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第八章 白山女子寮連続パンツ失踪事件-後編
第五話 むぢな
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放課後のことである。
文藝部での活動を一冴は終え、紅子と共に玄関へ向かった。菊花はいない。どこへ行っているのか、最近は放課後に姿を見せないのだ。
雨は激しい。時として稲妻が奔り、ぱっと空が明るくなる。
玄関へ着き、傘立てから傘を探した。
ところが、傘はどこにもない。
紅子が情けない声を上げる。
「どうしよう――同志いちご。傘が――ないんだが。」
「あの――私も。」
紅子はぽかんと口を開ける。
「まさか――盗まれた?」
「かもしれない。」
外を見やる。相変わらず雨は激しい。
「どうしよう」と紅子は言う。「傘を貸してくれそうな人は――」
「いないだろうねえ。」
雨は激しい。このまま待ち続けることはできない。
梨恵はもう帰っただろうか。この時間ならば、恐らくは部屋には着いていない。だが――ぐずぐずしていたら、濡れて帰るばかりか、梨恵の前で着替えることとなる。
紅子は不安そうな顔をする。
「このままでは門限になってしまうぞ? しかも、私たちは今日、夕食当番ではないか? もしも濡れて帰ったとして――身体を拭いていたら、当番に遅れてしまうぞ?」
「――そうだねえ。」
一冴は歯がみをする。
「どうする? 吶喊する?」
「そうだな。」紅子は顔を引き締める。「吶喊しよう。」
「じゃ――行こか。」
勢いをつけ、二人は玄関から飛び出た。
雨の中を駆ける。
冷たい雫が髪や服に染み込んだ。
梨恵より先に寮へ着かなければならない。しかし、もしも梨恵が先に帰っていたら、どうしたらいいのだろう。背中を向けて着替えればぎりぎり誤魔化せるだろうか。
桜の葉のトンネルを駆ける。鎮守の杜は暗い。樹々にさえぎられて雨は少し弱まったような気がした。しかし、ふりしたたる雫は一回り大きくなる。
このとき、梨恵とすれ違っていたことに一冴は気づかなかった。
寮まで駆け、玄関へと飛び込む。
ずぶ濡れの紅子が声を上げる。
「ひー! もう、びしょびしょだ。」
「ともかくも、早く帰って着替えなきゃ。」
「そうだな!」
それから、それぞれの部屋へと駆けこんだ。
梨恵はまだ戻っていなかった。そのことに一冴は安心する。
備え付けのタオルで水滴をさっと拭く。制服を脱ぎ、キャミソールを脱ぎ、クローゼットを開いた。下着をしまっている箪笥を開け――そして凍りつく。
キャミソールが――ない。
慌てて他の箪笥も空ける。
当然のように、キャミソールは全て消えていた。
何が起きているのかは分からないが、上着を羽織らなければならない。
そう思い、ハンガーにかけられた服を手にしたときだ。
ドアノブを開ける音がした。
心臓が高鳴る。
そして、明かりがふっと消えた。
文藝部での活動を一冴は終え、紅子と共に玄関へ向かった。菊花はいない。どこへ行っているのか、最近は放課後に姿を見せないのだ。
雨は激しい。時として稲妻が奔り、ぱっと空が明るくなる。
玄関へ着き、傘立てから傘を探した。
ところが、傘はどこにもない。
紅子が情けない声を上げる。
「どうしよう――同志いちご。傘が――ないんだが。」
「あの――私も。」
紅子はぽかんと口を開ける。
「まさか――盗まれた?」
「かもしれない。」
外を見やる。相変わらず雨は激しい。
「どうしよう」と紅子は言う。「傘を貸してくれそうな人は――」
「いないだろうねえ。」
雨は激しい。このまま待ち続けることはできない。
梨恵はもう帰っただろうか。この時間ならば、恐らくは部屋には着いていない。だが――ぐずぐずしていたら、濡れて帰るばかりか、梨恵の前で着替えることとなる。
紅子は不安そうな顔をする。
「このままでは門限になってしまうぞ? しかも、私たちは今日、夕食当番ではないか? もしも濡れて帰ったとして――身体を拭いていたら、当番に遅れてしまうぞ?」
「――そうだねえ。」
一冴は歯がみをする。
「どうする? 吶喊する?」
「そうだな。」紅子は顔を引き締める。「吶喊しよう。」
「じゃ――行こか。」
勢いをつけ、二人は玄関から飛び出た。
雨の中を駆ける。
冷たい雫が髪や服に染み込んだ。
梨恵より先に寮へ着かなければならない。しかし、もしも梨恵が先に帰っていたら、どうしたらいいのだろう。背中を向けて着替えればぎりぎり誤魔化せるだろうか。
桜の葉のトンネルを駆ける。鎮守の杜は暗い。樹々にさえぎられて雨は少し弱まったような気がした。しかし、ふりしたたる雫は一回り大きくなる。
このとき、梨恵とすれ違っていたことに一冴は気づかなかった。
寮まで駆け、玄関へと飛び込む。
ずぶ濡れの紅子が声を上げる。
「ひー! もう、びしょびしょだ。」
「ともかくも、早く帰って着替えなきゃ。」
「そうだな!」
それから、それぞれの部屋へと駆けこんだ。
梨恵はまだ戻っていなかった。そのことに一冴は安心する。
備え付けのタオルで水滴をさっと拭く。制服を脱ぎ、キャミソールを脱ぎ、クローゼットを開いた。下着をしまっている箪笥を開け――そして凍りつく。
キャミソールが――ない。
慌てて他の箪笥も空ける。
当然のように、キャミソールは全て消えていた。
何が起きているのかは分からないが、上着を羽織らなければならない。
そう思い、ハンガーにかけられた服を手にしたときだ。
ドアノブを開ける音がした。
心臓が高鳴る。
そして、明かりがふっと消えた。
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