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【アサシン:暗殺者】NO6

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それはテレビの画面や鏡にひびが入り割れるというよりも、この場合はブリザードが吹き荒れる白銀の景色を斬撃の力で切り裂き左右に切り離すという表現があてはまるのかも知れない。
村正には聖剣や魔剣の様に刀身そのものに特別な力がある訳ではないが、この剣には死霊が宿り、その禍々しく帯びた妖気に闘気を与える事で次元に影響を及ぼす神通力が使えた。
空間を切り裂く事は、その神通力が成せる技であり、それが持ち主の闘気に反応し神の力を発揮する。村正が時に『神器』とも『妖刀』と称された所以である。
亀裂が裂けた向こうの側には異次元に虚空と思われる不完全な世界が広がっていた。
死神が慌て造ったかりそめの空間に違いない。
そこには驚いた表情をした死神が大鎌を持って立っているのが見えた。
凛太朗は能力を強化した俊足で瞬時に死神に斬り掛かった。
だが、一瞬早く死神は姿を消し必殺の斬撃は空を切った。

「これは驚いた⁉
我ら死神の強さだと言われる別の世界からの攻撃をこうも簡単に暴くとは・・・。
だが、我らは一つの次元に留まらず自由に異次元を移動する事が出来る。
謎解きが出来ても、フフフ・・それだけでは我に剣は届かぬ」

声がする方向に紛れもなく死神51番の気配があった。
だが、死神の実体は、もうこの世界にある訳ではない。
別の次元に既に実体を移しているのだ。

『厄介だな・・・』

再び、あらぬ方向から大鎌の刃があらわれて命の根源を断ちに来た。
凛太朗は辛うじてリーチの長い大鎌の連続攻撃を村正で受ける。
こちらの攻撃は理不尽にも死神には及ばない。
当然、防戦一方になり時間だけが過ぎた。

時間が経過と共に、かりそめの世界が消え始めた。
次元世界の創造主の実体が消えたからだ。
凛太朗は、この世界に長居は無用と判断、再び閉じかけた次元の裂け目を妖刀村正で広げ三次元に戻った。
虚構世界が崩壊し切り裂いた三次元への出口が閉じれば、それは例え次元を切り裂く妖刀村正が手元にあっても危険を孕んでいる。
何もない世界では方向感覚を失う可能性があり、そうなれば無数に存在する多次元世界の迷宮に嵌り迷い人になる恐れがあるからだ。

再びシャトルの墜落現場に戻った。
時刻は、もう真夜中近くになっている筈だが、この季節の極地は白夜なのか一向に暗くなる気配が無い。だが、ブリザードは一層強く吹き荒れ視界が塞がれる。
気温は墜落時よりかなり下がっている様だ。
この気象条件は凛太朗にとって戦いを一層厳しくしていた。
闘気を纏っているので戦う事に支障はないが、パイロキネシス(火炎生成)で暖を取っているとはいえ雪で作った風避けの中にいるイヴォンヌが心配だ。
戦闘が長引けば例え死神を倒したとしても極寒の世界で彼女が凍死する可能性は捨てきれなかった。
イヴォンヌが凍死すれば激レアな魂が死神の手に入り、俺との戦いに勝たなくても奴の目的は達成する事になる。
『もう時間がない』凛太朗は、焦りを感じ意を決し賭けをする事にした。
鉄壁のサイキックバリアを張れば、たとえ「破魔」の大鎌であろうとも攻撃からも我が身を守る事が出来る。だが、敢えて身を捨て決着を出来る限り早く付ける事にした。
凛太朗は視界が殆ど無い状態で危険だが、防御の能力を使わず剣で大鎌を受ける選択する。
それは当然、考えがあっての事だ。

死神はブリザードで凛太朗の視界が塞がれている状況を好機と捉えたに違いない。
破魔の大鎌で激しく打ち込んで来た。

「ガキーン、ガン、ガン・・・」少し手元が狂えば命取りになる大鎌の攻撃は、それでもすべて凛太朗は受け流した。
だが、その激しい攻撃は注意を逸らすためだった。

「うわー・・・」凛太朗は突然、紅蓮の炎に包まれた。
異次元からの直接攻撃だった。炎環は受ける事を許さず凛太朗の身を焼いた。
破魔の大鎌が生み出す炎には精霊が宿る。
凛太朗に助かる術はなく一瞬に塵と化した。

「ハハハ・・・とうとう、抗魔官を倒した。
これで珍しい魂が手に入る。
カトリーヌ様は、きっと、この僕を認めるに違いない」
死神は勝ち誇った。

時間感覚は失ったが凛太朗は目を醒ました。
死神51番が覗き込む様に見下ろしていて目が合った。

「旦那、目を醒ました様ですね・・・。
ここは黄泉の国への入り口、旦那は僕との戦闘で敗れ命を落としたんです。
僕が彼女の魂を刈り取るのを見逃せばこんなことにはならなかったんだ。
残念ですが、それも後の祭り、もうどうしようもありませんがね。
せめて僕が冥界へ送ってあげます。
何か言い残すことはありますか?」

「ふふふ・・・これは可笑しい。
死神51番、何か勘違いをしていないか・・・⁉
『死の書』とやらを確認したのか?」


「あ、そうだ。僕とした事が、死者を送る手順をうっかり忘れていました。
確か今日は西暦3530年8月16日、いや日付が変わっているので17日ですね・・・だとすると、えーとこの辺に名前が浮かび上がっている筈だが・・・?
え⁈そんな、何故だ。死の書に名前が載ってない。
間違いなく体が燃えて灰になった筈なのに・・・?」

死神は死の書を何度も見直し確認したが、凛太朗の名前は無かった。
額から冷汗が流れるのが分かった。

「分かったか‼死神51番、お前こそこれで終わりだ」

次の瞬間、凛太朗は最強の力、サイコキネシスを使い死神のコア、心臓を握り潰した。

「ぎ、ぎゃー・・・何故だ⁈ 何故、動ける?
何故、動けるんだ・・・」死神は訳が分からないまま力尽きた。

凛太朗は身を捨て魂に繋がる煩悩、生きる根源を断ちに死神が冥界の入り口にやって来る時を狙ったのだ。
火の精霊が宿る紅蓮の炎により凛太朗の体は確かに灰になった。
だが、凛太朗の体に流れるフェニックス(不死鳥)の血が体を再生したのだ。

そして気が付くと、意識が体に戻っていた。
凛太朗はイヴォンヌが心配だったので雪の風避けに慌て戻った。
彼女は未だ眠っていた。体は宇宙服を着ているが冷たい。
事故の衝撃で気を失っているならいいが、低体温症になると、やがて眠りがやって来る。
それはそのまま死に繋がり非情に危険な状態だ。
凛太朗は暖を取るために造ったパイロキネシス(火炎生成)の火球を強め、イヴォンヌが来ている宇宙服を脱がした。
肌着の下に膨らみが見える。
彼女を抱きしめると微かにバラの香水の匂いがした。
自らの体温で冷え切った彼女の体を温めながら暖かいオーラで包み込んだ。
『助かってくれ・・・』女神の加護、MAXの幸運の力を時の禁忌に反している事を承知で彼女に与えた。そして祈る様な気持ちで救助隊を待った。

数時間後、救助隊が事故現場に到着、イヴォンヌを無事に救出した。
目を醒ましたイヴォンヌは救助隊の隊員にシャトル事故の生存者が彼女一人だった事を告げられた。
凛太朗は救助隊が来た事を確認すると事故現場から姿を消していたのである。

「え⁈そんな筈がありません。
「あの私を助けてくれた人がいた筈ですが・・・。」

「イヴォンヌさん。低体温症の状態ではよく幻覚を見るんですよ!
極寒の世界ではよくある事です。」

私を助けてくれた黒髪の男の人は夢の中で見た幻覚だったのだろうか・・・?
納得出来ない彼女は衣服に鼻をあて匂いをかいだ。
微かではあるが男くさい匂いがした。
それは嫌いな匂いではない。嗅いでいて安らぐ様な匂いだ。
彼女は、助けてくれた男の人を、この後も一生忘れる事は無かった。

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