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【淡い恋と隷属の呪縛】

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「まったく失礼な奴らだな・・・何時かは裏切ってやる‼」使い魔になったアンナがそう思った時だった。
首筋に押された隷属の印が熱を持ち急に赤くなった。

「ぎゃー・・・」使い魔アンナは痛みに悲鳴を上げた。

「どうアンナ、隷属の戒めは半端じゃないでしょ・・・少しでもよからぬ事を考えると今の様になるから逆らわない事ね・・・それに言っとくけど私の神通力で掛けた隷属の呪縛からは絶対に抜け出す事は出来ないわ・・・うふふ・分かった?」

悪魔のアンナは薄笑いを浮かべる神を見て、身震いする程の恐ろしかった。
隷属の印はアンナの裏切りを戒める役目ばかりか、この後、深層心理まで影響を及ぼし性格までも変える事になる。

「凛太朗、何かあったら心の中で私を直接呼んで、チャンネルは開けて置くから、それと今度から私の事、五月と呼んでいいわ・・・ねえ、分かった♡
さあ、デルフィーヌ、悪魔対策会議があるから帰るわよ!」そう言うと現れた時の様に再び神々しい光に五月達は包まれ空中に浮かび上がり突然消えた。

「凛太朗、五月はチャンネルを開けて置くわ、何て、フレンドリーに言ってたけど、あくまで彼女は創造神だからね、何かあったら私に先ず相談しなさい。
それに五月と呼び捨てしちゃ駄目、抗魔執行官の仕事をしている時は室長、証券会社では社長と呼ぶのよ、分かったわね‼」

カトリーヌは凛太朗に堅苦しい事を言ったのは本意では無かった。
凛太朗と五月が接点が増えて、必要以上に仲良くなるのが、少し面白く無かったからだ。
輪廻転生を繰り返しながらも思いを叶えたいという五月の気持ちは痛いほど分かる。
でも、どうにもならない切ない感情がカトレーヌにはあった。
死神として転生する以前も恋をした事がない。だから五月の様に永遠(とわ)に思い続ける事が出来る恋をしてみたい。一度でいいから身を焦がす様な恋を・・・でも、死神マスターである僕と人間だった彼では普通の恋愛が難しいかも知れない・・・そんな思いが交差した。
でも待てよ・・・創造神の五月だって同じ事、彼女は大親友だが、だからと言って自らの恋を諦める必要なんかない。五月、どちらが先に彼を射止めるか勝負よ‼
カトリーヌ頑張れ‼カトリーヌは自分自身を励ました。


近くに宿を探し凛太朗達は休む事にした。
凛太朗には疲れた感があったので、口には出さなかったが正直助かった。
カトレーヌが凛太朗は疲れているだろうからと気をまわしてくれたのだ。
冥界では食べなくても眠らなくてもいいが、凛太朗には現実世界の生活習慣が残っているだろうからという理由だ。
凛太朗は、この世界に慣れる迄、未だ多少の時間が必要かも知れないと思った。
宿は日本風の湯屋を思わせる旅館だった。
眠る必要が無い冥界の住人には宿は必要ないが、僅かばかりの日が昇るまで、夜中に徘徊する魔物やゾンビを避ける場所に使われていると宿の美人女将が教えてくれた。
近くにはアイアン風の看板にミズマッチではあるが、出会い茶屋と書かれた建物があった。
一昔前、日本では男女の逢瀬に使ったと聞いた事がある。
この世界にそれが必要なのか、凛太朗には採算が取れるのか疑問に思えたが、ここは趣味に傾倒したオタク達が、幽霊列車を走らせ現世で叶わなかった夢を実現している場所でもある。それを考えれば現世で実ら無かった愛や、この灰色の世界で出会った男女が、思いを遂げる場所が、採算を度外視して、あってもいいではないかと凛太朗はそう考える事にした。

