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仮名の告白
8.ジャックの談話室に救われた!
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当事者であるにも拘わらず、当事者であると私は言えなかった。
一方、実態とはズレた薄気味の悪い空気が世間を覆っている。
私は、自分を「LGBT」だと思ったことはない。だが客観的に見れば、私はその「LGBT」なのだ――「差別されている」とか「同性婚を求めている」とかと言われているところの。
しかも、自分のことを異性愛者だと私は言ってしまった。「同性婚はおかしい」とか「そんなに差別はあるのか」とかと言えば、同性愛者を差別していると思われかねない。
――当事者なのに。
LGBTに対する違和感は苛立ちにも変わった。同性愛を扱ったエッセイ漫画がツイッターで流れてきたとき、そのアカウントをミュートしていたほどである。
――同性愛者に育てられた子供はどうなるのか。
同性婚について最も違和感があったのはここだったので、気が向くたびに調べていた。
図書館にも本屋にも通い、そのような資料がないか探した。しかし、当然と言うべきかどこにもない。
納得のゆくような情報はネットでも見つからない。出てくるのは、「どのような親に育てられても子供には同じ」とか「同性カップルに育てられていても、愛情さえあれば大丈夫」とかと首を傾げてしまうような意見ばかりだ。
確かに、どのような環境をも凌ぐ愛情を注げば、ひょっとしたら問題はないかもしれない。しかし、そんなことをできる人がどれだけいるのか。実の親でも喧嘩の一つや二つはする。
「同性カップルに育てられた子供は可哀そうではない」と言う記事には、次の動画が貼られていた。
https://www.youtube.com/watch?v=t6Jt4Ou_1Xs
動画中で、同性カップルに育てられた少年が次のような演説をしている。
「僕の母親が同性愛者であるために、僕が愛情に恵まれた家庭で育っていることを信じない人たちがいます。でも、その考えは間違っています! 僕はお母さんたちを愛し、お母さんたちは僕と弟を無条件に愛してくれています。」
親に愛されているとは言っている。だが、私が懸念していることは、愛情があるかどうかではない。
それとも、そんなにも私が間違っているのか。変な奴だとは子供の頃から言われ続けてきたし、何年か前までは発狂していたわけだが。
冗談抜きで、世間と自分とのズレが私は恐ろしい。これは、子供の頃から何度も経験し、精神疾患だった頃に頂点に達した苦痛でもある。
いや――だからこそ、客観的に見て普通ではないことを、「普通である」と親から教えられる子供のことが気になるのかもしれない。
それまでは、性的少数者であることによる孤独など感じたことはなかった。ところが、「LGBT」という言葉が拡がり、同性婚を認めよという空気が拡がるにつれ、奇しくも孤独感を抱くこととなる。
ところが、同性カップルの子育てについて調べてゆくと、ケイティ゠ファウストという女性に行きついた。同性カップルに育てられた経験を告白した人だそうだが、詳しいことは分からない。
そして、ケイティ゠ファウストで調べたところ、『ジャックの談話室』というブログに行き着いた。
管理人の「ジャック」氏はゲイだ。同時に、同性愛者解放運動を二十年近く批判し続けてきた人物でもある。実を言えば、一部の同性愛者のあいだでは有名なブログだったらしい。
私が行きついたのは、そんな『ジャックの談話室』の「私的男色論」というページだ。そこには、同性婚に関する様々な記事が載せられていた。
ブログを読むうちに、私の中で何かが裂けた。
最初は、そうだ、と心の中で叫ぶだけだったが、やがて「そうだ!」と口にするようになる。
――やっぱり私はおかしくなかったんだ。
おかしいのはLGBT活動家だ!
薄気味の悪いこの風潮は、LGBT活動家が作ったものではないか。
「普通」かどうか私が自信を持てなかったことを、ジャック氏は「普通だ」と言った。すなわち、「差別など昔からなかった」と言い、同性婚をしたがるゲイなどいないと言い切ったのだ。
もちろん、少なからず日本にも差別はある。同性婚を欲しがる人もいる。だが、あまり多くはないし、一般的ではないことも事実だ。
そんな中、LGBT活動家たちは長いあいだ支持を得られなかった。彼らの運動は空回りしてきたし、肝心の当事者からも無視されてきた。
――しかし、なぜこうなったのか?
