67 / 106
【魔女「アラクネ」の遺言】
しおりを挟む
漆黒の暗闇の中に魔女「アラクネ」が横たわっていた。
その真上で髑髏(ドクロ)の顔に黒のローブを着た死神少女が浮かび、手に持っている「死の書」を確認していた。
人と現世を繋ぐ「命の紐(ひも)」を断ち切る時には、死神は黒の正装になる。
人は葬式の時、黒又は場所によっては白の喪服を着る。
それは 昔から人の死にふれることは、「けがれ」といって、まわりの人々にとって良くないこととして、避けられてきたからであるが、死神が黒を基調にしたローブを纏うのは人を尊(とうと:うやまって大切にする)ぶところから来ており、人とは考え方が少し違うようである。
『魔女アラクネよ、その時が来たようだ、何か言い残すことはないかね?』死神は何時もの少女言葉と違う中年男性の威厳ある声で言葉を掛けた。
黒の正装に合わせて、それに合う言葉と声を選んで、変えたのである。
『最後に遺言が言えるのかね・・・有難いね・・・でもね・言い残すことは水晶玉に託しているから、聞いておくれ・・・あ!そうだ精霊に愛されている娘に、戦えて楽しかったと伝えておくれないかい・・・』
『分かった。そなたこ言葉必ずや伝えよう』
『戦えて楽しかった』それが、北の魔女と恐れられたアラクネの最後の言葉だった。
その直後、死神の大鎌が振り下ろされた。
「アラクネ」と現世を繋いでいた「命の紐」が、白く浮かび上がった大鎌の刃の煌(きらめ)きとともに断ち切られた瞬間だった。
それは数百年生きて、人々から恐れられた最恐の魔女の死であるとともに、ひとりの老女が来世へ旅立ったことを意味していた。
北の魔女「アラクネ」によって存在し、ブリザードが猛威を振るっていた閉鎖空間と骸骨剣士達は、初めから何も無かった様に彼女の死により姿を消した。
後には黒い森の何時もの静けさの中に千年樹が聳えていた。
竜馬たちはこの後、帝都に帰ることにしたが、その前に驚くことが二つあった。
一つは北の魔女「アラクネ」が「魔法の水晶玉」に自分の死を予見して、メッセージ(ことづて:伝言)を残していたのだった。
『精霊に愛される娘よ!今、儂の言葉を聞いている時、儂はそなたとの戦いに敗れて、もうこの世にはいないじゃろう・・・魔女として恐れられ、決して望んでのことではなかったが、多くの人を殺めたから、戦いに敗れて自業自得じゃて・・・憐(あわ)れむ事なかれ・・・そなたを超える術者はいないだろうが、願わくば儂が愛した魔法書と水晶玉を持ち帰り大事にして欲しい。
この魔道書は長年に亘って、儂が集めた宝物じゃ、娘よ、恐らく未だ精霊の本来の力を引き出すことができていない筈じゃから、何時か魔王と戦う時があったら、魔道書に書かれていることが役にたつだろう、それまでに更に術を極めるとよい。
それに今、見ている水晶玉は千里を見渡し、また、未来を見ることができる魔眼の力を持つ魔法の水晶玉じゃ、主人に盾突くこともあるが、そなたの役にたつじゃろうて・・・だから大事にしてくれないかい、その代わりにそなたたちが探していた物をあげようじゃないか・・・どうじゃ?』
「さつき」が頷(うなず)くと、それを見ていたかの様に・・・その物が突然、何もない空間から落ちて来た。
それは次元と時を司る指輪の対(つい:二つそろって一組になっているもの)の一つだった。
『儂も違う世界が見たくて、対の一つを探していたのじゃ、そなたたちが持っている片割れの指輪の対になる物じゃ・・・』そなたたちを倒せたら、黒髪の男が持っているもう一つの指輪と合わせて、違う世界を旅するつもりじゃった。
