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第八章 白山女子寮連続パンツ失踪事件-後編

第三話 雨の日。物置の中での秘密

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麦彦を車で送迎するのが山吹の日課であった。

朝から激しい雨が降っている。しかも雷雨だ。時には空が輝き、胸を打つような雷鳴が響いた。

東條邸へ門から這入り、飛石を踏んで玄関へ向かう。低木に添えられた石灯籠、手水ちょうず――そこから水が溢れ出るほど雨は激しい。

玄関から出てきた麦彦を目にして、山吹は眉をひそめる。

「御前、体調はいかがにございますか?」

干上がった蒼白い顔の中に、麦彦は笑みを浮かべる。

「なあに、大丈夫じゃ。これしきのことで理事長職が勤まるかい。」

近くで雷鳴が聞こえた。

麦彦は門へと向かおうとする。

「さあ、行くぞ、山吹。傘を差せい。」

はっ――とうなづき、山吹は傘をさした。

門を出る。麦彦を車へ乗せ、山吹は運転席へ坐った。

大粒の雨をかき分けるように車を走らせる。

「今朝、厭な夢を見てのう――」

後部座席でにやりと笑み、明朝の夢について麦彦は語る。

「――そんなわけで、もう、先祖がうるさかったのじゃ。」

「それはお気の毒にございました。」

「じゃがな――こんなことで儂がやめられるかい。たとえ先祖が地獄から這い上って来ようとも、枕元で恨み言をつぶやこうとも、儂は生徒たちで遊び倒してやるぞ。しかも、今年はオカマが入ったんじゃからな。こんな面白いおもちゃが他にあるかい。」

一瞬、車内へ閃光が差し込む。

顔を引きつらせて笑う麦彦の顔がバックミラーに写った。頬はこけ、目は充血し、隈までできている。ただでさえ悪どい笑みが妖怪じみていた。

「それにしても、一冴君も哀れじゃのう――女子寮で必死に女のふりをしておるのじゃからな。けけけ。一体、何で男のくせに女の服を着たがるかの――儂にはそれが分からんわい。」

やがて学園に着いた。

基本的に、山吹は麦彦の傍に侍っている。しかし、秘書と言えども休みがないわけではない。その日は、二時間目と三時間目のあいだの休み時間がそうであった。

理事長室を離れ、実習棟へと山吹は向かう。

頭の中では、麦彦の言葉が反芻されていた。

――何で男のくせに女の服を着たがるかの。

実習棟の一角――物置として使われている部屋に着いた。周囲にひとけはない。誰にも見られていないことを確認すると、その中へ這入った。

――上原君、その気持ちは分かるぞ。

棚の奥に備えておいた袋を取り出し、女性の服を取り出す。手早く着替え、サングラスを取り、あっという間に化粧を終え、ウィッグを被る。

変身するまで、わずか数分の早業である。

部屋から出たとき、山吹は完全な女教師の姿となっていた。
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