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【時の部屋:終末時計】
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凛太朗はインキュバスを倒した後、急に何か強い力で強引に引っ張られる感じがした。
こんな事が出来るのは円城寺室長だけだ。
次の瞬間、三人は田園調布の洋風館から円城寺証券の会議室に引き戻されていた。
そこには案の定、可愛い円城寺室長やカトリーヌが、彼女達には似合わない苦虫を嚙み潰したような顔で、椅子に座りこちらを見ていた。
「エヘン! ちょっとアンナ、凛太朗に抱き付いて、あなた何をしているの?」
凛太朗は室長の咳払いにより初めてアンナが、胸に顔を未だ埋めているのに気づいた。
アンナは舌を出し笑顔で凛太朗から離れた。
室長の顔の表情と声には明らかに苛立ちと怒気が含まれている。
アンナは慌てる様子もなく、何か勝ち誇った様な薄笑いを浮かべ会議室から姿を消した。
心にキスマークを付けることは悪魔にとっては契約にも匹敵する。魂の独占を意味する証だ。凛太朗が、もし、死んだら彼の魂が手に入れる事ができるからだ。
それを創造神や死神マスターに気付かれずキスマークを付ける事ができたのだから、こんな愉快な事はない。
彼女に取っては愛情表現の様なものだから悪気の欠片もない。
何時もの五月やカトリーヌならアンナの意味ありげな、ちょっとした表情を見逃しはしなかっただろう。
だが、その変化を見逃すほど、今、重大な事態が起こっていたのだ。
「凛太朗、タイガー、いいから早く椅子に座りなさい。
この世界を異界に繋げる魔法陣が動きだしたわ!
こうなったらゲートが開くのは時間の問題、誰にも止める事はできない。
恐らく東京は異次元からの魔族の侵入によって大混乱になるわ・・・。
でも、手をこまねいて、このまま世界を終わらす訳にいかない。だから、カトリーヌ、あなた凛太朗を連れて冥界にある『時の部屋』に行き『終末時計』を少し遅らせないか時の女神に交渉してくれる?
時計の針が0を指す時、どんな経緯を辿っても、この世界は必ず終焉を迎える。
逆に事態が悪化した様でも時間が残っていれば世界を救う可能性がある。
終末時計とはそういう物・・・だけどそこには意地悪な時神がいるから簡単にはいかないわ、だから気を付けてね!
時の部屋のある場所は魔女の水晶玉が知っている筈だわ・・・」
「五月、任せて・・・じゃ時間がないわ。凛太朗行くよ!」
「待ってくれ、オイラも」
「え、もう、タイガー、あんたは付いて来なくていい」
「姉御、それはないすよ!」
「足手まといになるだけなんだから・・・」この後、カトリーヌとタイガーの間で、何時もと変わらないパロディ的なやり取りがなされた。
「デルフィーヌとチェリーは、これから臨戦態勢に入るからここで待機するように・・・」円城寺室長から凛とした言葉があった。
その未曽有の惨事は何の前触れもなく、いきなり始まった。
大地震を思わせる大きな揺れが数分間にわたって断続的に起こる。
窓ガラスや壁、床など至る所に亀裂が入った。
洋風館の魔法陣が起動する事に依って、山手線に沿って配置されたインキュバス配下のインプ達が仕掛けていた魔法陣や、手に持っていたモバイルパソコンの画面上の小さな魔法陣が、仕掛け魔法陣を補完する形で一斉に動きだした。それはネットワークを形成し、やがて巨大魔法陣となって発動した。
これにより危惧されていた事が、杞憂ではなく現実の出来事となり異界へ繋がるゲートが遂に開かれたのだ。
山手線の中心、千代田辺りに地球の重力を無視した特異点が発生、漆黒の瘴気の柱が天まで届くかの様に立ち上がった。
直径、数百メートルの一帯が陥没、周りのビル群が倒壊、火災が発生した。
麴町にある円城寺証券のビルも例外ではなく惨事に巻き込まれる。
逃げ惑う人々、救急車で運ばれる血だらけの人、消防車やパトカーなど緊急車両が行き交う。
阿鼻叫喚の地獄がそこにあったが、それは決して終わりの出来事では無かった。
漆黒の瘴気の柱は上空で大きな塊になり、今度は逃げ惑う人々の魂を吸い取り始めたのだ。