凛太朗とタイガー、カトリーヌとチェリー、それに人間の姿になったアンナの二人と三人に分かれて部屋に入った。
アンナは早速、ギガ国の王都と腐界の事について、情報を集めに窓から暗闇に消えて行った。
彼女の戦闘態勢は背丈がニメートル、二本の立派な角、背中には蝙蝠の羽根と尻尾を持っていて見るからに恐ろしい姿をしている。
相手を威圧するには充分な姿だが、目立ち過ぎるため、普段は人間の姿か動物になる事が多いという。今夜は黒猫の姿で暗闇に消えて行った。
闇に跋扈する危険な魔物達も、彼女から立ち昇る禍々しいオーラを感じ取れば直ぐに逃げ出すことだろう。
悪魔は魔族の支配階級であり、その中でも特に雌の悪魔はカトリーヌの話では、冥界のアサシン(Assassin:刺客)の役割を担う死神達でさえ危険視しているそうだ。
その上級悪魔が、何故、辺境の冥界に流れて来たのか、何か理由がありそうだが、その事については追々、彼女から聞ける時が来るに違いない。

タイガーは部屋に入るなり凛太朗にカトリーヌには言わないでくれと口止めをして、何処かに出て行った。
凛太朗は丁度、風呂にでも行こうと思っていた時だったが、タイガーの行先が気になった。
宿を探している時に色とりどりのギガで照らされている朱塗りの花街を思わせる雰囲気の建物が立ち並んでいるのが見えたので、そこに行ったのではないだろうか・・・。
そう言えばギャンブル酒場で、レオタード姿の兎耳のバニガールの誘いに鼻の下を長くしていたなと思いながらも、まさかな、彼は無類の女好きだが、霊体の女性を相手に、それはないだろう・・・多分、一角獣の馬乳酒でも飲みに行ったのではないかと考え直した。
凛太朗はタイガーの本質を未だ理解していなかった。

湯屋の風呂は男湯と女湯に分かれていて、中に入ると岩風呂になっていた。
カトリーヌの神通力で、宿に入る前に体を奇麗にして貰っていたので、掛け湯だけして入浴した。
岩風呂は、そのまま屋外に繋がり露天風呂になっている様だ。
異界への扉に入ってから、驚きの連続だっただけに、精神的な疲れを感じていたが、露天風呂の湯は心から癒してくれた。
少し長湯になったかと思った時、誰かが二人、男湯に入って来た。

「俺達の他にも男の宿泊客がいたのか・・・」

その客達は体に掛け湯した後、湯に入り凛太朗の方に近づいて来た。
湯けむりに隠れて、はっきり見えないが、身体つきはどう見ても女性達だ。

「しまった。さては男湯と女湯を間違えてしまったか・・・」

凛太朗は、それに気付くと湯から出るに出れなくなり上気してきた。
その時、湯けむりが、少し風に流されて裸の女性達と目があった。

「きゃー・・・」二人の叫び声が聞こえた。

凛太朗は、その声を最後に湯にのぼせていた事もあって気を失った。
気が付くと凛太朗は部屋のベットに寝かされていた。
傍らには魔法で風を凛太朗に送るチェリーとカトレーヌが座っていた。
あの後、美人女将とカトリーヌ、それにチェリーの三人で、ベットに運んだそうだ。
この湯屋の風呂は脱衣場だけが男女に分かれていて、湯は混浴になっていたのだ。
「お客さん、逞しいのね・・・」美人女将に意味ありな事を言われて恥ずかしいかった。

凛太朗がカトリーヌと目が合った時、裸を見る余裕があったかどうかは定かではない。
もし、それらしき事を口に出したなら途端に何かが起こった気がした。

朝方、げっそり頬がこけた感じで、タイガーが帰ってきた。
カトリーヌに日傘で突かれながら、何をしていたのか尋問にあったが、口を割らなかった。
薄笑いを浮かべながら「正直に話せば許してあげる」と口では言っているが・・・、目は口程に物を言うという言葉がある様に本心は違うところにあるのが分かった。
この時、虎族、最強のタイガーが、小刻みに震えているのが凛太朗には分かった。

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