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暴走する「反差別」。

4.「差別」がなければ生きていけない人たち。

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昨年の二月、Yahooニュースにこんな記事が載った。

『男女格差だけじゃない LGBTランキングでも世界の下位に沈む日本の将来』
https://news.yahoo.co.jp/byline/inosehijiri/20210226-00224697

いわゆる「LGBTランキング」で日本が下位となったと記事には書かれている。

カリフォルニア大学のロサンゼルス校・法科大学院が作ったランキングでは、二〇一七年の時点で日本は174か国中66位。そのすぐ下には、同性愛者を処刑しているイスラム教諸国が並んだ。

また、経済協力開発機構が二〇二〇年に発表したランキングでは、35の加盟国中、日本はトルコに次ぐワースト二位だった。

しかし、同性愛者に対する嫌悪犯罪ヘイトクライムが頻発しているアメリカやイギリスといった国々が、なぜ日本より上位なのだろうか?

実を言えば、これらのランキングで基準となっているものは、性的少数者への差別を禁止する法律があるとか、同性婚があるとかなのだ。

だが、キリスト教諸国と日本では事情が全く違う。差別禁止法や同性婚が欧米の国々で作られたのは、激しすぎる差別に対して同性愛者たちが戦ってきたからだ。

しかし、そのような戦いをする必要が日本の当事者にはなかった。

ところが、LGBTについて検索をすると、「先進国の中で同性婚を認めていないのは日本だけ」だの「日本はLGBT後進国」だのという文字がやたら目につく。

そればかりか、「同性愛者に対する嫌悪犯罪ヘイトクライムは日本でも起きている」と主張する者もいる。

そんな彼らが執拗に取り上げるのが、二〇〇〇年に起きた「新木場事件」だ。

東京都・江東区にある新木場公園は、ハッテン場としてゲイたちが入り浸っていた。

二月十一日の未明、新木場公園で一人の男性が遺体となって発見される。顔面は陥没するほど殴打され、内臓も破裂するほどの暴行が加えられていた。

調査の結果、二十六歳の青年と十六歳・十五歳の少年が十六日に逮捕される。

この事件が起こった頃、ゲイから金品を巻き上げる「ホモ狩り」が地元の不良少年の間で流行していた。

ハッテン場と言えば、深夜の公園を単身で歩き回ったり、裸になったりするのだ。集団で襲い、金品を巻き上げるのに都合がいい。

そんな「ホモ狩り」に被害者も巻き込まれたのである。

しかし、これを「嫌悪犯罪ヘイトクライム」と呼ぶことは難しい。何しろ、嫌悪犯罪ヘイトクライムとは「差別感情に基づく犯罪」だ。一方、本件は「狙いやすい対象を狙った強盗殺人事件」である。言うなれば、「おやじ狩り」や「オタク狩り」と同じだと言える。

ハッテンは危険リスキーな行為だ。無防備な状態に置かれるだけではない――当人たちも公然わいせつ罪を犯している。このような事件が起きたならば、「危険なハッテンはやめるように」とまず呼びかけなければない。しかし、そのようなことを活動家たちはしなかった。

「日本にも存在する激しい差別」の事例として活動家が取り上げる事件はいつも決まっている――新木場事件や一橋大学アウティング事件、杉田論文の騒動。それ以外に目ぼしい「差別事件」が存在しないため、繰り返し引っ張り出すしかない。

当然、一橋大学アウティング事件も新木場事件も痛ましい事件だ。だが、「なぜその事件が起きたのか?」を考えさせず、ひたすら「差別だ」と叫んで運動に利用することこそ死者に対する冒涜でしかない。

差別が少ない我が国において、活動家たちは目を皿のようにして差別を探している。

やり玉に挙げられがちなのは、表現の問題だ。

二〇一八年・八月三日――アニメ『ドラえもん』が炎上した。当日の放送には、ジャイアンを相手にのび太が告白の練習をする場面がある。たまたまそれを見かけたスネ夫が「ええっ?」と驚くのだ。これが同性愛者に対する差別なのだという。

二〇二二年の四月一日にも、こんな事件が起きた。

アイドルグループの乃木坂46のメンバー(女性)が、元メンバー(女性)と結婚したとSNSで報告したのだ。当然、エイプリルフールのネタである。

これに対し、ツイッターで非難が殺到。

「エイプリルフールのネタにするためにマジョリティがマイノリティを利用する差別」
「悪質すぎるし気分が悪くなる。何も考えていない安易な行動。」
「当事者がどんなに望んでも手に入れられない同性婚をネタとして消費している。」
「同性愛を冗談の『ネタ』に消費するなんて酷いよ」