塊りは肉体を離れた青白い人魂達を吸収し、やがて透明に近い青白い塊に変色した。
後には魂を抜き取られ殻になった人々が、死屍累々と見るに堪えない悲惨な光景が広がった。やがて、瘴気の塊りは再び異界へ繋がるゲートに吸い込まれる。
代わりに異次元から現れたのは大小様々な魔獣達だった。
異界で彷徨っていた魔獣達は人間の魂を吸収、本能に動かされ肉を求め這い上がってきたのだ。魔獣達は死体を喰らい、それらを食べつくすと、今度は生きた人間を襲い始めた。
その状況に至り政府は警察力に加え、陸自の戦車部隊を都内に展開、空自の戦闘機も投入する事態になった。
それは人間と魔獣達との生き残りを掛けた戦いの始まりだった。
終末時計を遅らせるというミッション(mission:任務)を円城寺室長から与えられた凛太朗はカトリーヌとタイガーと共に異次元にある時の部屋に向かう事になった。
結局、タイガーは名前が上がらなかったが、面白そうな事があったら頭を突っ込みたがる性分から今回も呼びもしないのに付いてきたのだ。
次元移動はカトリーヌの能力無しには成し得ない。
凛太朗には手を握らせたが、タイガーが彼女の手を握ろうとすると、手を払い除けられた。
「あなたはだめ、やらしいから、スカートのフリルでも掴んでらっしゃい」何時も通り渋々タイガーはスカートの端切れを持たされる羽目になった。
凛太朗には少しタイガーが哀れに思えたが、本人は気にしていない。むしろ虐められる事に喜びを感じている様だ。
案内役は少し性悪な水晶玉だ。
時々、遊び心を出して彷徨える次元とか、黄昏の次元とか、目的地と違う未知の世界に依頼者を連れて行き惑わせるが、今日はカトレーヌに水晶玉にひびを入れるわよと脅かされた事もあり、すんなり目的地に案内した。
次元移動により『時の部屋』言われる場所に降り立った。
凛太朗には※部屋というより雲海に広がる、ひとつの大きな世界には思えた。
遠くには雲の大地から大樹が何本も聳え立っているのが見える。
近くまで行くと、その木は、たわわに実ったリンゴがなる木だったが・・・。
この世界は常識では考えられない不思議な物がある世界だった。
こんな事が出来るのは円城寺室長だけだ。
次の瞬間、三人は田園調布の洋風館から円城寺証券の会議室に引き戻されていた。
そこには案の定、可愛い円城寺室長やカトリーヌが、彼女達には似合わない苦虫を嚙み潰したような顔で、椅子に座りこちらを見ていた。
「エヘン! ちょっとアンナ、凛太朗に抱き付いて、あなた何をしているの?」
凛太朗は室長の咳払いにより初めてアンナが、胸に顔を未だ埋めているのに気づいた。
アンナは舌を出し笑顔で凛太朗から離れた。
室長の顔の表情と声には明らかに苛立ちと怒気が含まれている。
アンナは慌てる様子もなく、何か勝ち誇った様な薄笑いを浮かべ会議室から姿を消した。
心にキスマークを付けることは悪魔にとっては契約にも匹敵する。魂の独占を意味する証だ。凛太朗が、もし、死んだら彼の魂が手に入れる事ができるからだ。
それを創造神や死神マスターに気付かれずキスマークを付ける事ができたのだから、こんな愉快な事はない。
彼女に取っては愛情表現の様なものだから悪気の欠片もない。
何時もの五月やカトリーヌならアンナの意味ありげな、ちょっとした表情を見逃しはしなかっただろう。
だが、その変化を見逃すほど、今、重大な事態が起こっていたのだ。
「凛太朗、タイガー、いいから早く椅子に座りなさい。
この世界を異界に繋げる魔法陣が動きだしたわ!
こうなったらゲートが開くのは時間の問題、誰にも止める事はできない。
恐らく東京は異次元からの魔族の侵入によって大混乱になるわ・・・。
でも、手をこまねいて、このまま世界を終わらす訳にいかない。だから、カトリーヌ、あなた凛太朗を連れて冥界にある『時の部屋』に行き『終末時計』を少し遅らせないか時の女神に交渉してくれる?
時計の針が0を指す時、どんな経緯を辿っても、この世界は必ず終焉を迎える。
逆に事態が悪化した様でも時間が残っていれば世界を救う可能性がある。
終末時計とはそういう物・・・だけどそこには意地悪な時神がいるから簡単にはいかないわ、だから気を付けてね!
