無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい

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第1章 イリス大陸編

第13話 S級冒険者

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 早朝、二日目の夜間警備を終えた不動颯太ふどうそうたはギルドに戻って朝食を取っていた。

「どうだ、夜間警備の調子は」
「相変わらず暇ですね。真っ暗な景色をずっと眺めててもつまらないですし。おかげで夜目はちょっと利くようになりました。あ、それと、余りに暇だったんでスキルの練習してたおかげで、かなり遠くの物もアスポートできるようになりました」
「そうか、それはよかった。夜間警備は暇だし報酬も安いからやりたがる奴が少ねえんだが、警備しながらスキルの練習できるんなら一石二鳥だな」

 不動颯太はギルマス代理とカウンターで会話をする。
 ギルマス代理は暇さえあればすぐに不動颯太に話しかけていた。それはギルマス代理が世話焼きな性格であり、不動颯太が初々しく危うい様子を見せることがあるので構いたくなるからだ。加えて、もうひとつ理由があるが、今は割愛しよう。

「そういや、その腰に差してる筒はなんだ?」
「あ、これは望遠鏡と言って、遠くの物を観察することができる道具です。雑貨屋で特注で作ってもらいました」

 不動颯太は腰に差していた望遠鏡を取り出し、カウンターに置く。
 この世界では、眼鏡は広く普及している。だが望遠鏡は存在はしているがメイム王国ではほとんど流通していなかった。夜間警備やスキル【アスポート】において活用できる思った不動颯太は、雑貨屋の眼鏡職人に原理を説明して簡易的な望遠鏡を作ってもらったのだ。

「どういう仕組みなんだ?」

 ギルマス代理は望遠鏡を手に取り、実際に覗いて見た。

「詳しいことは俺も分かりませんが、要は眼鏡みたいにレンズによる光の屈折を利用してるんです。これは簡易的に作ってもらった試作品みたいな物なので、まだまだ改良の余地がありますが」
「へえ、すげえな」

 不動颯太の簡易望遠鏡はピントの調節もできず、見える像も歪みが酷かった。なので、彼は収入次第ではあるがこれから眼鏡職人と協力して、距離調整機能やピントの調整機能、伸縮構造を持たせるつもりであった。

「お待たせしました、フドー様。こちらが本日分の報酬となります」
「ああ、ありがとうございます」

 レンティカが不動颯太に小さな銀貨数枚と領収書のような書類をカウンター越しに渡す。レンティカは会釈するとすぐに別の仕事に取り掛かった。

「ふと思ったんですけど、この国の通貨って銀貨ばっかりですね。種類も多いし」
「そりゃあお前、このメイム王国は銀の都と呼ばれるほど世界有数の銀産出国だぞ。こんだけ戦争に力入れて国が崩壊しないのは銀鉱山のおかげってわけさ」
「へえ~」

 メイム王国は聖魔大戦に参戦してからは多くの人間を兵士として戦場に送り出している。その分、国内生産は大幅に減少したため食糧や物資の多くを輸入に頼っている現状なのだ。不動颯太はこの事を城での勉強会で習ったはずだが、興味がない分野だったためか失念している。

「ん?」

 騒がしい能動組の冒険者たちが依頼に出掛けてギルドが比較的静かになった頃、ギルマス代理が入口の方を見た。
 不動颯太が振り向いて入口の方を見ると、見知らぬ男が立っていた。

「おい、あの耳のタグ……」
「ああ、間違いねえ、S級冒険者だ。どこの国の奴だ?」

 男の登場でギルドは一瞬だけ静まったが、すぐにざわつき始める。
 男は軽装で、白金のタグを片耳にイヤリングのように装着していた。白金の冒険者証は、冒険者ギルドでは最高位に位置するS級冒険者のものである。

「ストレー王国国境ギルドのジャンパーという者だ。ギルマス代理は居るか?」

 ジャンパーと名乗る男はカウンターに向かい、ギルマスに話しかけた。

「俺がギルマス代理だ。まさか、例の支援の件で来てくれたのか? アンタ程の者が来てくれるなんて、ありがてえ」

 ギルマス代理は、隣国の大物冒険者の訪問に少し興奮気味になった。
 二日前、メイム王国のB級パーティが城下町付近で全滅した事件を受けて、東の隣国ストレー王国のギルドに支援を要請していた。ギルマス代理は、その支援が到着したと思ったのだ。

「いや、支援は既に送っている。三大魔獣が出現したと想定し、勝手ながらA級冒険者を四人ほどサイク山に送らせてもらった。だが、全員消息を絶った。昨日のことだ」
「な、なんだと……」

 重なる冒険者の訃報を受け、ギルマス代理もたむろ組の冒険者たちも驚きざわついた。

「俺のスキル【テレポート】は、訪れたことのある場所や視界内の任意の場所に俺自身と装備品をテレポートさせるスキルだ。昔、サイク山の近くに訪れたことがあったため、そこに【テレポート】でA級を四人送って調査させた。俺は忙しくて同行できないから、調査終了後に落ち合えるように待ち合わせをしていた。だが、約束の時間になっても奴らが現れることはなかった」
「ば、馬鹿な。A級パーティが負けるなんて…… そんなことこがありえるのか?」
「さあな、三大魔獣の上位種や国摘みが出たのかもしれん。どちらにせよ、ヤバい何かが居るのは間違いない。メイム王国の役人たちには俺から先に報告させてもらった」

 ギルマス代理とジャンパーはカウンターを挟んで会話をしている。不動颯太はその間に挟まっているような状態になっているので気まずく思った。邪魔になるとも思ったので不動颯太は席を移動した。

「あの、さっきから会話に出てきてる三大魔獣ってなんですか?」

 ギルマス代理とジャンパーの会話に知らない単語を聞いた不動颯太は、近くに居た冒険者に問いかける。

「そっか、あんたはルーキーだから知らないんだな。三大魔獣っていうのはな、聖界に出現する魔物の中でも特に凶暴な三種類の魔物のことだ。冒険者が出合いたくない魔獣トップ3って感じだ。たしか……ドラゴノイド族、エルノイド族、スライム族がそうだな」
「スライム……?」

 不動颯太はスライムと聞いて違和感を覚えた。ファンタジーの物語ではスライムは最弱のモンスターに分類されることが多いからだ。何より、スライムなら三日前に何匹か倒している。

「スライムなら、この前サイク山で倒しましたけど……」
「ん? スライムを倒した? なはは、面白いこと言うじゃん。スライムは最も下位の種類でもA級冒険者に匹敵する強さだぞ? 無理無理、あんたじゃ出合った瞬間即死だって、なはは!」
「…………」

 独特な笑い方で馬鹿にされた不動颯太は少し腹が立った。だが、よく考えてみれば数日前に討伐した魔物がスライムであるとは限らなとに気付いた不動颯太は、自身の勘違いかもしれないと恥ずかしさも少し覚えた。
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