松岡宗嗣は、Yahoo ニュースでさっそく次のようにコメントした。

「同性愛をエイプリルフールのネタとする発想は、同性愛を自分にとって『あり得ないもの』と想定していることから生まれます。こうした〝冗談〟を言った後、例えば『おかしい』『気持ち悪い』といった否定的な反応があっても、同性愛を利用している人自身は『あくまで冗談』なのでダメージを受けませんし、実際の同性カップルではないので、当事者が受ける制度的な不利益も一切発生しません」
https://news.yahoo.co.jp/articles/00a1935ffce9837a1749b7ce8423912c4747dca0

同年・六月中旬――日本各地で雷雨が発生する。そんな中、「ゲリラ豪雨」を言い間違えた「ゴリラゲイ雨」がツイッターでトレンド入りしていた。

これに便乗する形で、東急ハンズの公式アカウントがこうつぶやく。

「私がいるところにゴリラゲイ雨は来てません!
ゴリラゲイ雨が来たらちょっと困るけど、
ゴリラゲイ雨を見てみたい気もする。

...
...

はい、ゴリラゲイ雨って言いたいだけです。」

このツイートも「同性愛者への差別」として炎上した。

「『来たらちょっと困るけど見てみたい気もする』などと現実のホモフォビアに乗っかった“ネタ”を自発的に行った。以上が(株)東急ハンズの名の下に行われた。」
「プライド月間に同性愛を嘲笑するネットミームを流すセンスが疑われる」
「ゲイの当事者として酷く傷ついた。」

批判が殺到した結果、東急ハンズは謝罪する。

「元ツイートに多数のお叱りをいただいており、不快に受け止められた方に謹んでお詫び申し上げます。差別的な意図は念頭になく投稿したものですが、そのような文脈で使用されることもある単語であるとの認識が不足しておりました。誠に申し訳ございません。」
https://twitter.com/Hands_san/status/1535909803847225349?s=20

普通ならば、仮に不快に思う人が一定数いたとしても、謝罪したならばそれで終わりであろう。

しかし、ネチネチとした攻撃は謝罪後も続く。

「謝って終わりではない。」
「差別的な意図はない→それが差別的だとは認識できていない」
「何が問題なのか全く理解して無いですね?」
「『差別的な意図はない』で許されることでしょうか? 実際に多くの心を傷つけたのですよ? 事の大きさをしっかり認識して、企業として何をするべきかよく考えてください。」

東急ハンズを攻撃していたアカウントの中には、先のエピソードで紹介した二人のレズビアンへの集団リンチに参加していたアカウントもある。そのうち一人のゲイは、こうコメントした。


もはや察するべきだろう。

彼らは、マイノリティを盾にして誰かを屈服させることが快感なだけだ。「傷ついた」「不快に思った」という言葉でさえ、どれだけ真実か分からない。

今や、「LGBT」に関することは迂闊に口に出せない世の中になりつつある。

二〇二二年の四月十八日には、松岡宗嗣を始めとしたLGBT法連合会が、「LGBTQ報道ガイドライン」第二版なるものを公開した。

「LGBTQ報道ガイドライン」第二版
https://lgbtetc.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/lgbtq-media-gudeline-2nd-edit-1.pdf

そこには、ホモ・オカマ・オネエ・レズ・性転換・ニューハーフなどが「注意が必要な言葉」として挙げられている。それどころか、他人の性自認を外見で判断して、「くん」「ちゃん」「彼」「彼女」などの言葉や戸籍名も遣ってもいけないという。

「LGBTに悩む」も「LGBTに悩んでいるのではなく、性のあり方に悩んでいる」のだから不適切。「LGBTへの配慮」も「上から目線」だというので不適切。「禁断の愛」「同性婚の合法化」も不適切ワードだという。そして、二ページに亘って末尾に載せられている用語集は、ものの見事に珍妙なカタカナ語ばかりである。

こういうことをするから、「マナー講座みたいなことをしている」と言われるのだ。

彼らにとって、「差別がある」ということは生きがいなのだろう。そうして「差別事案」が発生すると、イキイキとして「お祭り」に参加する。

だが、「同性愛者に対する差別」だけでは今や足りない。

そうして、虹衛兵たちは探り当てたのだ――、

越境性差トランスジェンダー」という金脈を。
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