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第四章 いちごちゃんは告りたい!
第七話 幼なじみは告れない
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一冴が思い悩む傍らで、菊花もまた悩んでいた。
――何だ、この複雑すぎる状況は。
一冴に対する気持ちを菊花は整理できていない。
かつて、一冴は菊花のおもちゃだった。苛めることも泣かせることも思うようにできた。学院に入学せたあとは、再びおもちゃになるはずだったのだ。
が――上手くいかない。なぜ上手くいかないのか分からない。自分はまだ初恋などしていないのになぜ上手くいかないのだ。それどころか、一冴が蘭を気にかけるたびにすごく苛々する。
そんな蘭の恋の相手が――まさか自分だったとは。
ノートの上を走らせていたシャープペンシルの芯が、ぼきっと折れた。
いま、自分は蘭からつきまとわれている。そのたびに逃げていた。自分は異性愛者だ。蘭の気持ちには応えようがない。だが、どういうふうに断ったらいいのか分からない。
――それに。
ちらりと一冴へ目をやる。
完全に女子生徒だ。自分と同じなのに、違う。
すぐに目をそらした。
――オカマのくせに。
もしこの気持ちを心の中で言語化したら、自分まで同性愛者のようになってしまうではないか。
だから――これは、お気に入りの人形を独占しようとするような感情なのだ。
どうすればいいのか――蘭が自分から離れ、一冴が自分の物になるためには。
――いや。
何もせずとも、一冴は自分の物でなければならない。
対等であってはいけないのだ――決して。
そうだ――自分の方が圧倒的に力は強いではないか。何しろ、バラされては最も不味い秘密を握っている。何をせずとも一冴は自分の物だ――物であるべきなのだ。
――生まれてから死ぬまで私の物だ。
授業が終わった。
一冴の姿を目で追いつつ、教室を出る。
実習棟のトイレに一冴は這入った。
トイレの前で少し待つ。
やがて一冴が出てきた。そして菊花がいたことに気づき、驚いたような顔をする。
ねえ――と菊花は語りかける。
「いちごちゃんは、蘭先輩のことどうするつもり?」
一冴はうろたえた。
「え――どうって?」
「だって、蘭先輩はレズだけど、あんた男じゃん。」
「え――うん。確かにそうだけど。」
「男だってことを隠したまま、つきあったりキスしたりするわけ?」
「え――っと。」一冴は目を伏せる。「できれば――そうしたいけど。」
菊花は苛ついた。
「信じられない――それって蘭先輩をもてあそんでるのと同じだよ?」
一冴は少し押し黙ったあと、不満そうに菊花を視る。
「そういう菊花ちゃんは? 蘭先輩とつきあうの?」
「そんなわけないでしょ。」
女を女が愛するわけがない――少なくとも蘭を除いては。一冴が男だと知っているのは、この学校で自分だけだ。誰にも盗られてなるものか。
そして二人は教室棟へ向かう。
渡り廊下に差しかかったとき、蘭の姿を遠くに見た。向かい側からこちらへ歩いてくる。
刹那、菊花と蘭の目が合った。
――かずさは自分のもの。
狼狽させ、困惑させ、慌てさせることもできる。
けれど。
――私は貴女のものではない。
一冴の腕を取り、ぎゅっと抱く。
自分がしたことなのに、心臓が高鳴った。だが、わ、という一冴の小さな叫びと、驚いたような蘭の顔を目にして、優越感が湧く。
蘭は目を瞬かせ、そして尋ねた。
「あら、お二人とも仲がいいんですね。」
湧き上がった攻撃的な心が、その一言を滑らせた。
「ええ、ラブラブですよ。」
――何だ、この複雑すぎる状況は。
一冴に対する気持ちを菊花は整理できていない。
かつて、一冴は菊花のおもちゃだった。苛めることも泣かせることも思うようにできた。学院に入学せたあとは、再びおもちゃになるはずだったのだ。
が――上手くいかない。なぜ上手くいかないのか分からない。自分はまだ初恋などしていないのになぜ上手くいかないのだ。それどころか、一冴が蘭を気にかけるたびにすごく苛々する。
そんな蘭の恋の相手が――まさか自分だったとは。
ノートの上を走らせていたシャープペンシルの芯が、ぼきっと折れた。
いま、自分は蘭からつきまとわれている。そのたびに逃げていた。自分は異性愛者だ。蘭の気持ちには応えようがない。だが、どういうふうに断ったらいいのか分からない。
――それに。
ちらりと一冴へ目をやる。
完全に女子生徒だ。自分と同じなのに、違う。
すぐに目をそらした。
――オカマのくせに。
もしこの気持ちを心の中で言語化したら、自分まで同性愛者のようになってしまうではないか。
だから――これは、お気に入りの人形を独占しようとするような感情なのだ。
どうすればいいのか――蘭が自分から離れ、一冴が自分の物になるためには。
――いや。
何もせずとも、一冴は自分の物でなければならない。
対等であってはいけないのだ――決して。
そうだ――自分の方が圧倒的に力は強いではないか。何しろ、バラされては最も不味い秘密を握っている。何をせずとも一冴は自分の物だ――物であるべきなのだ。
――生まれてから死ぬまで私の物だ。
授業が終わった。
一冴の姿を目で追いつつ、教室を出る。
実習棟のトイレに一冴は這入った。
トイレの前で少し待つ。
やがて一冴が出てきた。そして菊花がいたことに気づき、驚いたような顔をする。
ねえ――と菊花は語りかける。
「いちごちゃんは、蘭先輩のことどうするつもり?」
一冴はうろたえた。
「え――どうって?」
「だって、蘭先輩はレズだけど、あんた男じゃん。」
「え――うん。確かにそうだけど。」
「男だってことを隠したまま、つきあったりキスしたりするわけ?」
「え――っと。」一冴は目を伏せる。「できれば――そうしたいけど。」
菊花は苛ついた。
「信じられない――それって蘭先輩をもてあそんでるのと同じだよ?」
一冴は少し押し黙ったあと、不満そうに菊花を視る。
「そういう菊花ちゃんは? 蘭先輩とつきあうの?」
「そんなわけないでしょ。」
女を女が愛するわけがない――少なくとも蘭を除いては。一冴が男だと知っているのは、この学校で自分だけだ。誰にも盗られてなるものか。
そして二人は教室棟へ向かう。
渡り廊下に差しかかったとき、蘭の姿を遠くに見た。向かい側からこちらへ歩いてくる。
刹那、菊花と蘭の目が合った。
――かずさは自分のもの。
狼狽させ、困惑させ、慌てさせることもできる。
けれど。
――私は貴女のものではない。
一冴の腕を取り、ぎゅっと抱く。
自分がしたことなのに、心臓が高鳴った。だが、わ、という一冴の小さな叫びと、驚いたような蘭の顔を目にして、優越感が湧く。
蘭は目を瞬かせ、そして尋ねた。
「あら、お二人とも仲がいいんですね。」
湧き上がった攻撃的な心が、その一言を滑らせた。
「ええ、ラブラブですよ。」
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