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第十章 仮面のキス

第十一話 一〇五号室Ⅱ

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御用邸で何が起きているか一冴は知らなかった。

同時刻、一〇五号室で一冴は夕食を終える。食事は梨恵に運んでもらった。当然、こんな姿では部屋から出られないからだ。

山吹から連絡がいつ来るのか分からない。その時を、びくびくしながら待っている。

蘭と和解できるのか不安で仕方ない。

一方で、別の不安も感じていた。

本当に蘭は来るのであろうか――と。

連絡が来る時を待ち続けている。しかし、少し遅すぎはしないか。

もし蘭が来るのならば――山吹は何をしているのだろう。そもそも、どのように蘭を連れ出すのかも聞かされていない。

全ては菊花の作り話という可能性もある。山吹はそれに加担したに過ぎない。

だとすれば――菊花に賭けた自分は何なのだ。

ドアが開いたのはそんなときである。

顔を向けると、梨恵が帰ってきたところだった。菊花と紅子の姿も見える。

梨恵が部屋に這入って来た。

「いちごちゃん――ご飯は食べた?」

「うん。」

お邪魔します――と言って菊花と紅子も続く。

テーブルのトレーへと、梨恵は手を伸ばす。

「じゃあ――うちは食器を返してくるけえ。」

「うん――ありがと。」

梨恵が部屋から出てゆく。

代わりに、菊花と紅子が坐った。

紅子が口を開く。

「じゃあ――あとは菊花に連絡が来るのを待つだけか。」

うん――と菊花はうなづく。

しかし、一冴の中では疑念が強まっていた。

「ねえ――蘭先輩は本当に来るの?」

咄嗟に菊花は目を逸らす。質問に動揺していた。今、突っ込まれたことは訊かれたくない。

「う――うん。来るよ。」

しかし、その態度は一冴の不信感を拡げさせる。

「じゃあ――山吹さんは今なにをしてるわけ?」

「ええっと、それは――」

直後、ドアが叩かれた。

「上原さん――今いいですか?」

朝美の声だ。

一冴は息を呑む。菊花や紅子と目を交わした。誰もが静かに慌てている。本来ならば――このような事態を防ぐために紅子は外で見張っているはずだったのだ。

「生理痛は大丈夫なんですか? 貴女、先日も休んでましたよね?」

応えないでいると、朝美はさらに続けた。

「ちょっと、這入りますね。」

ドアノブが動いた。
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