じゃから遠慮しないで、持ち帰えるがよい。
悪魔ガニーは異世界に逃げ込んでいる筈じゃ、この魔法の水晶玉が、そなたたちを導くじゃろう。
やつの事じゃ、行った先でも謀(はかりごと)を企てるじゃろう・・・止められるのはお前たちだけじゃ・・・じゃ、さらばだ・・・精霊に愛された娘よ・・・。』
その言葉を最後に、こちらから問いかけても、答えることはなかった。
魔女から託された魔導書は帝都の図書館にも数が少ない、古(いにしえ)の魔導書で、古代文字で書かれていた。
魔法の研究者に取っては、金貨数十枚積んでも手に入れたい貴重な書物だった。
もう一つの驚いたことは死神少女が、小さな少女から「さつき」と同年代の少女に急に変貌を遂げていたことである。
彼女が言うには時代に影響を与える力を持っていた北の魔女の魂を、大鎌で刈り取ったことによるらしい。
『うふふ・・・やっぱり、貴方たちと一緒にいて正解だった・・・なかなか見つけることができない魂が、こんなに簡単に刈ることが、できたんですもの・・・』
北の魔女の魂はかなりレア(rare:まれな)だったようだ。
平民の魂を千人、万人大鎌で刈り取るよりも、一人のレアな魂を刈る方が霊力の上昇が大きいそうだ。
霊力が極限まで高まると、霊格があがり、やがては死神から、女神になれる。
『だから、珍しい魂を持つ、竜馬や「さつき」が、死の書に浮かびあがるまで、まつわ・・・だって、神の時間はたとえそれが、100年200年だって瞬きの様な時間ですもの・・・』
竜馬と「さつき」は顔を見合わせ、少しいやな顔をした。
二人の心中を伺うことができる表情だった。
竜馬たちが次元と時を司る指輪を探しながらも、行方すらも分からなかった指輪が思わぬ形で手に入れることができた。
指輪の力を借りて、異世界の冒険に旅立つ日は近いようだ。
その真上で髑髏(ドクロ)の顔に黒のローブを着た死神少女が浮かび、手に持っている「死の書」を確認していた。
人と現世を繋ぐ「命の紐(ひも)」を断ち切る時には、死神は黒の正装になる。
人は葬式の時、黒又は場所によっては白の喪服を着る。
それは 昔から人の死にふれることは、「けがれ」といって、まわりの人々にとって良くないこととして、避けられてきたからであるが、死神が黒を基調にしたローブを纏うのは人を尊(とうと:うやまって大切にする)ぶところから来ており、人とは考え方が少し違うようである。
『魔女アラクネよ、その時が来たようだ、何か言い残すことはないかね?』死神は何時もの少女言葉と違う中年男性の威厳ある声で言葉を掛けた。
黒の正装に合わせて、それに合う言葉と声を選んで、変えたのである。
『最後に遺言が言えるのかね・・・有難いね・・・でもね・言い残すことは水晶玉に託しているから、聞いておくれ・・・あ!そうだ精霊に愛されている娘に、戦えて楽しかったと伝えておくれないかい・・・』
『分かった。そなたこ言葉必ずや伝えよう』
『戦えて楽しかった』それが、北の魔女と恐れられたアラクネの最後の言葉だった。
その直後、死神の大鎌が振り下ろされた。
「アラクネ」と現世を繋いでいた「命の紐」が、白く浮かび上がった大鎌の刃の煌(きらめ)きとともに断ち切られた瞬間だった。
それは数百年生きて、人々から恐れられた最恐の魔女の死であるとともに、ひとりの老女が来世へ旅立ったことを意味していた。
北の魔女「アラクネ」によって存在し、ブリザードが猛威を振るっていた閉鎖空間と骸骨剣士達は、初めから何も無かった様に彼女の死により姿を消した。
後には黒い森の何時もの静けさの中に千年樹が聳えていた。
竜馬たちはこの後、帝都に帰ることにしたが、その前に驚くことが二つあった。
