13 / 133
第一章 初めてのスカート
第十二話 壁ドン
しおりを挟む
部屋に荷物を置いたあと、一冴は母と別れた。
続いて、寮生に挨拶まわりをする。
二つ隣の部屋――一〇八号室のドアを叩くと、やや長めのお下げの少女――筆坂紅子が現れた。
その前髪のヘアピンに一冴は目が留まる。
――これは。
紅子は怪訝な顔をした。
「あんた誰?」
「あ――あの、私、今日から一〇五号室に住むこととなった、上原いちごです。今、挨拶まわりをしているところです。」
部屋の奥から菊花が顔を出す。
「あ――いちごちゃんだ。」
菊花を前にして、一瞬、一冴は固まった。
「菊花ちゃん――ここの部屋だったんだ。」
紅子は不思議そうな顔をする。
「え――東條さんと知り合いなの?」
「うん。」菊花はうなづく。「親戚だよ。」
「へー。」
紅子は一冴に向きなおった。
「筆坂紅子です。」
「筆坂さん――ですか。」一冴は手元の小箱をさしだす。「あの――これ、おみやげです。つまらない物だけれども、よろしかったら。」
紅子は小箱を受け取った。
「んー、何?」
「京都名物の生八つ橋です。――私、京都の出身なので。」
「おお! そりゃどうもどうも!」
当然、京都出身というのは嘘である。ただし、京都に親戚がおり、何度も上洛したことがあるので、さほど不自然な嘘にはならないだろう。
一冴は菊花へとほほえみかけた。
「あの――菊花ちゃん? ちょっと二人でお話ししたいことがあるんだけど、いい?」
「うん――構わないよ。」
それから一冴は菊花と共に部屋を離れた。
できるだけ人目につかない場所をと思い、洗濯場へ這入る。
周囲に人がいないことを確認すると、ドンと片腕を壁に突いて菊花へ迫った。
「おい、手前どういうことだよ?」
菊花は視線を逸らす。
「ん? んー? 何のこと?」
「とぼけんなよ。男だってバレないように同じ部屋になるんじゃなかったのかよ?」
「はあ――この白山女学園に男なんか入るわけないでしょ? 女の子が女の子と同じ部屋になって、何がバレるっていうの?」
菊花の口元に浮かんだ薄ら笑いを目にして、一冴は愕然とする。
それは、困惑する一冴を面白がっている顔だった。
続いて、寮生に挨拶まわりをする。
二つ隣の部屋――一〇八号室のドアを叩くと、やや長めのお下げの少女――筆坂紅子が現れた。
その前髪のヘアピンに一冴は目が留まる。
――これは。
紅子は怪訝な顔をした。
「あんた誰?」
「あ――あの、私、今日から一〇五号室に住むこととなった、上原いちごです。今、挨拶まわりをしているところです。」
部屋の奥から菊花が顔を出す。
「あ――いちごちゃんだ。」
菊花を前にして、一瞬、一冴は固まった。
「菊花ちゃん――ここの部屋だったんだ。」
紅子は不思議そうな顔をする。
「え――東條さんと知り合いなの?」
「うん。」菊花はうなづく。「親戚だよ。」
「へー。」
紅子は一冴に向きなおった。
「筆坂紅子です。」
「筆坂さん――ですか。」一冴は手元の小箱をさしだす。「あの――これ、おみやげです。つまらない物だけれども、よろしかったら。」
紅子は小箱を受け取った。
「んー、何?」
「京都名物の生八つ橋です。――私、京都の出身なので。」
「おお! そりゃどうもどうも!」
当然、京都出身というのは嘘である。ただし、京都に親戚がおり、何度も上洛したことがあるので、さほど不自然な嘘にはならないだろう。
一冴は菊花へとほほえみかけた。
「あの――菊花ちゃん? ちょっと二人でお話ししたいことがあるんだけど、いい?」
「うん――構わないよ。」
それから一冴は菊花と共に部屋を離れた。
できるだけ人目につかない場所をと思い、洗濯場へ這入る。
周囲に人がいないことを確認すると、ドンと片腕を壁に突いて菊花へ迫った。
「おい、手前どういうことだよ?」
菊花は視線を逸らす。
「ん? んー? 何のこと?」
「とぼけんなよ。男だってバレないように同じ部屋になるんじゃなかったのかよ?」
「はあ――この白山女学園に男なんか入るわけないでしょ? 女の子が女の子と同じ部屋になって、何がバレるっていうの?」
菊花の口元に浮かんだ薄ら笑いを目にして、一冴は愕然とする。
それは、困惑する一冴を面白がっている顔だった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[不定期更新中]
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる