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第九章 小雪
2 障子の向こう
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十一月十七日・月曜日――恐ろしい夢から美邦は目覚めた。
掛け布団を上半身が跳ねのける。ばくばくと心臓が鳴っていた。
部屋はまだ暗い。夢の中の光景――夜の町と同じだ。しかし、障子は青く染まりつつある。朝が近づいているのだ。
――何かから私は逃げていた。
スマートフォンの画面へ目をやる。ちょうど六時に差し掛かろうとしていた。まだ、アラームが鳴るまで三十分ある。早めに目が覚めたことを知り、ようやく寒さを思い出した。
濃い潮の臭いが鼻に残っている。何かに追われ――壊滅した町を見たのだ。見慣れた景色は海水に濡れ、瓦礫が連なっていた。
――忘れないうちに書き留めなくては。
ただし寒すぎた。学習机に向かう気にはなれない。布団にくるまり、スマートフォンに手を伸ばす。メモ機能を開き、先ほどの光景を打ち込んだ。
――また何かが起きたのかもしれない。
現実とリンクする夢を見る自分は、やはり異常なのだと感じる。だが、決して無差別に見るわけではないはずだ――誰かが何かを訴えているように。
――神様を探すために。
竹下の言葉を思い出す。
自分は、大原美邦以外の何者でもない――そのことを見失ってはならない。
のちにメモはノートに清書し、竹下に見せる。カミダーリに遭った者が、親ユタの指導を受けるように。だからこそ、じきに読む者――竹下と冬樹のことを特に意識した。
次第に、部屋が明るさを帯びてゆく。
窓は東を向いている――伊吹山から太陽は昇るのだ。
先ほどよりも障子は青みを失い、逆光で格子を浮かび上がらせていた。ふと美邦は目をやり、そして気づく。電柱や電線の影が映るのはいつものことだ。だが、それとは別に大きな影がある。何かがぶら下がっているようだった。
おかしなことが起きたのだ――と直感した。
今は、障子に影が映っているに過ぎない。それでも普通ではなかった。濃い潮の臭いを思い出す。異様な影と、夢の内容との関わりを直感した。無意識にあるものが、それを確認しろと急かす。
恐る恐るベッドを下りた。
凍えつつ、障子へと近寄る――大きなその影に。
障子に手をかけ、少し躊躇してから引いた。
目に入ったのは築島だった。窓に近い電柱の変圧器から首を吊っている。苦痛に歪んだ顔は美邦を凝視していた。
掛け布団を上半身が跳ねのける。ばくばくと心臓が鳴っていた。
部屋はまだ暗い。夢の中の光景――夜の町と同じだ。しかし、障子は青く染まりつつある。朝が近づいているのだ。
――何かから私は逃げていた。
スマートフォンの画面へ目をやる。ちょうど六時に差し掛かろうとしていた。まだ、アラームが鳴るまで三十分ある。早めに目が覚めたことを知り、ようやく寒さを思い出した。
濃い潮の臭いが鼻に残っている。何かに追われ――壊滅した町を見たのだ。見慣れた景色は海水に濡れ、瓦礫が連なっていた。
――忘れないうちに書き留めなくては。
ただし寒すぎた。学習机に向かう気にはなれない。布団にくるまり、スマートフォンに手を伸ばす。メモ機能を開き、先ほどの光景を打ち込んだ。
――また何かが起きたのかもしれない。
現実とリンクする夢を見る自分は、やはり異常なのだと感じる。だが、決して無差別に見るわけではないはずだ――誰かが何かを訴えているように。
――神様を探すために。
竹下の言葉を思い出す。
自分は、大原美邦以外の何者でもない――そのことを見失ってはならない。
のちにメモはノートに清書し、竹下に見せる。カミダーリに遭った者が、親ユタの指導を受けるように。だからこそ、じきに読む者――竹下と冬樹のことを特に意識した。
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障子に手をかけ、少し躊躇してから引いた。
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