6 / 133
第一章 初めてのスカート
第五話 怪しくなる雲ゆき
しおりを挟む
不幸中の幸いと言うべきか、一冴の女装を菊花は黙ってくれた。しかし、そのとき撮った写真を出汁に、しばらく菊花は一冴を下僕として遣う。
一冴の女装は、母親と菊花以外に知られず済んだ。
そうこうするうちに春がきた。
蘭は白山女学院へ進む。一冴の恋は終わったように見えた。将来、どこかの男性と蘭も結ばれ、結婚するのかもしれない。そう考えると苦しくなった。
父の貿易業が怪しくなったのもこの頃からだ。
その頃、父の帰宅は遅いものとなっていた。帰るたびに、苦い顔で晩酌を始める。そして、従業員の解雇や赤字決算について口にし始めるのだ。
その日の晩もそうだった。
夜中のことである。一冴が一階へ降りると、居間では父が晩酌をしていた。
「六千万ほど足りんな。」
ショットグラスの氷が音を立てる。
「なんやかんやで新型ウィルス騒動も終わったというのに――終わった後が大変だ。とにかく金を返さにゃならん。このままでは社がもたん。閉業して、この家も売り払うしかなかろう。一冴を黒森学園に入れられん。」
一冴はそれを遠巻きに聞いていた。
黒森学園は、一冴が進学する予定の男子校だ。白山女学院と同じように、全国から集まった良家の男子が通っている。
――けど、黒森には入りたくないな。
不安そうな顔で母は問う。
「何とか――ならないんですの?」
「とにかく、借金を返すことだ。金を返すために金を借りるというのもよくはないが、今はそれしかない。――麦彦の爺さんを頼ろうと思う。」
麦彦とは、親戚の資産家である。大地主であり、不動産や有価証券も数多く所有している。
ただ――麦彦は酷い変わり者だ。
親戚が集まる場で、これからの挨拶は逆にしようと言いだす。朝はこんばんはと言い、夜はおはようと言おう――と。そうして、猫の丸焼きを親戚にふるまうのだ。親戚たちは、ごちそうさまと言わされたあとにそれを食べさせられた。
一冴などは、お年玉だと言われて、無理やり股間を触らされたことがある。
母は苦い顔をする。
「伯父さんでしたら助けてくれましょうけど――いいんですの? 『あの』麦彦伯父さんに。」
「今はそれしかなかろう――『あの』麦彦伯父さんにでも。明日にでも頼んでくる。」
居間がしんと静まり返った。
一冴の女装は、母親と菊花以外に知られず済んだ。
そうこうするうちに春がきた。
蘭は白山女学院へ進む。一冴の恋は終わったように見えた。将来、どこかの男性と蘭も結ばれ、結婚するのかもしれない。そう考えると苦しくなった。
父の貿易業が怪しくなったのもこの頃からだ。
その頃、父の帰宅は遅いものとなっていた。帰るたびに、苦い顔で晩酌を始める。そして、従業員の解雇や赤字決算について口にし始めるのだ。
その日の晩もそうだった。
夜中のことである。一冴が一階へ降りると、居間では父が晩酌をしていた。
「六千万ほど足りんな。」
ショットグラスの氷が音を立てる。
「なんやかんやで新型ウィルス騒動も終わったというのに――終わった後が大変だ。とにかく金を返さにゃならん。このままでは社がもたん。閉業して、この家も売り払うしかなかろう。一冴を黒森学園に入れられん。」
一冴はそれを遠巻きに聞いていた。
黒森学園は、一冴が進学する予定の男子校だ。白山女学院と同じように、全国から集まった良家の男子が通っている。
――けど、黒森には入りたくないな。
不安そうな顔で母は問う。
「何とか――ならないんですの?」
「とにかく、借金を返すことだ。金を返すために金を借りるというのもよくはないが、今はそれしかない。――麦彦の爺さんを頼ろうと思う。」
麦彦とは、親戚の資産家である。大地主であり、不動産や有価証券も数多く所有している。
ただ――麦彦は酷い変わり者だ。
親戚が集まる場で、これからの挨拶は逆にしようと言いだす。朝はこんばんはと言い、夜はおはようと言おう――と。そうして、猫の丸焼きを親戚にふるまうのだ。親戚たちは、ごちそうさまと言わされたあとにそれを食べさせられた。
一冴などは、お年玉だと言われて、無理やり股間を触らされたことがある。
母は苦い顔をする。
「伯父さんでしたら助けてくれましょうけど――いいんですの? 『あの』麦彦伯父さんに。」
「今はそれしかなかろう――『あの』麦彦伯父さんにでも。明日にでも頼んでくる。」
居間がしんと静まり返った。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[不定期更新中]
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる