15 / 133
第二章 男の娘と百合の園
第二話 緊張の自己紹介
しおりを挟む
十九時――部屋で待機するように言われていた新入生が、上級生から呼ばれた。
食堂へと向かう。
カフェのようなその部屋へ這入ると、クラッカーが一斉に鳴らされた。
「「「「「入寮、おめでとー!」」」」」
壁には、「歓迎会」と大きく書かれた色紙が貼られている。
今日はバイキング形式だ。
食堂の中央ではテーブルが六つ合わせられていた――フライドチキン・ウィンナー・卵焼き・サンドイッチ・ピザ・サラダ・ジュースなどが載っている。その周りには、一卓で四席のテーブルが竝んでいた。
「席は自由に坐っていーよー!」
上級生の声に従い、新入生たちは迷いつつも坐ってゆく。
梨恵に誘われて隣に坐る。一冴の対面には菊花が来て、その隣に紅子が来た。
寮生は五十人で、そのうち十六人が新入生だ。
一冴はちぢこまった。
隣には梨恵がいる。菊花も顔立ちが整っている。紅子も小さくて可愛らしい。自分以外はみな美少女だ。いや、他人から見れば一冴も「美少女」だ。
新入生の自己紹介が始まる。
奥から時計回りに新入生が順番に起立した。
「白井椿です。一〇七号室です。」
「宇津木夏希です。新潟県上越市から来ました。一〇三号室です。鈴宮市には慣れていないので、詳しい方はよろしくお願いします。」
「飴村林檎です。県内からの特待生です。ツァイちゃんとは同じ一〇六号室です。」
「蔡梅芳です。――台湾から来ました。」
やがて、一冴のテーブルまで順番がくる。
「筆坂紅子です。鎌倉から来ました。一〇八号室です。よろしくお願いします。」
「上原、い、いちごです。京都から来ました。菊花ちゃんとは親戚同士です。一〇五号室でお世話になります。どうかよろしくお願いします。」
深々と頭を下げる。
喉元を過ぎれば呆気なかった。
新入生の自己紹介が終わったあと、中央のテーブルから料理を取ってくる。
夕食を摂りながら会話を交わした。
菊花との関係を説明すると、梨恵は興味深そうな顔をする。
「それじゃあ、いちごちゃんと菊花ちゃんは従姉妹ってえことかあ。」
「うん」と一冴はうなづく。「ただ、ほとんど会ったことないけど。だって、鈴宮市と京都じゃ離れてるし、血縁だって遠いから。」
設定が破綻しないよう気をつけながら、菊花が口を挟む。
「けど、小さい頃から会ってるよ。本家はうちだし、お盆とか正月とかはこっちに来て遊んでたの。うち、親戚が多いから。」
「ほんにー。」
一冴は紅子へ顔を向ける。
「そんなわけで――筆坂さん、一年間、菊花ちゃんをよろしくね。」
紅子は元気のない顔をしている。
「別にいいんだけどさ、仏壇はどうかならないの?」
「仏壇?」
「東條さん――部屋に仏壇持って来てるんだけど。」
一冴はすぐ思い当たった。
「あ、やっぱ持ってきたの。」
「やっぱ――って?」
「菊花ちゃん、小さい頃から仏壇好きだったもんね。」
紅子は暗い顔をする。
「失礼だけど――東條さんって何か宗教やってるの?」
菊花はきょとんとした。
「え? うちは無宗教だよ?」
「だったら何で仏壇があるわけ? 幸科学会か何かなわけ?」
「普通の浄土真宗だけど。」
「骨壺まであるし。」
菊花の祖母のことを一冴は思い出した。
「ああ――菊花ちゃん、お祖母ちゃんっ子だったもんね。菊花ちゃんが大人になるまで見守りたいから、お墓に入れないでほしいって遺言したんだっけか。」
「そう。――だから寮に持ってきたの。」
梨恵は相槌を打つ。
「そりゃ離れるわけにいかんなぁ。」
一冴も同意する。
「やっぱり、ご先祖様は大切にしなきゃね。」
唯一、紅子だけが顔を蒼くしていた。
テーブルに何者かが近づいてきたのはそのときだ。
「愉しさうですね?」
それは蘭だった。
「今日だけでものんびりして下さいね。お客様扱ひはあくまでも今日だけです。明日からは当番が始まりますので。」
はい――と、四人とも異口同音に答える。
寮には、朝食・夕食・皿洗い・トイレ掃除・風呂掃除の五つの当番がある。四部屋が一組となり、一日ごとに休みを挟んでローテーションする。一〇五号室から一〇八号室までは同じ組だ。
では――と言い、蘭は去っていった。
その後姿を眺めながら、梨恵は言う。
「綺麗な人だなー。」
食堂へと向かう。
カフェのようなその部屋へ這入ると、クラッカーが一斉に鳴らされた。
「「「「「入寮、おめでとー!」」」」」
壁には、「歓迎会」と大きく書かれた色紙が貼られている。
今日はバイキング形式だ。
食堂の中央ではテーブルが六つ合わせられていた――フライドチキン・ウィンナー・卵焼き・サンドイッチ・ピザ・サラダ・ジュースなどが載っている。その周りには、一卓で四席のテーブルが竝んでいた。
「席は自由に坐っていーよー!」
上級生の声に従い、新入生たちは迷いつつも坐ってゆく。
梨恵に誘われて隣に坐る。一冴の対面には菊花が来て、その隣に紅子が来た。
寮生は五十人で、そのうち十六人が新入生だ。
一冴はちぢこまった。
隣には梨恵がいる。菊花も顔立ちが整っている。紅子も小さくて可愛らしい。自分以外はみな美少女だ。いや、他人から見れば一冴も「美少女」だ。
新入生の自己紹介が始まる。
奥から時計回りに新入生が順番に起立した。
「白井椿です。一〇七号室です。」
「宇津木夏希です。新潟県上越市から来ました。一〇三号室です。鈴宮市には慣れていないので、詳しい方はよろしくお願いします。」
「飴村林檎です。県内からの特待生です。ツァイちゃんとは同じ一〇六号室です。」
「蔡梅芳です。――台湾から来ました。」
やがて、一冴のテーブルまで順番がくる。
「筆坂紅子です。鎌倉から来ました。一〇八号室です。よろしくお願いします。」
「上原、い、いちごです。京都から来ました。菊花ちゃんとは親戚同士です。一〇五号室でお世話になります。どうかよろしくお願いします。」
深々と頭を下げる。
喉元を過ぎれば呆気なかった。
新入生の自己紹介が終わったあと、中央のテーブルから料理を取ってくる。
夕食を摂りながら会話を交わした。
菊花との関係を説明すると、梨恵は興味深そうな顔をする。
「それじゃあ、いちごちゃんと菊花ちゃんは従姉妹ってえことかあ。」
「うん」と一冴はうなづく。「ただ、ほとんど会ったことないけど。だって、鈴宮市と京都じゃ離れてるし、血縁だって遠いから。」
設定が破綻しないよう気をつけながら、菊花が口を挟む。
「けど、小さい頃から会ってるよ。本家はうちだし、お盆とか正月とかはこっちに来て遊んでたの。うち、親戚が多いから。」
「ほんにー。」
一冴は紅子へ顔を向ける。
「そんなわけで――筆坂さん、一年間、菊花ちゃんをよろしくね。」
紅子は元気のない顔をしている。
「別にいいんだけどさ、仏壇はどうかならないの?」
「仏壇?」
「東條さん――部屋に仏壇持って来てるんだけど。」
一冴はすぐ思い当たった。
「あ、やっぱ持ってきたの。」
「やっぱ――って?」
「菊花ちゃん、小さい頃から仏壇好きだったもんね。」
紅子は暗い顔をする。
「失礼だけど――東條さんって何か宗教やってるの?」
菊花はきょとんとした。
「え? うちは無宗教だよ?」
「だったら何で仏壇があるわけ? 幸科学会か何かなわけ?」
「普通の浄土真宗だけど。」
「骨壺まであるし。」
菊花の祖母のことを一冴は思い出した。
「ああ――菊花ちゃん、お祖母ちゃんっ子だったもんね。菊花ちゃんが大人になるまで見守りたいから、お墓に入れないでほしいって遺言したんだっけか。」
「そう。――だから寮に持ってきたの。」
梨恵は相槌を打つ。
「そりゃ離れるわけにいかんなぁ。」
一冴も同意する。
「やっぱり、ご先祖様は大切にしなきゃね。」
唯一、紅子だけが顔を蒼くしていた。
テーブルに何者かが近づいてきたのはそのときだ。
「愉しさうですね?」
それは蘭だった。
「今日だけでものんびりして下さいね。お客様扱ひはあくまでも今日だけです。明日からは当番が始まりますので。」
はい――と、四人とも異口同音に答える。
寮には、朝食・夕食・皿洗い・トイレ掃除・風呂掃除の五つの当番がある。四部屋が一組となり、一日ごとに休みを挟んでローテーションする。一〇五号室から一〇八号室までは同じ組だ。
では――と言い、蘭は去っていった。
その後姿を眺めながら、梨恵は言う。
「綺麗な人だなー。」
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる