上 下
48 / 133
第四章 いちごちゃんは告りたい!

第七話 幼なじみは告れない

しおりを挟む
一冴が思い悩む傍らで、菊花もまた悩んでいた。

――何だ、この複雑すぎる状況は。

一冴に対する気持ちを菊花は整理できていない。

かつて、一冴は菊花のおもちゃだった。苛めることも泣かせることも思うようにできた。学院に入学せたあとは、再びおもちゃになるはずだったのだ。

が――上手くいかない。なぜ上手くいかないのか分からない。自分はまだ初恋などしていないのになぜ上手くいかないのだ。それどころか、一冴が蘭を気にかけるたびにすごく苛々する。

そんな蘭の恋の相手が――まさか自分だったとは。

ノートの上を走らせていたシャープペンシルの芯が、ぼきっと折れた。

いま、自分は蘭からつきまとわれている。そのたびに逃げていた。自分は異性愛者だ。蘭の気持ちには応えようがない。だが、どういうふうに断ったらいいのか分からない。

――それに。

ちらりと一冴へ目をやる。

完全に女子生徒だ。自分と同じなのに、違う。

すぐに目をそらした。

――オカマのくせに。

もしこの気持ちを心の中で言語化したら、自分まで同性愛者のようになってしまうではないか。

だから――これは、お気に入りの人形を独占しようとするような感情なのだ。

どうすればいいのか――蘭が自分から離れ、一冴が自分の物になるためには。

――いや。

何もせずとも、一冴は自分の物でなければならない。

対等であってはいけないのだ――決して。

そうだ――自分の方が圧倒的に力は強いではないか。何しろ、バラされては最も不味い秘密を握っている。何をせずとも一冴は自分の物だ――物であるべきなのだ。

――生まれてから死ぬまで私の物だ。

授業が終わった。

一冴の姿を目で追いつつ、教室を出る。

実習棟のトイレに一冴は這入った。

トイレの前で少し待つ。

やがて一冴が出てきた。そして菊花がいたことに気づき、驚いたような顔をする。

ねえ――と菊花は語りかける。

「いちごちゃんは、蘭先輩のことどうするつもり?」

一冴はうろたえた。

「え――どうって?」

「だって、蘭先輩はレズだけど、あんた男じゃん。」

「え――うん。確かにそうだけど。」

「男だってことを隠したまま、つきあったりキスしたりするわけ?」

「え――っと。」一冴は目を伏せる。「できれば――そうしたいけど。」

菊花は苛ついた。

「信じられない――それって蘭先輩をもてあそんでるのと同じだよ?」

一冴は少し押し黙ったあと、不満そうに菊花を視る。

「そういう菊花ちゃんは? 蘭先輩とつきあうの?」

「そんなわけないでしょ。」

女を女が愛するわけがない――少なくとも蘭を除いては。一冴が男だと知っているのは、この学校で自分だけだ。誰にも盗られてなるものか。

そして二人は教室棟へ向かう。

渡り廊下に差しかかったとき、蘭の姿を遠くに見た。向かい側からこちらへ歩いてくる。

刹那、菊花と蘭の目が合った。

――かずさは自分のもの。

狼狽させ、困惑させ、慌てさせることもできる。

けれど。

――私は貴女のものではない。

一冴の腕を取り、ぎゅっと抱く。

自分がしたことなのに、心臓が高鳴った。だが、わ、という一冴の小さな叫びと、驚いたような蘭の顔を目にして、優越感が湧く。

蘭は目を瞬かせ、そして尋ねた。

「あら、お二人とも仲がいいんですね。」

湧き上がった攻撃的な心が、その一言を滑らせた。

「ええ、ラブラブですよ。」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...