わせて、それに合う言葉と声を選んで、変えたのである。

『最後に遺言が言えるのかね・・・有難いね・・・でもね・言い残すことは水晶玉に託しているから、聞いておくれ・・・あ!そうだ精霊に愛されている娘に、戦えて楽しかったと伝えておくれないかい・・・』

『分かった。そなたこ言葉必ずや伝えよう』

『戦えて楽しかった』それが、北の魔女と恐れられたアラクネの最後の言葉だった。
その直後、死神の大鎌が振り下ろされた。
「アラクネ」と現世を繋いでいた「命の紐」が、白く浮かび上がった大鎌の刃の煌(きらめ)きとともに断ち切られた瞬間だった。
それは数百年生きて、人々から恐れられた最恐の魔女の死であるとともに、ひとりの老女が来世へ旅立ったことを意味していた。

北の魔女「アラクネ」によって存在し、ブリザードが猛威を振るっていた閉鎖空間と骸骨剣士達は、初めから何も無かった様に彼女の死により姿を消した。
後には黒い森の何時もの静けさの中に千年樹が聳えていた。

竜馬たちはこの後、帝都に帰ることにしたが、その前に驚くことが二つあった。
一つは北の魔女「アラクネ」が「魔法の水晶玉」に自分の死を予見して、メッセージ(ことづて:伝言)を残していたのだった。

『精霊に愛される娘よ!今、儂の言葉を聞いている時、儂はそなたとの戦いに敗れて、もうこの世にはいないじゃろう・・・魔女として恐れられ、決して望んでのことではなかったが、多くの人を殺めたから、戦いに敗れて自業自得じゃて・・・憐(あわ)れむ事なかれ・・・そなたを超える術者はいないだろうが、願わくば儂が愛した魔法書と水晶玉を持ち帰り大事にして欲しい。
この魔道書は長年に亘って、儂が集めた宝物じゃ、娘よ、恐らく未だ精霊の本来の力を引き出すことができていない筈じゃから、何時か魔王と戦う時があったら、魔道書に書かれていることが役にたつだろう、それまでに更に術を極めるとよい。
それに今、見ている水晶玉は千里を見渡し、また、未来を見ることができる魔眼の力を持つ魔法の水晶玉じゃ、主人に盾突くこともあるが、そなたの役にたつじゃろうて・・・だから大事にしてくれないかい、その代わりにそなたたちが探していた物をあげようじゃないか・・・どうじゃ?』

「さつき」が頷(うなず)くと、それを見ていたかの様に・・・その物が突然、何もない空間から落ちて来た。
それは次元と時を司る指輪の対(つい:二つそろって一組になっているもの)の一つだった。

『儂も違う世界が見たくて、対の一つを探していたのじゃ、そなたたちが持っている片割れの指輪の対になる物じゃ・・・』そなたたちを倒せたら、黒髪の男が持っているもう一つの指輪と合わせて、違う世界を旅するつもりじゃった。
じゃから遠慮しないで、持ち帰えるがよい。
悪魔ガニーは異世界に逃げ込んでいる筈じゃ、この魔法の水晶玉が、そなたたちを導くじゃろう。
やつの事じゃ、行った先でも謀(はかりごと)を企てるじゃろう・・・止められるのはお前たちだけじゃ・・・じゃ、さらばだ・・・精霊に愛された娘よ・・・。』

その言葉を最後に、こちらから問いかけても、答えることはなかった。
魔女から託された魔導書は帝都の図書館にも数が少ない、古(いにしえ)の魔導書で、古代文字で書かれていた。
魔法の研究者に取っては、金貨数十枚積んでも手に入れたい貴重な書物だった。
もう一つの驚いたことは死神少女が、小さな少女から「さつき」と同年代の少女に急に変貌を遂げていたことである。
彼女が言うには時代に影響を与える力を持っていた北の魔女の魂を、大鎌で刈り取ったことによるらしい。

『うふふ・・・やっぱり、貴方たちと一緒にいて正解だった・・・なかなか見つけることができない魂が、こんなに簡単に刈ることが、できたんですもの・・・』

北の魔女の魂はかなりレア(rare:まれな)だったようだ。
平民の魂を千人、万人大鎌で刈り取るよりも、一人のレアな魂を刈る方が霊力の上昇が大きいそうだ。
霊力が極限まで高まると、霊格があがり、やがては死神から、女神になれる。

『だから、珍しい魂を持つ、竜馬や「さつき」が、死の書に浮かびあがるまで、まつわ・・・だって、神の時間はたとえそれが、100年200年だって瞬きの様な時間ですもの・・・』

竜馬と「さつき」は顔を見合わせ、少しいやな顔をした。
二人の心中を伺うことができる表情だった。
竜馬たちが次元と時を司る指輪を探しながらも、行方すらも分からなかった指輪が思わぬ形で手に入れることができた。
指輪の力を借りて、異世界の冒険に旅立つ日は近いようだ。
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