それは、「LGBT」が商売になると気づいた企業が投資したからだ。しかも、様々な政治団体も味方につけた。結果、二〇一二年ごろから急速に増長し始める。
ただでさえ少ない差別を多く見せる必要もあった。
だからこそ、同性愛者と越境性差とをわざと混同させていたのだ。
「同性愛者は生きづらい」と言っても実態はついてこない。だが「LGBTは生きづらい」と言うと、越境性差が抱える生きづらさが大量についてくる。
ともかくも、この問題について教えを乞える人を初めて見つけた――そう思い、ブログのトップに出たのである。
そこには「ジャックさんに関して」という記事があった。
「ジャックさんは、平成30年12月28日に膵臓癌のため亡くなられたと彼を担当されていた弁護士さんより報告がありました。管理を引き継ぎましたので、ブログに関してはこのまま置いておくつもりです。」
https://jack4afric.exblog.jp/30279773/
一方、実態とはズレた薄気味の悪い空気が世間を覆っている。
私は、自分を「LGBT」だと思ったことはない。だが客観的に見れば、私はその「LGBT」なのだ――「差別されている」とか「同性婚を求めている」とかと言われているところの。
しかも、自分のことを異性愛者だと私は言ってしまった。「同性婚はおかしい」とか「そんなに差別はあるのか」とかと言えば、同性愛者を差別していると思われかねない。
――当事者なのに。
LGBTに対する違和感は苛立ちにも変わった。同性愛を扱ったエッセイ漫画がツイッターで流れてきたとき、そのアカウントをミュートしていたほどである。
――同性愛者に育てられた子供はどうなるのか。
同性婚について最も違和感があったのはここだったので、気が向くたびに調べていた。
図書館にも本屋にも通い、そのような資料がないか探した。しかし、当然と言うべきかどこにもない。
納得のゆくような情報はネットでも見つからない。出てくるのは、「どのような親に育てられても子供には同じ」とか「同性カップルに育てられていても、愛情さえあれば大丈夫」とかと首を傾げてしまうような意見ばかりだ。
確かに、どのような環境をも凌ぐ愛情を注げば、ひょっとしたら問題はないかもしれない。しかし、そんなことをできる人がどれだけいるのか。実の親でも喧嘩の一つや二つはする。
「同性カップルに育てられた子供は可哀そうではない」と言う記事には、次の動画が貼られていた。
https://www.youtube.com/watch?v=t6Jt4Ou_1Xs
動画中で、同性カップルに育てられた少年が次のような演説をしている。
「僕の母親が同性愛者であるために、僕が愛情に恵まれた家庭で育っていることを信じない人たちがいます。でも、その考えは間違っています! 僕はお母さんたちを愛し、お母さんたちは僕と弟を無条件に愛してくれています。」
親に愛されているとは言っている。だが、私が懸念していることは、愛情があるかどうかではない。
それとも、そんなにも私が間違っているのか。変な奴だとは子供の頃から言われ続けてきたし、何年か前までは発狂していたわけだが。
冗談抜きで、世間と自分とのズレが私は恐ろしい。これは、子供の頃から何度も経験し、精神疾患だった頃に頂点に達した苦痛でもある。
いや――だからこそ、客観的に見て普通ではないことを、「普通である」と親から教えられる子供のことが気になるのかもしれない。
それまでは、性的少数者であることによる孤独など感じたことはなかった。ところが、「LGBT」という言葉が拡がり、同性婚を認めよという空気が拡がるにつれ、奇しくも孤独感を抱くこととなる。
ところが、同性カップルの子育てについて調べてゆくと、ケイティ゠ファウストという女性に行きついた。同性カップルに育てられた経験を告白した人だそうだが、詳しいことは分からない。
そして、ケイティ゠ファウストで調べたところ、『ジャックの談話室』というブログに行き着いた。
管理人の「ジャック」氏はゲイだ。同時に、同性愛者解放運動を二十年近く批判し続けてきた人物でもある。実を言えば、一部の同性愛者のあいだでは有名なブログだったらしい。
私が行きついたのは、そんな『ジャックの談話室』の「私的男色論」というページだ。そこには、同性婚に関する様々な記事が載せられていた。
ブログを読むうちに、私の中で何かが裂けた。
最初は、そうだ、と心の中で叫ぶだけだったが、やがて「そうだ!」と口にするようになる。
――やっぱり私はおかしくなかったんだ。
おかしいのはLGBT活動家だ!
薄気味の悪いこの風潮は、LGBT活動家が作ったものではないか。
「普通」かどうか私が自信を持てなかったことを、ジャック氏は「普通だ」と言った。すなわち、「差別など昔からなかった」と言い、同性婚をしたがるゲイなどいないと言い切ったのだ。
もちろん、少なからず日本にも差別はある。同性婚を欲しがる人もいる。だが、あまり多くはないし、一般的ではないことも事実だ。
そんな中、LGBT活動家たちは長いあいだ支持を得られなかった。彼らの運動は空回りしてきたし、肝心の当事者からも無視されてきた。
――しかし、なぜこうなったのか?
それは、「LGBT」が商売になると気づいた企業が投資したからだ。しかも、様々な政治団体も味方につけた。結果、二〇一二年ごろから急速に増長し始める。
ただでさえ少ない差別を多く見せる必要もあった。
だからこそ、同性愛者と越境性差とをわざと混同させていたのだ。
「同性愛者は生きづらい」と言っても実態はついてこない。だが「LGBTは生きづらい」と言うと、越境性差が抱える生きづらさが大量についてくる。
ともかくも、この問題について教えを乞える人を初めて見つけた――そう思い、ブログのトップに出たのである。
そこには「ジャックさんに関して」という記事があった。
「ジャックさんは、平成30年12月28日に膵臓癌のため亡くなられたと彼を担当されていた弁護士さんより報告がありました。管理を引き継ぎましたので、ブログに関してはこのまま置いておくつもりです。」
https://jack4afric.exblog.jp/30279773/
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