一つは北の魔女「アラクネ」が「魔法の水晶玉」に自分の死を予見して、メッセージ(ことづて:伝言)を残していたのだった。
『精霊に愛される娘よ!今、儂の言葉を聞いている時、儂はそなたとの戦いに敗れて、もうこの世にはいないじゃろう・・・魔女として恐れられ、決して望んでのことではなかったが、多くの人を殺めたから、戦いに敗れて自業自得じゃて・・・憐(あわ)れむ事なかれ・・・そなたを超える術者はいないだろうが、願わくば儂が愛した魔法書と水晶玉を持ち帰り大事にして欲しい。
この魔道書は長年に亘って、儂が集めた宝物じゃ、娘よ、恐らく未だ精霊の本来の力を引き出すことができていない筈じゃから、何時か魔王と戦う時があったら、魔道書に書かれていることが役にたつだろう、それまでに更に術を極めるとよい。
それに今、見ている水晶玉は千里を見渡し、また、未来を見ることができる魔眼の力を持つ魔法の水晶玉じゃ、主人に盾突くこともあるが、そなたの役にたつじゃろうて・・・だから大事にしてくれないかい、その代わりにそなたたちが探していた物をあげようじゃないか・・・どうじゃ?』
「さつき」が頷(うなず)くと、それを見ていたかの様に・・・その物が突然、何もない空間から落ちて来た。
それは次元と時を司る指輪の対(つい:二つそろって一組になっているもの)の一つだった。
『儂も違う世界が見たくて、対の一つを探していたのじゃ、そなたたちが持っている片割れの指輪の対になる物じゃ・・・』そなたたちを倒せたら、黒髪の男が持っているもう一つの指輪と合わせて、違う世界を旅するつもりじゃった。
じゃから遠慮しないで、持ち帰えるがよい。
悪魔ガニーは異世界に逃げ込んでいる筈じゃ、この魔法の水晶玉が、そなたたちを導くじゃろう。
やつの事じゃ、行った先でも謀(はかりごと)を企てるじゃろう・・・止められるのはお前たちだけじゃ・・・じゃ、さらばだ・・・精霊に愛された娘よ・・・。』
その言葉を最後に、こちらから問いかけても、答えることはなかった。
魔女から託された魔導書は帝都の図書館にも数が少ない、古(いにしえ)の魔導書で、古代文字で書かれていた。
魔法の研究者に取っては、金貨数十枚積んでも手に入れたい貴重な書物だった。
もう一つの驚いたことは死神少女が、小さな少女から「さつき」と同年代の少女に急に変貌を遂げていたことである。
彼女が言うには時代に影響を与える力を持っていた北の魔女の魂を、大鎌で刈り取ったことによるらしい。
『うふふ・・・やっぱり、貴方たちと一緒にいて正解だった・・・なかなか見つけることができない魂が、こんなに簡単に刈ることが、できたんですもの・・・』
北の魔女の魂はかなりレア(rare:まれな)だったようだ。
平民の魂を千人、万人大鎌で刈り取るよりも、一人のレアな魂を刈る方が霊力の上昇が大きいそうだ。
霊力が極限まで高まると、霊格があがり、やがては死神から、女神になれる。
『だから、珍しい魂を持つ、竜馬や「さつき」が、死の書に浮かびあがるまで、まつわ・・・だって、神の時間はたとえそれが、100年200年だって瞬きの様な時間ですもの・・・』
竜馬と「さつき」は顔を見合わせ、少しいやな顔をした。
二人の心中を伺うことができる表情だった。
竜馬たちが次元と時を司る指輪を探しながらも、行方すらも分からなかった指輪が思わぬ形で手に入れることができた。
指輪の力を借りて、異世界の冒険に旅立つ日は近いようだ。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる