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【秘宝と契約の箱】NO2 帆船と砂シャチ

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俺達は室長の指示を受け休む間もなく目的地の異次元に向かう事になった。
魔女の水晶玉の啓示が、どの程度信用できるのか分からないが、彼女の判断があった限りは指示通り抗魔執行官として任務を遂行するだけだ。
最近、異次元扉の管理を室長から任された水晶玉に行先を告げた。

「フフフ、坊やもやっぱり行くのかね・・・?
今日はチッパイの死神と不必要に大きい爆乳の吸血鬼が一緒かい⁉
それなら何が起こるか分からない。坊や気を付けるんだ。
もしかしたら、この世の地獄を見るかも知れないよ⁉」

「何を言うか、この性悪の水晶玉め、我はチッパイなどではないわ‼」

「おお、怖い怖い」

カトリーヌの怒りが爆発しそうだったので、慌て半ば強引に彼女を抱かかえ異次元へと繋がるドアに入った。
それでも余程、腹に据えかねたのか?「凛太朗、放せ!離さぬか、今日こそ性悪水晶玉を懲らしめてやる」と叫びながら足を駄々っ子の様にバタつかせる。

それを見ていたタイガーが「姉貴、チッパイ、ロリ好きもいるからだいじょうでさ・・・」
とフォローになっていない事を言ったので、カトリーヌの怒りに火に油を注いだ。
この後、日傘で腹を突かれ転がる姿を凛太朗が目撃した事まで言うまでないが、カトリーヌヌのあられぬ暴力に奴はエクスタシーを感じている節がある。
何時もの事ながら彼の性癖には驚かされる。

次元の扉の向こう側は驚く事に赤茶けた大地に砂嵐が吹き荒れていた。
天空には、赤く焼けた大きい太陽が、ぼんやりと浮かんでいる。
それはこの星が終焉を迎えている事を意味する。
遠からずあの赤色矮星になった太陽にこの星が飲み込まれる日がやって来るのは間違いない。
それは宇宙に数多ある星の一つが終わりを迎えるだけの話だから別に驚く事はないのだろうが、少し感慨深いものを感じた。
事前にAIのエルザから貰った情報では、この星では数千年前に高度な魔法文明が栄えていた事になっている。
だが、その文明の残滓は見る限り遠くに石造りの廃墟が残るだけだ。
星の終焉が近づくにつれ、恐らく文明も衰退の道を辿ったのだろう。
抗魔執行官になった時、貸与された魔道具の次元時計では、俺達、抗魔執行官の拠点がある地球暦、2022年より、この世界の時間軸は別次元の過去にある事になっている。
だが、果して、この時間軸を過去と言えるのかどうか・・・それは何時も感じる疑問だ。
時空間移動は不思議さに満ち溢れている。時として探求心を掻き立てられるが、ある時は迷い人の様な錯覚に捕らわれるのも事実だ。

「凛太朗、取り敢えず、あの廃墟まで行って情報を収集する。
だが、この砂嵐、それに砂丘の様な大地を歩くのは僕の様な聖女をやっていた者には、少し酷だ。
だから、そうだな、僕とデルフィーヌは、この環境では耐えられそうもないから、いったん事務所に戻る。二人はあの廃墟まで行って聞き込みをしてくれないか・・・何か手掛かりがあるかも知れない。

「え、姉貴達は行かないので?」

「何、エロタイガー、何か文句があるのか?」

「あ、は、はは、何もございません」

「ふん、無かったらそれでいい」

凛太朗、頼んだぞ・・・そうだ。情報収集用に未来で作られたバグ(虫:bug)を数匹持ってきたので、情報収集をさせるとよい。
それと神器とも言われる未来のテクノロジーで作られた未開言語翻訳機を渡して置く、これを使えば、この星の住人と話が出来る筈だ。
何かあったら直ぐ知らせるんだ」

「わかった。カトリーヌ、何かあれば呼ぶことにする」

「連絡があれば気配を探り瞬間移動で向かうからね♡」

「じゃ、タイガー、行くとするか・・・」

「タイガー、徒歩ではあの廃墟まで、かなり時間が掛かりそうだ。
虎になれるか?」

「凛太朗、オイラの背に乗るのか・・・じゃじゃ馬ならぬ、獰猛な虎だぜ‼ 
ウフフ、まあ、いいだろう。それじゃ、行くぜ‼ 
変身‼  ウオー・・・」咆哮と共にタイガーの筋肉は盛りあがり体毛が生え獣化した。
3メートル近い巨体の四つ足の背は凛太朗が乗るのに充分だ。
凛太朗はカトリーヌに片手を少し上げ、暫しの別れを告げタイガーに跨った。

「ガォーガォー」

タイガーは猛獣の鳴き声をあげ、一度、大きく跳躍、その後、足を速め疾走した。
地面は砂地、足を取られても可笑しくないが、それを、もろともせず力強く踏みしめながら走った。
だが、それから数時間、走っても廃墟に何故か近づけなかった。

「凛太朗、少し変だと思わないか・・・」

「ああ、廃墟は近くにある様に思ったが、以外に遠かった様だ。
そればかりか、気のせいかも知れんが、廃墟に逃げられている気がする。

俺達は、もしかしたら蜃気楼を見ていたのかも、だとすれば、目的地は地平線の向こうだ」
獣化したタイガーの表情は虎毛に覆われているので分かりずらいが、それを聞いて少し疲れた様に見える。
どうしたものかと考えていると後方から砂の擦れる音が近づいて来た。
「ザアー・・・」凛太朗は、それを見た時、思考が止まった。
驚く事に帆船が風を受けて砂の海を音を立てながら進んで来たのだ。

「凛太朗、驚く事はないさ・・・あれは多分、風と魔晶石で動かしているんだ。
魔法世界では広く知られている。
オイラも詳しい事は知らんが、この大地は砂だらけに見えるが、魔法が使える世界では必ずマナの噴出す魔力源脈穴が何処かにあるそうだ。そして源脈穴がある一帯には魔石がある。
魔石っていうのは便利で、純度の高い石なら船だけじゃない、空を飛ぶ飛行船も作れるって話だ。
フフフ、だが、悪い事に魔石やマナを生き物が取り込んだりすれば魔物になる悪い面もあるがな・・・」動物的に勘で何時も動き物事を深く考えない脳キンのタイガーが何時になく雄弁に教えてくれた。

帆船は凛太朗達の近くで、帆をたたみ、錨を下ろして止まった。
『ガレー船の様に船を漕ぐ櫂(かい)が無いので、ガレオン船に近いかも知れません』とアンドロイドのAI、エルザの分身が耳の中で教えてくれた。
風を受ける帆は三本立っているが、船体は思う程大きく無かった」

「・・・・・おーい、そこの兄ちゃん。聞こえるかい?
大虎に乗ってるが、兄ちゃん、召喚術師だろ、乗ってかないかい?
この砂の海を乗り物なしで渡るのはちと酷だ」
船から、人の良さそうな、どんぐりした背格好の船長らしき男が声を掛けて来た。

「そんな大きな虎を使役しているんだから強さを疑う訳じゃないが、腕次第で雇ってもいいぜ・・・どうせ、兄ちゃんもあそこに見える幻の墳墓に行く気だろ。
この一帯は危険地帯だ。この先には砂地獄のトラップが、そこらじゅうにあるって話だし、魔物が、うようよ出るそうだから強そうな冒険者やハンターなら大歓迎だ」

不思議と小太りの男が話している事が分かった。
未開言語翻訳機が神器とも言われる所以だ。

「助かった。それなら、この大虎は魔物との戦闘に使えるから雇ってくれるかい」

「ウフフ、いいよ、兄ちゃん、名前は何て言うんだい?」

「凛太朗だ」

「俺はバラハだ。凛太朗か・・・ここらでは聞かない変わった名前だな・・・だが、この下の船室にいる者より兄ちゃん方が信用できそうだ」
凛太朗は情報収集も兼ね帆船に便乗させて貰う事にした。

「さあ、野郎ども出発だ‼
錨を上げ、魔石を起動、帆を張るんだ‼」

甲板には数十人程、水夫と戦闘員らしき男がいた。
他に甲板下の船室には様々な種族の皮鎧を身に付けた冒険者やトレジャーハンターと思われる者達が酒を飲みながら座り込んでいるのが見えた。

『まあ、少し驚きだわ・・・凛太朗、豚顔をしているのがオーク、醜い精霊といわれるコボルト、それにハイエナの顔をしたノール、亜人もいるわ・・・ちなみに船長はドワーフよ!
まるで種族の坩堝(るつぼ)の様ね・・・』

AIのエルザが何か珍しい物でも見た様に少し興奮ぎみに教えてくれた。
彼らの傍らには盾や剣、弓、槍、それに槍の先に戦斧が付いているハルバートなどの地球の中世時代に使われた様々な武器が置かれていた。だが、銃器類は無い様だ。
魔法が使える世界では便利であるが故に機械文明が発達しないとされているが、この世界も例外ではないらしい。
甲板にいる船員は一様にターバンを頭に巻き砂から呼吸を守る為に布で目を残して顔を覆っている。尻尾がある者もおり姿は人に近いが亜人や獣人も混じっている様に伺えた。
ドワーフの船長が船内を案内してくれる間も船は廃墟の方向に進んだが、それでも一向に廃墟に着かなかった。

「船長、あそこに見える廃墟になかなか着かないばかりか、遠くなっている気がするんだが・・・」

「ははは、凛太朗は知らないのか・・・?
あれは石造りの廃墟跡の様に見えるが、あれこそが幻の墳墓と呼ばれている遺跡だ。
10年に一度だけ、幻が現実の物になる時がある。
その時まで、誰も足を踏み入れる事が出来ないのさ・・・」

「じゃ・・・」

「ああ、本物の遺跡になるまで船を進ませ待つしかない」

「船長、大変です。砂シャチが遠くに泳いでいます」

「何だと‼それはいかん。
面舵一杯、砂シャチから逃げるんだ。
もたもたしていると船ごと沈められるぞ‼」
凛太朗、ツキが逃げた様だ。
砂シャチは、この海で一番厄介な奴だ」



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