時の部屋のある場所は魔女の水晶玉が知っている筈だわ・・・」
「五月、任せて・・・じゃ時間がないわ。凛太朗行くよ!」
「待ってくれ、オイラも」
「え、もう、タイガー、あんたは付いて来なくていい」
「姉御、それはないすよ!」
「足手まといになるだけなんだから・・・」この後、カトリーヌとタイガーの間で、何時もと変わらないパロディ的なやり取りがなされた。
「デルフィーヌとチェリーは、これから臨戦態勢に入るからここで待機するように・・・」円城寺室長から凛とした言葉があった。
その未曽有の惨事は何の前触れもなく、いきなり始まった。
大地震を思わせる大きな揺れが数分間にわたって断続的に起こる。
窓ガラスや壁、床など至る所に亀裂が入った。
洋風館の魔法陣が起動する事に依って、山手線に沿って配置されたインキュバス配下のインプ達が仕掛けていた魔法陣や、手に持っていたモバイルパソコンの画面上の小さな魔法陣が、仕掛け魔法陣を補完する形で一斉に動きだした。それはネットワークを形成し、やがて巨大魔法陣となって発動した。
これにより危惧されていた事が、杞憂ではなく現実の出来事となり異界へ繋がるゲートが遂に開かれたのだ。
山手線の中心、千代田辺りに地球の重力を無視した特異点が発生、漆黒の瘴気の柱が天まで届くかの様に立ち上がった。
直径、数百メートルの一帯が陥没、周りのビル群が倒壊、火災が発生した。
麴町にある円城寺証券のビルも例外ではなく惨事に巻き込まれる。
逃げ惑う人々、救急車で運ばれる血だらけの人、消防車やパトカーなど緊急車両が行き交う。
阿鼻叫喚の地獄がそこにあったが、それは決して終わりの出来事では無かった。
漆黒の瘴気の柱は上空で大きな塊になり、今度は逃げ惑う人々の魂を吸い取り始めたのだ。
塊りは肉体を離れた青白い人魂達を吸収し、やがて透明に近い青白い塊に変色した。
後には魂を抜き取られ殻になった人々が、死屍累々と見るに堪えない悲惨な光景が広がった。やがて、瘴気の塊りは再び異界へ繋がるゲートに吸い込まれる。
代わりに異次元から現れたのは大小様々な魔獣達だった。
異界で彷徨っていた魔獣達は人間の魂を吸収、本能に動かされ肉を求め這い上がってきたのだ。魔獣達は死体を喰らい、それらを食べつくすと、今度は生きた人間を襲い始めた。
その状況に至り政府は警察力に加え、陸自の戦車部隊を都内に展開、空自の戦闘機も投入する事態になった。
それは人間と魔獣達との生き残りを掛けた戦いの始まりだった。
終末時計を遅らせるというミッション(mission:任務)を円城寺室長から与えられた凛太朗はカトリーヌとタイガーと共に異次元にある時の部屋に向かう事になった。
結局、タイガーは名前が上がらなかったが、面白そうな事があったら頭を突っ込みたがる性分から今回も呼びもしないのに付いてきたのだ。
次元移動はカトリーヌの能力無しには成し得ない。
凛太朗には手を握らせたが、タイガーが彼女の手を握ろうとすると、手を払い除けられた。
「あなたはだめ、やらしいから、スカートのフリルでも掴んでらっしゃい」何時も通り渋々タイガーはスカートの端切れを持たされる羽目になった。
凛太朗には少しタイガーが哀れに思えたが、本人は気にしていない。むしろ虐められる事に喜びを感じている様だ。
案内役は少し性悪な水晶玉だ。
時々、遊び心を出して彷徨える次元とか、黄昏の次元とか、目的地と違う未知の世界に依頼者を連れて行き惑わせるが、今日はカトレーヌに水晶玉にひびを入れるわよと脅かされた事もあり、すんなり目的地に案内した。
次元移動により『時の部屋』言われる場所に降り立った。
凛太朗には※部屋というより雲海に広がる、ひとつの大きな世界には思えた。
遠くには雲の大地から大樹が何本も聳え立っているのが見える。
近くまで行くと、その木は、たわわに実ったリンゴがなる木だったが・・・。
この世界は常識では考えられない不思議な物がある世界だった。
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