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【付喪神(つくもがみ)と精霊】

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「さつき」は竜馬が王城に呼ばれている時も、一人で図書館に通った。
この世界で生きて行くため、そして、できれば、元の世界に帰る手段が見つかるかも知れないという、淡(あわ)い期待があったからだ。
必死で、あらゆる種類の本を読破し、特に魔法書に書かれた魔法の使い方を頭に叩き込んだ。
宿に帰ってからは魔法書に書かれた、魔法を頭でイメージし、夜中に宿を抜け出しては魔法を試してみた。
この世界ではイメージの強さが魔法として現れるという確たる思いがあったからだ。
「さつき」は数ヶ月で、第二階位の魔法を使えるようになっていた。
第二階位のレベルは魔法使いを志した者が、仮に才能を持っていたとして、数年から数十年掛かるレベルである。
それを数ヶ月で使えることができるようになったのだ。
「さつき」は、やはり「恐るべき女子高生」と言えるかも知れない。
ちなみに宮廷魔導師をしているヴァルガー老師が第三階位であり、この世界でも5指に数えられる高位の魔法使いに位置するが、このレベルの魔法を使うには精霊との契約が必要だった。
精霊契約を結べるのは一つの属性だけ、二つの属性の精霊と契約した者は殆どいなかった。
二属性を操る現存している魔法使いは確認されていないが、過去に数人いたといわれており、その人たちは賢者と呼ばれたと記録に残っている。
最近、竜馬と別行動を取ることもあり、竜馬は家探しに「さつき」は今日も図書館に来て、魔法の本を読んでいた。
今、読んでいるのは電気ショックで目標を気絶させる電紫雷光(メガボルト)の魔法書だった。
魔法書を、むさぼり読んでいると誰かが、呼んでいる声がしたので頭を上げた。
小さいおかっぱ頭の「人形の様な」女の子が手招きをして、「さつき」を呼んでいた。
何だろうと思い、通路の奥までついて行くと、そこには重厚な扉があった。
「さつき」は最初に図書館に来た時に司書の、そばかすの彼女が言った『絶対に入らないで下さい』という注意を忘れていた。
先程の女の子がどういう訳か扉の向こう側にいて呼んでいる様な気がしたので、重い扉を開けて、女の子を探したが、何処にもいなかった。
その時、棚の上にあった一冊の本が目に留まった。
彼女はこの後、運命を大きく変える出来事を経験することになる。

何が書いてあるのか、気になって本を開けると本の中に吸い込まれてしまった。
『何よ!これ?』と思ったが、気が付いたら、そこには辺り一帯に野ばらが咲いていた。
よく見ると、野ばらだと思えた花は少し違って、植物図鑑で見たことがある「金桜子:きんおうし」によく似た花だった。
金桜子と少し違うのは花丈が低く、色鮮やかな六色の花だというところだろうか・・・。
間も無く、そこに人の姿をしているが、得体の知れない、オーラを纏った何かが現れた。
それは後に知ることになるが、滅多に見る事が適わない風・水・火・土・光・雷を司(つかさど)る精霊たちだった。
精霊たちは、「さつき」を見ても気に留めてなかったが、『すみません、どなたか、ここが何処か教えて下さい』と、頭を下げて訊ねると驚いたようだった。
青色のオーラ(風の精霊)を纏った者が『娘よ!我らの姿が見えるのか?』と尋ねてきた。
『見えますが、それが何か?』と答えると、精霊たちから「どよめき」が起こり、ざわつき始めた。
人は生まれながらに魔法属性があって、稀な無属性の者以外の大部分の人は風・水・火・土・光・雷の六つの属性の、何れかに繋がる素質を強弱は別にして生まれ持っている。
もし、火の属性の素質を持った者ならば、火の精霊しか見ることしか出来なかった。
しかし、「さつき」は複数の人が見えたから「どなたかと」聞いたのだ。
意味するところは精霊が認めれば、六つの精霊を全て使役することが出来るということだった。
暫くして精霊たちのざわめきが治まり、野ばらの花畑はひっそり静まり返った。
沈黙を破ったのは眩(まばゆ)いばかりのオーラを纏った光の精霊だった。

『面白い、ならば娘よ!我(われ)の力を受け止めてみるか?
これから与える試練に耐えることが出来たなら、その身が朽ちるまで、我らの力を好きに使うがよい。
叶わぬならば、この地に咲く、花たちの様に、人としての命を貰うことになる。
この花はやがて、実を付け食せば、それは我ら精霊の糧となるものだ。
娘よ!よいか心して掛かるがよい』

金桜子だと思われた花は精霊契約を願って、適わなかった人の成れの果てだった。
「さつき」は一瞬、急な展開に戸惑ったが、精霊に向かって視線を逸(そ)らすことなく対峙(たいじ)し、少し間を置き、覚悟を決めて頷(うなず)いた。
彼女の覚悟は、この世界で生き抜くため、精霊を身に宿し力を得る事で、道を拓きたいという強い意志によるものだった。
その瞬間、精霊たちが一つ気の流れになり、濁流(だくりゅう)のように「さつき」の心に容赦なく入って来た。
それは森羅万象の理(ことわり)に加えて、喜び・悲しみ・怒り・諦め・驚き・嫌悪・恐怖など人が持ちうる全ての感情だった。
喜怒哀楽(きどあいらく)の、さまざまな感情は精霊の力を求めたが、叶わず散った、名も無い者たちの抱いていたものに違いない。
心を焼き張り裂かんばかりの感覚が「さつき」を襲った。
しかし、「さつき」は未(いま)だ、嘗(かつ)て誰も耐えることができなかった苦しみに、最後まで耐えることができた。
それは生まれながらに身に宿していた強い霊力と器の大きさがあって成せることだった。

暫くして「さつき」は気を失っているところを、司書をしているそばかすの彼女に起こされた。
『「さつき」さん、大丈夫ですか?念を押したのに、この場所に近づいては駄目じゃないですか!』と叱られた。
この時、さつきは自身の中で渦巻く魔力を感じていた。
それは森羅万象の理(ことわり)を悟り、有史以来、初めて六つの魔法属性を操る最強の魔法使いが誕生した瞬間だった。
「さつき」が開いた本は数百年の年月を経て、精霊が取りつき「付喪神:つくもがみ」になった危険な魔導書であり、厳重に封印されている筈だった。
魔導書は封印を解いてまで、あの小さい座敷童子(ざしきわらし)様な女の子を遣わした目的は何だったのか?
「さつき」を呼び寄せ精を吸い取るためだったのか?
それとも自らの宿主を見つけるためだったのか・・・?
それは定かではない。
座敷童子(ざしきわらし)は古代日本に伝わる精霊である。
座敷または蔵に住む神と言われ、家人に悪戯を働くが、見た者には幸運が訪れ、さらに、家に富をもたらすなどの伝承がある。
「さつき」が見た、おかっぱ頭の女の子は同種の精霊が姿を変えたものに違いない。
不思議な世界に行って、死と隣り合わせの経験だったが、結果的に精霊の「力」を宿すという幸運を得た。
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