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第1章 イリス大陸編

第23話 C級に昇格

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 昇級試験を終えた不動颯太ふどうそうたはギルマス代理の権限でC級冒険者となり、赤金あかがねのプレートを手に入れた。

「たまげたぜ、お前のスキルであんなことが出来たなんてな。A級でも妥当だと思うんだが、俺の権限じゃC級までしか上げられねえんだ。B級以上になりたいなら、ギルド連合本部で昇格試験を受ける必要があるが、興味あるか?」

 【アスポート】の真価を知ったギルマス代理は、不動颯太に対する認識を改めた。

「昇格試験は追々受けようかなとは思ってますけど、とりあえず今は依頼をこなして経験を積みたいです」
「まあ妥当だな」

 不動颯太はレベルが上がり、【アスポート】の力も相まって戦闘力はかなり向上した。だが彼は自分が無敵になったとは思っていなかった。何よりスピードとテクニックが足りないという自覚があったので、依頼を通して経験を積んでより力を付けようと考えたのだ。
 不動颯太は依頼書の掲示板へ向かった。今日は休むつもりだが、明日分の仕事で目ぼしいものが余っていないか下見しようと思ったのだ。

「あれ、なんか増えてる」

 新規掲示板、通常掲示板、常設掲示板の他に「特設掲示板」が増設されていた。
 新しい掲示板に貼られた依頼書は、人間の似顔絵が描かれたものが多い。指名手配書のようだ。

「ああ、それな。お前が封印魔人の依頼やってる最中に国王から発表があったんだよ。サイク山の一件は全部コンテネス盗賊団の仕業で、他国と協力して一年以内に組織を壊滅させる、ってな」
「え? なんで……」

 不動颯太は王国の事情など知らないので、ギルマス代理が教えてくれたことが事実と異なり戸惑った。

「本当は盗賊の仕業なんかじゃないんだろ」
「あ、いや、それはその……」

 小声で話しかけてくるギルマス代理に対し、口止めをされている不動颯太は口ごもった。

「分かってる、口止めされてんだろ? 本当のことは酔ったファルコから聞きだしたからよ。四天王って奴を倒したのもソータだろ?」
「ギクぅ」

 核心を突かれて不動颯太はぎくりとした。

「大丈夫だ、俺は口が堅い方だから誰にも言ったりしねえよ。【アスポート】のこともな」
「…………」

 不動颯太が魔王軍四天王のビスケスを倒したと確信しているのは現状でギルマス代理と王族のブロッサム第二王女のみである。不動颯太はそのことを隠しているわけではないが、知られてもロクなことはないと思っていた。

「なんで王国は盗賊団の壊滅を?」

 不動颯太は話を戻した。

「なんか色々あんだろ。実際、コンテネスはかなりデケえ組織だし、王国からすりゃ魔王軍に次ぐ脅威だ。近年じゃ兵力が足りない中、銀鉱山への襲撃が増えてるらしいし、魔王軍の前に潰しておきたいんだろ。そこの掲示板の通り、幹部には高額な懸賞金がかけられてる」
「ふ~ん」

 不動颯太は指名手配書の内容を見てみた。
 手配書は、かなり精緻に描かれた似顔絵もあれば、雑に描かれた似顔絵、そもそも似顔絵すら無いものもある。似顔絵は【念写】スキルや【精神感応】スキルによるもので、実際に素顔を見られた構成員は少ない。名前も異名ばかりである。それだけ、コンテネス盗賊団が巧妙に姿を隠しているのがわかる。
 手配書だけでなく通常形式の依頼書もあった。奪われた財宝や誘拐された人の奪還の依頼書や、拠点の位置情報を突き止めただけで報酬が出る依頼書もある。

「まずは普通の依頼からだな」

 不動颯太は特設掲示板ではなく、通常掲示板の依頼を受けることにした。
 多くが真人種である盗賊を倒しても経験値を得ることができない。手配書には「生死は問わず」の記述があったが、そもそも不動颯太は悪人でも同族である人間を殺してもいいとは思えなかった。できる限り生け捕りにし、然るべき法によって裁かれるべきだと考えていた。たが【アスポート】は殺傷には向いているが生け捕りには不向きだ。暴漢を生け捕るにはスキルに頼らない純粋な戦闘能力が必要となる。
 このような理由から、不動颯太はまず沢山の魔獣を倒してレベルを上げることに専念しようと考えたのだ。

「この依頼をお願いします」
「かしこまりました」

 不動颯太は明日分の仕事として選んだ依頼書をレンティカに渡す。
 不動颯太が選んだ依頼書は達成難度C級の「角野兎レプス・コルヌトゥスの角の採取」。期限は二週間も先だ。期限が長い依頼はこのように、実際に仕事に取り掛かる数日前から受注予約しておくことも可能である。

「ふう、今日は疲れたし、本でも買って宿で休もうかな」

 本屋にでも行こうと考えた不動颯太がギルドを出ると、建物の影に隠れていた謎の人物が彼の前に立ちはだかった。

「待っていたわよ、フドー・ソータ」
「え? 誰?」

 謎の人物は不動颯太より僅かに身長が高く、藍色の髪を持つ少女で、高価そうなドレスを着ていた。メイム王国第二王女、ブロッサムである。

「単刀直入に言うわ。私のオモチャ……じゃなくて、私のしもべになりなさい!」
「はい? というか、誰ですかあなた」

 当然のことながら、両者は初対面である。ブロッサムも不動颯太のことを実際に見るのは初めてだが、名簿からその特徴を知っていた。髪色や瞳の色などの人種的特徴と、冒険者とは思えない子供のような容姿から、ひと目で不動颯太だと分かったのだ。

「おっと、自己紹介を先にすべきだったわね。私はメイム王位継承権第18位、ブロッサム・カトル・メイム。この王国の第二王女よ!」

 ブロッサムは周囲に人気がないことを良いことに、堂々と自己紹介をする。
 ブロッサムは現国王の四人目の子である。本来なら王位継承権は第四位であるのだが、例の問題児っぷりの影響で継承権順位を最下位まで落とされているのだ。

「はは、まさか。お姫様が俺に何の用ですか」

 不動颯太は、まさか王女が護衛も付けずに自分に合いに来るとは思ってもいないので、貴族の娘のイタズラか何かだと思って笑った。

「さっきも言ったけど、私のしもべになりさない。しもべっていう表現が嫌なら、騎士でもいいわよ」
「ええ?」

 不動颯太は笑いながら困った。

「あ、いた! ブロッサム様ー! 城にお戻りくださいー!」

 遠くの方で、執事服を来た男と兵隊たちが大声を上げながらこちらに向かって走ってきた。

「バカ! 名前を言ったら町民に聞かれてしまうだろ!」
「あそっか、姫様ー!」
「それもダメだ、お嬢様と呼べお嬢様!」
「お嬢様ー!」

 何やら男たちは漫才のようなやり取りをしながら焦った様子でいる。

「げっ! もう見つかったわ! 良いこと? 今度合いに来るときは正式に私のしもべになるのよ、その時までに準備しておきなさい!」

 ブロッサムはそう言い残して、一目散に逃げていってしまった。
 不動颯太は訳が分からず、ただ立ち尽くして追われるブロッサムと追う男たちを眺めていた。
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